第6話 タイムリミット、下校せよ

「そういや、ここに入って一か月ちょっと経ったけど、みんな学校にはもう慣れた?」

 ひと段落して休憩に入った弛緩した空気の中で早乙女が話を振る。

「私は……まだまだかな?」

「オレはだいぶ」

「僕は……僕もまだまだ」

「…………」

 ただし、竜崎一人だけは雑談を無視して黙々とカタカタとキーボードを打ち続けて真面目にPC作業を続けている。

「勉強についていくの大変……」

「中学とはだいぶ違うね」

「そうなんだよね。かなり難しい」

「勉強といえば、受験勉強はどうだった?かなり勉強した?それとも楽勝?」

「かなり勉強したよー!?夏休み辺りからは特に!」

 基本3人で盛り上がるのも何なんで、ずっと黙ってるもう一人にも話を振ってみる。

「竜崎は余裕だったよな?成績いいし」

「……いや、そんな勉強得意じゃないし……つーかさぁー、」

 一人だけPC作業に没頭していた竜崎だったが、一応話は聞いていたようだ。

「雑談するだけで、作業しないなら早く帰りたいんだけど?」

「えっ!?……お、おうっ?」

 なんかいきなり真面目な事を言われてちょっと驚いてしまった。

 いや、当たり前っちゃ当たり前の事なんだけど……

 そう戸惑っていると怖い目つきでまた睨まれた。

「……なんか問題ある?」

「いや、いつも授業中でも後ろの席で普通に寝てる人がいきなりそんな真面目な事言うからちょっと驚いてしまって」

「わっ、私はいいんだよ……真面目じゃないし……」

「いやでも、小学生の真面目な竜崎だった頃を思い出して、僕は嬉しいよ……」

「え?そんな昔からの知り合いなの?竜崎さんと芹沢君って!」

「うん、まぁ。そう考えると長い付き合いだね」

「小学校の頃とはそんなに違うの?」

「そりゃぁもう……というか、小学生の時からこんなヤンギャルだったら驚くw」

「確かにw」

「いや、そんなに変わってないし……」

 まぁでもそうだよな。時間も押してるし。

「じゃぁそろそろ仕事再開しようか?」

「そうだよね、やろうか」

 ……しかし、それを華麗にスルーする早乙女。

「そういえばさー、竜崎ー」

 さっきからの話の流れで竜崎に話を振る早乙女。

「……ん?何?」

「毎朝毎朝、校門蹴ってて疲れない!?」

 ブふぉッ

 思わず噴き出した竜崎が必死で誤魔化している。

「いや、疲れないから。校門蹴るの大好きやし」

「マジか、でもそろそろ歪んでくるんじゃね!?明日には曲がって閉まらなくなるよ!?」

「いや、大丈夫だし。つーか、卒業するまでにはあの鉄扉、スクラップにしてやるし」

 また適当な……しかしそんな適当な話題に南原さんが話に乗る。

「何それ!私見たことないよ!?」

「え?あれだけ毎日やってるのに!?」

「登校時間も電車の方向も違うからかな……?それ、いつなら見られる!?」

「いや、見世物じゃないから」

「オレも見てるよ。スゲー蹴り!って毎日思いながらその横を通ってる」

「いや、すごくないから」

 あまりしゃべらない荒砥まで乗ってきた。

「毎日、校門が曲がるまで蹴ってから登校してるの……?変わったシュミだね……?」

「いや、シュミでもないから」

「じゃぁ蹴りの練習?やっぱ、竜崎さんって見た目通りヤンキーなの?ヤンキーキック!?」

「ヤンキーでもないから」

「んんっ……?じゃぁなんで……?」

「……それは……」

 理由を聞かれた竜崎は目をそらしてモゴモゴと口ごもる。

「やっぱりヤンk」

「いや、ヤンキーちゃうし……」

 こうなったらフォローも含めて全力で話に乗るしかない。

「そんな暴れて蹴って喚いて叫ぶ竜崎の腕を早乙女と二人で抱えてね、平身低頭、田中先生に謝って毎朝教室まで引き摺っていくんだよ。それが大変でさ!」

「そうそう、それを毎日!今日はこれぐらいにしといてやらぁ!って捨て台詞を叫んでるのをクラスまで引き摺って行くんだよね!」

「そんなに大変なら、私も手伝おうか……?足ぐらい抱えられるよ……?」

「オレも手伝ってもいいよ……?」

「荒砥も手伝ってくれる?じゃぁ明日から、よろ!」

「いや、手伝わなくていいし、そんなに暴れてないし、大人しいもんだし……」

「でもいつも私が登校する時間じゃダメなんだよね……」

「それは明日ギリギリに登校した時のお楽しみってことで!」

「そっかぁ、明日楽しみだなぁ!ちゃんとギリギリに来るね!」

「いや、来なくていいから!」

「……え~っと、今度こそ雑談はそろそろ終わりにして編集作業に……」

「……そういえばさ!!」

 またしても早乙女に華麗にスルーされて、そんな感じの雑談をダラダラ続けて結局その後の編集作業はまったく進まずに、本格的な作業は明日以降ってことになった後になってもまだ、ああでもないこうでもないと打合せもなってない雑談を続けていると……


『♪チャーラーララーチャーラーララ、チャラーラララ~↑♪』

『……下校の時刻になりました。まだ校内に残っている生徒は速やかに帰りましょう』

 とうとう蛍の光が流れてきて、しばらく曲が鳴った後に放送部のアナウンスもはじまってしまった。

 まさか、初日からこんな時間まで居残るとは思ってもみなかった……

「あれ?もうそんな時間!?まったく作業出来なかったけど楽しかった!」

「今日はこれぐらいにして、そろそろ帰るか!」

「……クッ……」

 そんな雑談していたら、思いの外盛り上がって(作業は進まない所か、ほとんど始まりもしなかったけど)いつの間にかすっかり夕方になってしまって、夕日がもう沈みかかっている。この時間だと帰る用意をして鍵を帰して学校を出る辺りになるともう暗くなっているかもしれない。

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