第2話 入学初、席替え命令

「今日もやるんか……?」

「まぁ……ほっとくわけにもいかんしなぁ……」

「しゃーねーなぁ」

「今日も付き合ってくれる?ほんと、すまんね」

「まぁ、クラスメイトだしなぁ……」

 まったく知らない仲でもないので、何日か前からとうとう見ていられなくなって、思わず口を出してしまったのだ。最初の2~3回は一人でやってたのだけど、最近は早乙女も付き合ってくれているので感謝しかない。今日で何度目かだが、それでも慣れない事なので躊躇してしまうが、こういうのは勢いが大事なので、今日も意を決して行動に移る。

 竜崎の背後に二人で左右から忍び寄って……

「「生活指導の田中先生!誠に申し訳ありませんでしたッ!!」」

 そう叫んでから暴れている竜崎の両腕を二人でがっちり固める。

「教室でまたしっかり言い含めておきますので、今日はこれで!」

「お……おぅっ」

 校門を蹴ろうとした足は門扉ではなく空を切り、暴れる竜崎を引き摺って行く。

「ではまた!」

「離せッ!」

「まぁまぁ!」

 さすがに少し大柄な女子でも男子二人で腕を固めると暴れる勢いが削がれる。

 そんな感じでしばらく連行した所で、人ひとりぐらいなら十分殺せそうな目つきでキッとにらまれた。身長差もそうなく、元々端正な顔立ちにきつめのメイクを施している顔で、それもかなり近距離から凄まれるとかなりビビる。

「離してっ!一人で歩けるからッ!」

 校門からある程度離れた所で腕を激しく振り解かれ、校門を蹴ってた勢いそのままに、一人でプンスカしながらノシノシ歩いて行くのを二人して見送る。

「さすがに卒業まではやらないでいいと信じたい……」

「だよなぁ……」

 ここで竜崎に追いつくとまた面倒な事になりそうなのでゆっくり校舎の方へ歩いていると、教職員用出入口からこっちに歩いて来た担任の先生とすれ違ったので挨拶する。

「「おはようございます」」

「おはようございます」

 恐らく、竜崎回収のために出てきたのだろう。

 この人は町田先生……僕たち1-3の担任。身長が高く、筋肉質でスタイルの良い先生。といっても体育教師とかではなく、英語の先生。キリっとした美人なのだが、時折見せる視線は鋭くて、さっきの竜崎以上に怖いかもしれない。実は何人か殺してるんじゃね?……とか、まことしやかに言われているが、さすがに冗談だと思うけど。

 あれだけ校門では大騒ぎして教師に殴り掛かりそうな勢いだった竜崎も、この担任の前では借りてきた猫のようになっている。メイクもあれでもだいぶ大人しくなったっぽい。噂では最初はかなり反抗したものの、ボディブロウ一閃でリングならぬ教室の床に沈んだとかしないとか……

「今日もまた君らが?毎日すまないね」

「ええ、まぁ……一応、小学校からの知り合いですし、クラスメイトですし」

「助かったよ、ありがとう」

「いえいえ、先生こそお疲れ様です」

「では、私は校門に立っていた先生方に挨拶してくるので、また教室でね」

「はい、ではまた後で」

 そう言って颯爽と歩いていく担任を二人して見送ると、また昇降口の方へ向かって歩く。

「……担任の先生も大変だなぁ」

「だよなぁ……」

 まぁ、僕らの担任になってまだ一か月も経ってないから、これからの付き合いの方が長いだろうからもっと迷惑かけるだろうけど……とか思いながら、校舎に入って靴箱の所で上履きに履き替える。

「そういや、今日のHRは今度のオリエンテーション合宿の事を決めるんだって」

「あー、思い出した。そんなイベントもあったっけ。入学の時の年間スケジュール表で見た気がする。どんな事やるんだろう?」

「これからの高校生活の注意点とか、高校での勉強の仕方とか、野外炊飯とか、山登りとからしい」

「……わぁ、それは楽しみだなぁ……」

「本当に?楽しみにしてる?」

「……僕はどっちか言うとインドア派なんで……」

「そっか……でも仕方ない。諦めて楽しむしかないな」

「いつ行くんだっけ?」

「え~っと……確か来月の前半だったと思うから、ちょうど一か月後ぐらい?」

「……今から気が重い……」


「早乙女ー、今は携帯禁止だぞー」

「はーい、すぐに仕舞いまーす」

 その日の最後のLHRに、なぜか小さい箱を持って教室に入ってきた担任の町田先生の注意から始まったが、注意された早乙女はすぐに仕舞うこともなく、そのまま今日のHRが始まった。

「今日のHRではまず、高校生活初の席替えします」

「「「「おおーーー!」」」」

 教室中がどよめく中、前の席の早乙女がいじっていた携帯そのままに振り返る。

「芹沢ァ、席が離れても仲良くしてくれよぅ……」

「……う、うん……って言っても席が離れても同じ教室だし……」

 とはいえ、席が変わると人間関係も刷新される場合もある。その時は諦めるしかない。というか、早乙女の方が誰とでも仲良くなれるタイプで、僕の方が取り残されそうなんだけど。

「じゃぁ、今からクジの箱回すから、一人1枚ずつ引いていくこと~」

 みんなワイワイ言いながら用意された箱を回しながら入っているクジを引いていく。その間に先生は電子黒板に席の略図を描いてランダムに番号を割り振っていく。

 僕も箱が回って来たので一枚クジを引いて、書かれた数と黒板に書かれた机の配置に書かれた番号を見て僕の新しい席を探していると、方々でワイワイと喜んだり落胆したりする声が聞こえてくる。そりゃそうか、高校へ入って一か月ぐらい出席番号順だった席順が変わる初めての席替えだ。盛り上がるのも当然か。

 で、僕の席は……おおー!窓際の一番後……の一個前のかなり目立たないいい席だ。この学校自体が高い所にあるので、遠くまで良く見える。

「新しい自分の席を確認したー?なら移動初めてー」

 その声を合図にみんな一斉に机にイスを乗っけて新しい席に向かってガガガガガーっと移動を始める。

 窓から外の景色を眺めつつ、そんな感想を心の中で呟いていると、真後ろの(つまりこの列の一番後ろ)女の子……浜口さんが発言した。

「先生、私目が悪いので前の席の人と変わってもらっていいですか……?」

「おーけー。誰か代わってくれる人ー?」

「はい、私が代わります」

 手を挙げてそう申し出たのは前の方の席になった竜崎だった。

「じゃぁお願い」

 前と後ろの座席のコンバートが決まった二人が机と荷物を持って移動を始める。

 ……ということは、僕の後ろが竜崎になるのかーーー!

 つーか、竜崎も大概目が悪かったような……そんな事を思い出したけど、ガチャガチャと後ろの席から浜口さんが移動初めて、入れ替わり机に乗せたイスと荷物を持った竜崎が後ろの席まで移動してきた。

「……とりあえず、よろしく」

「……」

 しかし移動が終わって座席に座った竜崎にした挨拶にも返事はなく、いきなり寝始めた。これが狙いか……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る