第23話 死闘、神杜沖決戦!

 会敵予想時間まで、まだもう少しあるようだから、再度チェックする。

 何かしていないと落ち着かない。チェックをしながらぼんやり景色も眺める。

 神杜港の岸壁のある所から2kmぐらいだろうか。なるべく市街地に被害が出ないように、前回来襲した場所よりかなり沖に陣取る。

 サイガーエースの身長はおよそ60m。

 その、ほぼ頂点にあるコクピットから見える景色はかなり良い。天気も良いから遠くまで良く見える。正面には見渡す限り海が広がっていて、背後に港~市街のビル群~北の方にある山岳まではっきり見渡せる。

 もっともそんな絶景を楽しむ余裕なんてまったくないのだけれど。

 市街地に林立するビル群に目を向けると、その何棟かのビルの屋上には臨時に設置した観測所がある。拡大するとビルの屋上に陣取った観測員の姿が見えた。見ているこっちに気付いたのか、鉄帽を手に乗せて大きく手を振ってくれている。

 この作戦の為にビルの屋上に設置された観測所である。この他にも無人・有人の観測所が何か所か設けられ、何機かのドローンも観測の為に飛ばしているが、それらがジャミングされたりしたら人が直接観測所から情報を取得することになる。

 市街地では非常事態→避難を促すサイレンがずっと鳴り響いていて、広報車も走り回って絶え間なく退避を促すアナウンスをしている。

 さすがに前回の攻撃の後だと呑気にスマホを構えるようバカはもういない。というかもう、人っ子一人いない。この日の為に都心部からの退避計画が練られていたのだ。

 大きな道路は一つの車線を残して中心部から郊外への一方通行にして、バスや鉄道による迅速で円滑な避難行動を可能にしている。どうしても避難できない人たちには、急遽地下施設の一部を補強してシェルター化した区画へ避難誘導して今回の襲来に備えている。


『水中ドローンの計測によると敵は神杜港沖南10km、水深50mを70ノットで北上中』

 現在地を伝える通信がほぼリアルタイムで入ってくる。

 いよいよだ。

 エース形態の大腿に収納されている銃……サイガー・オートガンを抜いて戦闘準備する。銃と言っても60mの人型が持つ銃である。形は銃だけど、普通に大砲。口径8インチ(20.3センチ)、50口径長(砲身長約10m、口径の50倍の長さ)の大きさの拳銃?である。

 その銃をいつでも撃てるように構えて、待つ。

『会敵予想時刻までおよそ5分』

『……500m……400m……300……200……正面っ!』

 指揮所からの情報が逐次入って……カウントダウンが始まって……!

 ザバァァァァァン!!

 大きな水柱が立ち、海中から巨大な何かが現れ、立ち上がった水飛沫が晴れると、ようやくその何かがはっきりする。

 海水によって濡れてヌラヌラと輝く銀色の表面に、所々に円筒の突起と腕が二本に足が三本生えている機体。この間現れた機体と同じヤツだけど、今回は最初から合体済み。

 いよいよだ。

「作戦開始!」

 まずは打合せ通り、被害があまり出ないように陸に近づけないように、正面から銃を構えて牽制しながら動かないように対峙する。イメージとしては凶悪犯を前に「動くな!」と威嚇する警察官だろうか。

 出現と同時に観測班が観測した目標の射撃諸元が市内各所に隠蔽構築された重砲陣地、大口径野砲や各種誘導弾を載せた装甲列車等に伝達され、まずは155mm野砲群の砲撃が予定通り開始された。続いてHIMARS(高機動ロケット砲システム)の攻撃が始まる。

 最初は雨音程度だったのが次第に轟音に変わって、多数の重砲弾が空気を切り裂いて飛来する。

 ザァァアァァァアアアアアァァァァッ!!

 空から何十キロの鉄の塊が大量に落ちてくるって、こんな恐ろしい音がするんだ……

 そんな豪雨のような無数の砲弾が降り注ぐ騒音にかき消されそうな通信が入る。

『3、2、1、チャクダーーーンッ、イマッ!』

 炸裂する度に何度も閃光がフラッシュして、壮絶な爆音が響き渡って、爆風が海面を大きく揺らし、砲弾の破片が飛び散り海に降り注いで、沸騰するように沸き立ち、吹き上がった海水が雨のように降り注ぐ。

 この準備砲撃がどの程度の有効があるかわからないが、距離を詰めるために必要な事なのだ。

 そんな砲撃は時間にすれば2~3分だったのだろうが、かなり長く感じる。

 濛々と立ち上がった爆煙と霧のようになって巻きあがった海水の間から、敵機体の一部を切り取った大きい窓のような箇所が極彩色に怪しく輝き、発光、明滅している部分だけが見える。

「ぅッりゃーーーーーーーー!!」

 奇声をあげて自分にスイッチを入れて、左右のアクセルペダルを奥に踏み込む。こんなこと正気では出来ない。

 ドンッドンッドンッ!!ドドドン!

 三点バースト射撃で牽制しつつ、走りながら距離を詰めていくと(浅瀬でギリギリ足が付く深さ)ザブザブと白波が立つ。

 前回の襲来の戦闘記録からバリアーの対策をしなければならないことはわかっている。ただ、バリアーを展開している間はあっちも攻撃出来ない。最悪、都市部への攻撃を諦めさせて、また撤退させればとりあえず作戦は成功する。

 そこで考えられたのが接近戦だ。距離を取っていたらバリアーで防がれてしまう。

 前回の襲来の時、そのバリアーは何らかの理由で、下半身まで展開出来ない……か、もしくは海……水のようなものがあると物理的隠蔽能力がなくなるか、或いは減衰するっぽい?という事だけはわかっている。

 単純に、完全に物理的な隠蔽が可能ということは大気のような気体ならともかく、海水……水のような液体に内外を囲まれると身動きが取れないとか、そういう理由かもしれない。

 そこで……

 狙うのは下半身!!

 突進した勢いのまま、柔道の諸手狩りの要領で足を両手でガッチリ抱え込む。

「取った!」

 そのまま引き倒す。グラリと傾いて後ろへ倒れていく敵の機体。

 ザブンと大きな白波を立てて海面に仰向けに転がると、そこに馬乗りになる。

「しゃぁぁぁぁっっ!!」

 ドドドン、ドドドン、ドドドンっ!!

 さっきから握りっぱなしだった銃の残りの残弾をこの近距離で全部叩き込む。

 空になった銃は投げ捨てて、その後はひたすら殴る、殴る、殴る!

 しかし、途中から殴り続けられなかった。腕を取られたのだ。

 固められた腕と腕がギリギリときしむ。

「あっ」

 3本の長い足を生かして右斜め上に返されて、今度はこっちが仰向けに倒されて、身体が入れ替わって、逆に馬乗りになられて今度はこっちが殴られる番だった。

 ガシャン、ガコン、ガンッッ!!

 殴られる度に各部が破壊、故障した事を知らせる警報が鳴る。

 わかってるって、うるさいなぁ!

 ……とにかく早くこの状況から脱出しないと戦闘が継続出来なくなる……!

 しかし両腕は敵の足と腕に固められて身動きが取れない。

 ……どうする……?こんなどうしようもない状況でも何か……今唯一動かせる場所……

 ……あそこなら……?

 AAM(空対空ミサイル)を発射するために背部のウェポンベイが開けるスイッチを押す。

 ……が、エラーが出るだけで開かない。まぁ当然だろう。今はエースの背中側にあって、その背中が海底に押し付けられているので開くわけがない。

 なので、これをまずなんとかしなければならない。

 もっとも距離が近すぎて当たっても起爆するのか、そもそも角度的に当たるかどうかわからないけれど、ここから逃げ出すための隙さえ出来れば良いのだ。

 こうしている間も殴られ続けているのだけど、とにかく背中の、片側だけでもウェポンベイのハッチが開く隙間を作らなければいけない。

 動きを封じられている腕だけど、右側の肘を突っ張ってなんとか斜めに上体を起こす。

 もう少し、もう少し……!

 そうしてなんとか、扉の片側……右側だけ開いたOK表示が出る!

 海中で開いたため、中の空気がゴボゴボと海面に浮きだす。

「よしっ、いっけー!」

 発射トリガーを引くと背中側から勢いよく飛び出る二発のAAM!

 水柱を斜めに立てて海面から飛び出て、大きく弧を描きながら敵ロボットの背中に命中した!

 そこで拘束がゆるんだので脱出する。

 しかし、なんとか上手くいっていたのもここまでだった。

 そこでいったん距離が離れてしまった。

 早く!また接近戦に持ち込まないと……!と思ったが、今度はあっちから距離を詰めてきたのだ。

「わぁっ!?」

 三本の足を巧みに扱って器用に走ってくるとそのまま少し大きい身体を生かして、被弾の影響で動きが緩慢になっているエースの機体に三本の足の内の一本を器用に巻きつけ胴体と両腕を拘束して、残りの二本で体を支えて羽交い締めの状態で左腕は頭部を掴み引っ張り上げられるように持ち上げられて、ほとんど足が浮いてて、残った右腕で至る所を殴ってきた。コクピットのある頭部も渾身の握力で握りつぶそうとしてくる。

 機体の各部から衝撃が伝わってきて、コクピットもギシギシと全体が軋み、フレームが歪んでいく。頭部ガトリングの片側の一門が故障した事を示す表示が出る。

 ガンッ、グアァン、ガキィン!ギィィィィ……ガシャァンッ!

「ッ!」

 一際大きな一撃を喰らって、ヘルメット越しでもシートのヘッドレストに頭を強打して……

 そこで意識が飛んだ。

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