第22話 変形完了!サイガー・エース、推参!
『フォース・ゲート・オープン!フォース・ゲート・オープン!』
基地の一番外側の分厚い隔壁が開くと、最低限の照明が少しあるだけの薄暗いトンネルが現れる。そこでここまで引っ張って来てくれた牽引車は取り外され、個々に動力を持った登山鉄道で使われているような機関車の小さい版みたいのを、各ランディングギアに取り付ける。この今いる所からカタパルトの射出口のある場所までの軌道はラック式になっていて、ラックレール(歯軌条)にピニオン(歯車)を噛ませて進むので、かなり急勾配でも登ることが出来る。
トンネルと言ってもかなり巨大。それでもサイガー1の主翼・垂直尾翼を折り畳んだ状態でもギリギリ通れるぐらいの大きさでしかない。まだ全ての工事が終わっていないのか、壁が岩の地肌が見えている場所もある。
ミニ機関車の取り付けが終わると同時に大きなブザーが鳴り響き、またのろのろと前進を始める。ここからは全自動なので暗いトンネルをたった一人で孤独に移動だ。
コクピット内はタッチパネルと、このSFなメカには不釣り合いなアナログなスイッチやメーターの照明以外に室内灯が点いてはいていてもかなり暗い。これはタッチパネル上の情報だけで操縦自体は出来る……というかすることになっているのだけど、それがもし死ぬと操作が完全に不能になるということで補助的にアナログなシステムが最低限付いているらしい。
そんな暗がりを途中で何ヶ所か枝別れしながら、二度ほどスイッチバックして少しずつ登っていく。ルートの途中には工事途中の大きな空間が広がっていたりもした。ここから更に拡張されるのだろう。
ちなみに、この地底トンネルのレールはリニア高速鉄道の支線とも繋がっていて、物資の搬入に使われたり、いざとなれば武装して装甲を施した特別車輛に分解したサイガーマシンを乗せて国土を迅速に移動・展開出来るようになっているらしい。
そのまま行き止まりまで着て、ようやく止まったと思ったら今度は昇り始める。巨大なエレベーターだった。かなり上昇した後に天井が見えてきて、それがゴトゴトを開いて強い光が漏れてきた。ずっと暗い所を進んでたので、かなりまぶしい。
また、エレベーター使用中を示すブザーが鳴って周囲に注意を促す。
載せられたパレットのまま登り切った後、横にスライドして、その間に畳んであった主翼と垂直尾翼を展開していく。
その途中にこの間助けてくれた支援戦闘機の姿を見た。ここから出撃したらしい。
『電磁カタパルト射出位置へ移動します』
『点検が終わった整備員は速やかに安全区画まで退去してください』
機体検査員が目視で各部の発進前最終点検を行い、手で触ってパーツが脱落しそうになっていないかを確認して、最後にランディングギアの車輪に挟まっているチョークが外される。
それを確認した正面にいる安全保安員の合図で、スロットルを小さく引き、ゆっくりと移動して、カタパルト接続位置で一旦停止すると、一番前のランディングギアのエアークラフト・ランチバーがカタパルトのシャトルに接続されて、後ろ側にホールドバックバーが装着され、ジェットエンジンが噴き出す高熱から周囲を保護する為の装置が機体後方の床がせり上がる。
『電磁カタパルト接続確認』
『ジェット・ブラスト・ディフレクター展開』
『電磁カタパルトレール上、進路クリア』
『射出口周辺に人影なし。カタパルト射出3分前』
『射出開口部第一・第二ゲート開放、擬装撤去、ジャミング開始』
今日出撃する第ニカタパルトのある人里離れた山間の砂防ダムの一部がスライドして大きく開き、そこに設けられた射出口が現れ、そこからさらにカタパルトのレールが10mぐらい突き出る。
スロットルは限界まで引いてアフターバーナーを最大まで吹かして待つ。全開出力の振動で機体全体が震え、轟音が響く。
問題ないようなので手を挙げて、合図を出すと青信号が点り、シューターがGOを出した。
『サイガー1・サイガーファイター、行きます!』
コントロール・ルームのカタパルトの射出スイッチが押され、封じられていた巨大な力が解放されると強力なGがかかり、それがどんどん大きくなって加速して視界が歪み、内臓が潰れる!
「ッッ!!」
押しつぶされた肺からも空気が吐き出されて、カタパルトのレールが敷かれた長いトンネルをすごい速さで抜けると一瞬真っ白になって視界が開けて……
気が付いた時は大空だった。射出口の砂防ダムのある北の山間部から南の港湾部に向かって飛行する。眼下には山間部が広がり、その先に神杜の都市部~港湾、そして更に遠くには海が見える。高い。
そして、エンジン出力を下げて徐々に高度を下げて神杜市街のビル群を舐めるように飛び、神杜港上空から海上に出た所で操縦桿をゆっくり引き、緩やかに上昇させてて放物線飛行に入る。そのままスロットルを全開にしてグングン上昇して、
「サイガー・エース・チェンジ!ゴー!」
音声入力してから可変レバーを思いっきり引いて、操縦桿を定められた操作をすると、一時操作不可の表示が灯り自動でファイター状態から人型へ変形を始める。
まず、コクピット内部のシートが縦に90度前に回転して、上昇中の斜め上方向に向いていたのが一時的に下向きになり、必要なコンソール類もそれに伴って移動して、飛行用から人型戦闘用コクピットに移行する。下方向を映していた下面モニターがあった所が正面になり、正面だった所が上面になる。
機体全体は左にローリングしはじめ、頭部に当たる機首部分と下半身部分は固定されているように右に逆回転し、胴体部分だけは更に左に回転して戦闘機の形態ではウェポンベイがあった下部は背中側になる。
この辺りで放物線飛行の頂上付近になり、ほぼ無重力状態になってフワリと体が浮くような感覚。
多くの現代の戦闘機は機首部分は小さく、その上にコクピットがあって後方に行くに従って胴体があり、そこにウェポンベイがあったり、その横から主翼・水平・垂直尾翼が突き出てエンジンがあるレイアウトになっているが、このサイガーファイターも同じようなもの。
その機体の後方の、大きくなっている部分に胸から腕にかけての部分と足が格納されてあって、その足以外のパーツが腰辺り中心に下向きに閉じている花が、茎の部分=足だけを残して上に向かって開く様に変形して、最後に両腕が出て、完全に人型になって盛大に海水を巻き上げながら海面を滑るように無事に着水した。
「変形完了!サイガー・エース!」
これがサイガー1……サイガー・マシン1号の人型形態の名前である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます