第4話 メンバー紹介作戦

 そんな風に、お互いの手を褒め合ったり手を握られたり擦られたり絡められたりする妙なシチュエーションの所に、掃除を済ませた早乙女が表れた。

「いよっ、盛り上がってるじゃん!」

「お前なー、どの口が言うかな……」

「あ、こんにちはー」

 後ろの僕の方を見ていた南原さんが早乙女が来たのに気づいて挨拶をする。

「南原さんだよね?俺は早乙女疾斗!この芹沢の友達!よろしく!」

「え?私のこと知ってるの!?」

「そりゃ、隣のクラスのめっちゃ目立ってる美少女だし!」

「ふふふ、ありがと」

 つーか、あんた校内の女の子全部チェックしてるやん……

 仕方なく話の流れに乗って二人で接待モードに突入する。

「こいつこいつ!こいつがさっき言ってた推薦したヤツ!」

「へへっ!」

「へへっ、じゃない!」

「そうなんだ。じゃぁこの出会いに感謝だね!」

 そこで早乙女が僕たちの手元に気付く。

「それはそうと……なんで手を繋いでんの……?」

「ああ、これは……成り行きかな……」

 急いで指を離そうとしたけど南原さんが離さない。

「だめ!離しちゃだめだよ!」

「お、おう……じゃぁこのままで……」

 仕方なく指を絡めながら話を続ける。

「後、3組は誰が来るの?」

「竜崎って子。4組は?」

「荒砥くん。もうすぐ来ると思うんだけど……」

「あらと!?」

「あれ?荒砥君、知ってるの?」

「うん、まぁ微妙に……?体育の授業とか同じだしね……?」

 知ってるの理由はそれだけじゃないのだけど、適当にごまかす。

「あいつ、目立つからね。いつもこのクラスの女子も噂してるしさ!」

「確かに。すごくイケメンだもんねぇ」

 会話に夢中になっていて周囲への注意がおろそかになっていたけど、視界の端の方を気になる何かが通り過ぎた気がしたが、会話を盛り上げるのにいっぱいいっぱいであまり気にせずにスルーしてしまう。そんなノリのまま早乙女がいきなり提案する。

「じゃぁさ、今度遊びに行かない?今週末なんてどうよ?」

「行きたい行きたい!」

「よしっ!芹沢も行くよな?」

「う、うん、でもどこ行く?」

「ハーバーシティでいいんじゃない?」

「いいよ!そうしよう!楽しみ!」

「じゃぁ、打ち合わせはメッセで!ID教えてよ!」

「おっけー!」

 出会ってたった数分でさりげなく美少女のIDを聞き出している……恐るべし陽キャ……

 しかし、その時だった。

 ……ガンッッ!!

「ぅうわおおっぅ!」

 座ってる椅子に衝撃が走る!

 驚いて振り返って後ろを見ると、僕が座ってた椅子に蹴りを入れた竜崎が仁王立ちしていた。

「……そっ……それッ、私も行くに決まってんじゃん!」

「あっ」「えっ!?」「マジ!?」

「……ダメなのかよ?」

「いや、こういうイベントに興味ないかなー?って思って……?」

「……ああん?」

 ヒイイィッ!!すごい目力からくる圧力で、キッと睨まれた。

「じゃぁメッセのIDを……」

「チッ」

 舌打ちされながらもIDを交換する。怖い……


「や、盛り上がってるね……遅れちゃってごめんね……?」

 そんなやり取りをしていると、最後のもう一人がやってきた。

「遊びに行くの?オレもいいかな……?」

「ああ、いいよ!一緒に行こうぜ」

「そう?ありがとう」

 おお、さすが早乙女。イケメン相手でも躊躇がない……

 その最後に来たのが、この荒砥櫂。

 ……こいつが荒砥櫂か……!お噂はかねがね……というか、隣のクラスで体育の授業は一緒だし否が応でも目立つので、視界の端でちょっと見えるだけでも気になってしてしまう。実は残念なイケメンと言われているのも聞いたことがあるが、真相はよくわからない。何やら外見から受け取るイメージがかなり違うらしい……とにかく、あまり口数が多い方ではないらしい。

 まぁそれは置いておいて、これでメンバー全員揃ったので行動に移すことにする。

「じゃぁ、メンバーも揃った事だし、まずは作業教室を決めよっか」

 遊びに行く話は一旦そこで終わって、揃ったメンバー全員で作業場所の選定の為にだいぶ静かになった校内をうろつく。


「あんまり遠い教室じゃない方がいいよね」

「でも近すぎると騒がしいかもだし……でも空いてるかな?」

 とはいえ、もうすでに先約があるとか、よっぽどじゃなければ選び放題で、逆に選びにくいまである。これは昭和の頃の大量に生徒がいた時代の名残らしくて、使われていない教室がたくさんあるのだ。それでも色んな名目で整備して使われている教室もあるが、まだまだ余っている。……そんな使われていない教室が、また生徒でいっぱいになる時代が着たりするのだろうか。

「この辺りでいいんじゃない?」

「そうだね、ここいいよ!」

 ああだこうだ言いながらも、適度に近く、適度に静かと思われる教室候補が決まった所で鍵を貰いに行く。まぁ鍵をもらうだけなら代表者一人でいいようなもんだけど、顔見せの意味も込めてみんなで職員室の町田先生の所へ行く。

「3階の渡り廊下から東側の三つ目の教室で作業することにしたんですけど、空いてますかね?」

「え~っと……うん、空いてる。この鍵だね」

 これで無事に鍵をゲット。そこで一緒にいる早乙女に気づく。

「あれ?早乙女も?」

「ああ、俺は手伝いで」

「そうか。まぁ芹沢は早乙女の推薦でなったんだものな。しっかり手伝いなさい」


 鍵を開けて中に入ると、空気が澱んでいて埃の匂いがした。かなりの間、使われてないっぽい。こりゃ掃除からしないといけないな……

「男どもで机イスを出しておくから女子は教室から人数分の雑巾取って来てくれる?」

「おっけー!」

「……ん、わかった」

 まず窓を開けて空気を入れ替えてから、後ろの方にまとめて積み重ねてあるイスと机を解体して移動させる。

「何個ぐらいいる?」

「イス5個に机も5個でいいかな」

「いいんじゃない?」

 机を並べて軽く掃除する。これで作業環境は整った。

「それじゃぁまず、軽く自己紹介からしようか?僕は芹沢甲太郎。よろしく」

「それだけじゃなー、あっさりしすぎだろ。もうちょっと具体的に!趣味とかあるだろ!?」

 あまりにもあっさりした自己紹介に、早乙女から突っ込まれたので追加して何を言うか考える。

「ああ、うん、え~っと……趣味はPCの組み立てかな?でもPCの使い方がわかってるだけで、今回の原稿作成に使えるスキルはほとんどないです」

 続いて南原さんの自己紹介に移る。

「南原瀬良です。得意な事は勉強かな……?」

「荒砥櫂だ」

「……竜崎美晴……」

 荒砥に続いて、あまりにもあっさりしてるので、仕方ないのでフォローを入れる。

「この人、見かけはヤンキーだけど、意外と真面目なんだよね。成績もいいし。授業中は寝てばっかりだけど」

「……いや、ヤンキーちゃうし、全然真面目ちがうし……」

 照れてるのか怒ってるのか、微妙は反応だ。

「最後に俺は早乙女疾斗!えっと……なんとなくここにいるけど、正規メンバーじゃなくて、編集手伝い及び雑用……?なんかそういう仕事があればやるからよろしく!」

「いやいや、お前もあっさりしすぎだろ?」

「まぁまぁ、いいじゃん、ただの手伝いだし!」

 まぁいっか、これでも。

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