第3話 隣のクラスのJKと馴染め!

 新しい席に移動が終わったザワザワも落ち着いて、連絡事項の伝達を一通り終わらせた後に町田先生がこう切り出した。

「最後に、来月初めに行くレクリエーション合宿についての事なのですけど、隣の4組の係と一緒に合宿で使う冊子を作る係を決めます。所謂、修学旅行のしおりみたいなやつですね」

「男女一人ずつなのだけど、誰か立候補、又は推薦したい人いない?」

 そう言って一旦教室を見渡すけれど、まぁこんなの率先してやりたいヤツはいないよなぁ……きっとこのまま最後まで決まらずにクジ引きになるに違いない……と、予想していたのだけど……

「はい!芹沢君がいいと思います!」

 ぼふっ

 ぼーっとHRの成り行きを見守っていたら自分の名前を出してきたので噴き出してしまった。

「いやいやいやいや、何言ってんの!?」

「まぁまぁ、いいからいいから!」

 何がいいのかさっぱりわからないけれど、HRは進んでいく。

「じゃぁ男子一人の候補は芹沢で。もう一人女子の立候補、又は推薦はない?」

 そういって町田先生は見回すが、誰もいない。まぁそうだよな。女子はさらにいないやろ……今度こそクジ引k……

 とか思ってたのだけど、意外な人が名乗りを上げた。

「……はい、私が立候補します」

 そう言って手を挙げたのが……振り返って驚く。

 つまり僕の後ろの竜崎だったのだ。……さっきまで寝てたのにっ!?

 それから推薦も立候補もなく、無事に?係は僕と竜崎の二人に決まった。決まってしまった。

 なんてことだ……

「えーっと、じゃぁ今日の放課後この教室に4組で決めた係の子たち二人も来ることになってるから、芹沢君と竜崎さんはここで顔合わせして作業する空き教室を決めたら鍵を取りに職員室へ来て下さいね」

 ……なんというか、思いがけず面倒なことになってしまった……

 ……あああー、憂鬱だ……ただでさえ憂鬱なイベントの前に、それまでの期間に何かしないといけないだなんて……それも見ず知らずの人と、ついでに竜崎と作業しないといけないなんて憂鬱だ……正直かなり逃げだしたい……


 そんなどんよりした気持ちのまま、問題の放課後になってしまった。

「ばいばーい」「また明日ー」

 掃除が終わって、部活へ行くか帰る為に教室に出たり入ったりするクラスメートにあいさつをして見送っていると、雑談するために残っていたような級友も三々五々に散って徐々に減っていき、編集作業のメンバーを待っている僕ともう一人だけになってしまった。ちなみに竜崎はまだ来ていない。掃除が長引いているのだろうか。

 その僕以外に残ってた最後の一人のクラスメートが教室から出ようとした所で一人の女子生徒に呼び止められていた。

 あ……可愛い……

 最初の印象がそれだった。

 そういや、ちょくちょく見かけて子だっけ。隣のクラスだもんな、当然か。

 二、三、言葉を交わしてこっちを指さした後に、こっちの方に歩いて来た。

 ……あの子が4組のメンバーなのかな?なるほど、早乙女の狙いはこれだったか……


「こんにちはー!あなたが合宿のしおりの編集メンバーですか?私は南原なんばら 瀬良せらって言います!よろしくー!」

「こんにちは!そうです、僕は芹沢甲太郎です。こちらこそよろしく!」

「この席、お借りしますね……よいしょっと……」

 そう言いながら僕の前の席に座る。

「他のメンバーの人は?」

「まだみたいです。もう来ると思うけど……」

「私の組のもう一人も……まだ来てないみたいですね……」

 ああああ、緊張する……

 とりあえずメンバーが集まるまで雑談で盛り上げておくことにしよう。

「でもちょっと驚きました。こんな可愛い人が来るとは思ってなかったんで……」

「ありがとう、お世辞でもそう言ってくれると嬉しい!」

「あれ?あんまり言われないですか?」

「そうですね……あんまり言われないですね……」

「当たり前すぎてみんな言わないんですよ、きっと」

「そうなのかな?でもそうだね、そう思ってた方がいいかも!」

 ……しかし、来ないな……二人っきりでは間が持たない……

 こうなったら仕方ない、これはあまり話題にしたくはなかったけど……

「……所で、いきなり初対面のメンバーの人にこういう事を言っちゃうと不安にさせちゃうだけな気もしますけど、推薦でなっちゃったんですよね」

「あはは!そうなんだー」

「なので、編集作業って具体的に何やるのかさっぱりなので、めっちゃ迷惑かけるかも」

「ふふふ、まぁ私も同じようなもんです」

「でもかなりやる気になってきました!」

「どうしてです?」

「南原さんみたいな人と一緒に何か出来ると思うと!」

「私も嬉しいですよ。芹沢君と一緒に何か出来るの!」

 あー、可愛い子の笑顔を見てるだけで癒される……

「ところで、南原さんはなんでこんな面倒くさい係に?まさか、僕みたいに押し付けられたとか!?」

「私は立候補なんです。高校では色々新しい事に挑戦して見たくて。後、他のクラスの人とも交流が持てるし」

「へー、そうなんだ!」

「高校生活にはもう慣れた?4組の雰囲気はどんな感じ?」

「普通……?だと思いますよ?」

「担任の先生は?怖そうだよねー」

「うん、まぁ……そうかな……?町田先生は美人でいいんじゃないですか?スタイルもいいし!」

「まぁ見た目はそうなんですけど……あの先生、結構怖いですよ!?」

「そうなんですか!?見た目そんな感じに思えないなー」

「普段はそうでもないんですけど、ふとした時にですけど、人一人ぐらい殺してそうな目力で睨まれるんですw」

「あはは、そうなんだ!」

 待ち時間が意外と長くなって雑談も相応に続いていると、南原さんの視線がちらちらと下の方を見ているのに気付いた。

「……所で、私も初対面でこういう事を言っちゃうのもなんけど……ちょっと変なお願いしてもいい……?」

「え?何……?」

「芹沢君の手ってさ……すごくきれいだよね……もっと良く見せてもらっていい?」

「え!?いや、いいけど!?……どうぞ……」

 いきなりそんなことを言われて驚いたが、戸惑いながら手を差し出すと、丁寧に表から裏返したりまた表にしたりして、しげしげと見つめたり撫でるように触ったりしている。

「爪もツヤがあっていい形だし、指も長くて綺麗だし……手の甲もいい感じ……これはいい爪と指と手だよ……」

 そんな事を言いながら壊れ物でも扱っているかのように両手ですりすりと触って愛でる。

 終いには(本人は愛でる事に必死でまったく意識してないようだけど)指を絡ませてきて、いわゆる恋人つなぎ状態で、同級生の女子に、それもかなり可愛い子に手を握られた経験なんてはじめてだから緊張する。

「そ、そう?ありがとう……」

 はっきりいって、自分の手や指や爪なんて生まれてずっと見慣れているので意識したことなんてまったくないが、褒められるなんてよっぽどなんだろう。ありがたく受け取っておく。

「南原さんの手も可愛いと思うよ?というか、男子の手よりいいような」

「う~ん、まぁそうかもだけど、男性の手には男性の手なりの良さがあるんだよ!血管の浮き具合とかゴツゴツした中にも綺麗さがあったりして、色気があるというか!」

「お、おう……」

「これで爪を綺麗に伸ばしたらもっと良くなるよ!?」

「そ、そうかな……?でも爪伸ばすと引っかかって危ないし、割れやすくなるからなぁ」

「そっかぁ、残念だね……」

 さらに食い気味に提案されるが、ションボリさせてしまったのでフォローする。

「ああうん、でも、機会があれば伸ばしてみてもいい……かな?」

「本当?絶対だよ!?楽しみにしてるね!絶対見せてね!」

 そういうと、南原さんの顔がパァッと明るくなる。こりゃ一度は伸ばさないとダメかな……

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