第5話 編集作業突入

「さて、自己紹介も終わったことだし、どこからはじめようか?」

「ところで……冊子の編集ってどうやるんだ……?」

「……さぁ……?」

 みんな素人なので、どこから初めて良いものやらさっぱりわからない。

 さて、どこから手を付けて良いものやら……

「原稿作ってコピーするだけだろ?簡単じゃん」

「で、その原稿はどう作るんだ……?」

「……さぁ……」

 と、みんなでああでもないこうでもないと思案していると校内放送で呼び出しがかかる

『1-3、1-4のレクリエーション合宿しおり作成係の生徒は職員室へ来てください。繰り返します、1-3、1-4のレクリエーション合宿しおり作成係の生徒は……』

「……町田先生から呼び出し?なんだろう?」

「……呼び出されるのってあんまり良い感じしないね……」

「とりあえず、職員室へ行ってみるか……」

 呼び出されたので全員そろって本日二度目の職員室訪問。


「いや、そういえば編集作業の進め方をまったく説明してなかったと思ってね、ごめんごめん」

「いえ、聞いてなかったこっちも悪かったです。ちょうどどうすればいいか困っていた所でしたし」

 何か怒られるのかと思って緊張していたけど、そうではなかったようだ。

 そう言ってゴソゴソと机の上から探し出した、プリント数枚を渡される。

 そこには表になった二泊三日のスケジュールと持ってこないといけないもの、持ってきては行けないもの、注意しないといけない事とか書いてあった。

「絶対に書かなければいけない事項はここに書いてありますが、それ以外は好きに書いてください。イラストを入れてもいいですし、訪問先の情報とかでもいいです。あ、表紙はなるべく派手に目立つようにお願いしますね」

 ……なるほど……

「ページ数は何ページでもいいけれど、両面コピーするので4の倍数で。でもあんまり多すぎると編集作業が大変になるからほどほどにした方がいいでしょうね」

 これ、参考にと去年の冊子を渡される。

「見ると当日まで楽しみでテンション上がるような、帰ってきてもう一度見直したら楽しい記憶を思い出せるようなのをよろしく!」

 難しいことをおっしゃる……

「作業は携帯でもPCでもアナログ……紙で原稿作ってもいいけどどうする?PCなら人数分のノートPC貸すけど。スペックが足りなければPC教室のを使ってちょうだい」

「どうする?誰かPCで作業の仕方わかる?」

「僕はPCは扱えますけど、そういう作業はほとんど……」

「私はまったく」

「俺もまったく」

「……オレもさっぱり……」

「じゃぁ紙で原稿作る?それでもテキストだけPCで打ったのを印刷して切り貼りとかも出来るけど、完全手書きでもいいよ?字がきれいな人の負担が大きくなるけど。今なら携帯からでもそういうアプリで作れるかしら」

「いやでも、フリック入力で全部打つのはかなり大変だろうし、全部打てたとしてもそこからどうしよう?そんな長文に加えて画像や図を並べてあの小さい画面で全体を見渡して把握して編集作業が出来るアプリもあるのかしら……?文字・絵だけ印刷して配置は紙の上でやった方が早そうだけど、それなら最初からPCで……いやでも、PCに慣れてないなら出来るだけ携帯で作業して後は切り貼りした方がPCに慣れるより早い……?」

 先生は何やらブツブツと言い続けている。

 その昔はタブレット端末を生徒一人につき一台ずつ配ってIT教育に力を入れていた時代もあったようだけど、携帯端末の進化が思ったより早く、予算の無駄じゃね?という声に圧されて今は小・中でPCの存在・使い方をさらっと教えるだけ、高校では選択授業で趣味人が選ぶか、他の授業を選びたかったけれど人がいっぱいで仕方なく選ぶ……そんな立ち位置になってしまっている。

 つまり、この時代にキーボードが打てる人間なんてかなりの変わり者、ブラインドタッチが出来るとかほとんど特殊技能かもしれない。

 僕も、一応PCは使える事は使えるけど、そういう原稿を作る、みたいな凝った作業が出来るかと言われると不安しかない。そりゃ素人よりかはマシだろうけど、最悪完全に全部手書きにする……?しかしその手間がなぁ……とか考えていたら意外な人が手を挙げた。

「……私、わかります」

 仏頂面でここまであまりしゃべらなかった竜崎がぼそりと言ったのでちょっと驚いてしまった。

「そう、なら大丈夫ね。ああ、スケジュールとかのデータも渡しておいた方がいいかな」

 そう言いながらまた机の上から探し出した、10cm×10cmサイズのプラ製のカードだか板だかみたいな物体と、お弁当箱サイズの装置を渡される。

「……なんすかこれ?」

「3.5インチのフロッピーディスク。と、そのドライブ」

「……いんち?ふろっぴーでぃすく?」

「ああ、インチは気にしないで。もっと死んだ単位だから。フロッピーディスクは旧世紀の記憶媒体。でもテキスト程度のデータのやりとりならまだ十分使えるの。あ、ディスクもドライブももう売ってないから大事に扱ってね。使い方は……」

 ひとしきり、その板やら機器やら、そこから出ているケーブルやらをPCに指したりして説明してくれるのを聞く。

「……なるほど……」

 機械がかなり古いからどうなるかと思ったけれど、使い方自体はPCに機器を繋いでそのプラ板を突っ込むだけなので簡単っぽい。その他、作業の進め方とか締め切りとか聞いた後、最後にだいぶくたびれた古めのノートPC5台を受け取って作業教室に戻って、さっき構築した作業机に各々PCを置いてイスに座る。

「まずはキーボードに慣れる所からかな……とりあえずメモ帳開いてみて?」

「めもちょう?今持ってないんで生徒手帳の後ろの方でいいかな……?」

 ……そこからかーい!

「ああ、うん、そっちでもいいけど、今はPCので……」

「ああ、うん、メモ帳ね、わかるわかる。これだよね……?」

 と、今度はノーパソの画面で指を動かそうとする。

「……あれ?動かないよ?」

「ああ、タッチパネル対応してないみたいだから、マウスを使って……」

「まうす?ミッキー?」

 お、おh、そこからか……

「ちゃんと知ってるよ?え~っと、マウスでしょ?黒い丸が三つ……みたいな?」

 ミッキーから離れて……

「え~っと、これこれ。たぶん使ったことあるはず」

 そう言って外されてたマウスを取り出して接続する。

「ああ、それ!うん、ちゃんと知ってる!中学の時に使った覚えある!」

 今度は荒砥から。

「……文章打つのに携帯のフリック入力でもいいの?結構早く打てるよ……」

「ああ、それでもいいけど、いつも良く使う単語なら候補も出るから早く打てるけど、今回みたいな馴染みのない文章だと時間かかるかも」

「なるほど……」

「……で、私は何すればいい?」

 次は竜崎。

「竜崎は……さっきもらったフロッピーディスクのドライブ接続出来る?出来たら中身を確認してみて」

「……ん、わかった」

「大変だなぁ」

 そして早乙女が最後に他人事のように言う。

「どの口が言うかな……」

 それから”あ”を打ったのに、”3”になっちゃうよ!?ああそれは……とか、そんなやり取りを30分ぐらい繰り返してすっかり疲労困憊してしまった。

「……ちょっと休憩しよう……」

「……そうだね……」

「……賛成……」

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