第24話 運命の炎の中で
『……』『……!!』
声がする。……けど、言葉が理解出来ない。
アラームがうるさい。……目覚まし?……いや、違うかな……いくつもの警報がけたたましく鳴ってる。
匂いもする。新車の……真新しい機械の匂いに割り込んでくる微かな焦げる煙の匂い、燃える匂い、鉄の匂い。それが徐々に強くなってる。
そして揺れ。地震?いや、たぶん違う。身体はどこからともなく響いてくる振動によって小刻みに間断なく揺れ続けていて、そこに小さかったり、大きかったり激しい揺れが更に加わって、意識のない状態で首はその都度ガクガクと揺れる。
そもそも、僕は今何してるんだっけ……?ぼんやりした意識で考える。
記憶の糸を手繰り寄せていくと、おぼろげに思い出して……
……心配している女の子の顔が浮かんだ。
……そうだ、僕は……!
『……に火災発生!自動消火装置作動!』
『血圧低下!生命維持に支障!』
『……早く意識を取り戻してッ!!』
目を開けるとまず海面上、60mの高さからの景色が飛び込んできた。遠くに水平線が見える。
そうだった。ここはサイガーエースのコクピットの中。眼下には敵ロボット。首を掴まれ、三本の足の内の一本で羽交い絞めにしたまま殴り続けていて、各部はその度に壊れている。
機体OSの警報と報告と町田先生の通信が煩い。
「ああ、大丈夫です、意識戻しましたから……」
なんとか返事をしたものの、衝撃でまた飛びそうになる意識を必死で繋ぎ止める。
各所で火災が発生している。自動消火が間に合わない。いろんな所から煙を吐いてる。このままだと燃料や弾薬に火が回る。そうなる前に投棄できるなら投棄しなきゃ……
あ、そういやこのコクピットの近くにも30mm弾薬庫があったっけ。あれに火が付いたら確実にここも吹き飛ぶなぁ……あれも投棄出来るのかな……?でもこの状況では無理かな……
「イテテ……」
どうなって切ったのか、太もものサイガースーツの一部が裂けてドクドクと血が出ている。
とにかく、そのままにはしておけないので、ギシギシと揺れて握りつぶされそうなコクピットの中でレスキューキットからバンドを出してきて足の根本辺りを強く縛って、止血する。
そして状況を整理。
……と、いっても意識を失う前とそう変わっていない。
……ここまでかな……
このまま完全に潰されて、グシャグシャになる自分を想像して折れそうになる意思。
正直打つ手がない。
……ごめん、ここまでかも……
その時だった。エースを覆うように拘束している敵ロボットの背中に、どこからかの攻撃が当たると、直後にギュンと鋭く空を切り裂いて飛ぶ飛行機。前の時助けてくれたやつだ!
その直後にどこからか受信状態が悪い謎の通信が入る!
『……※△×……しか……腰から突き出てる円筒を破壊し……ください!』
「誰っ?何ッ?」
『はやくっ!』
極限状態に割って入って来た通信で、心が一旦リセットされた。いったんは諦めかけた気持ちをもう一度奮い立たせてどこかに活路がないか考える。
今この状態で使える兵装は……これしかない。とにかく、どっちかの腕一本でも自由に出来れば……
「頭部ガトリング!」ヴァァァァァァァァッ!!
音声で照準・射撃モードに移行してトリガーを引き絞る!
強く握られ今にも潰されそうになっている指の隙間から頭部に装着された30mmガトリング砲二門の内の故障していない残りの一門が射撃を始める。
ほとんど照準なんて出来ないし、外れっこない至近距離なので手あたり次第砲弾をばら撒くと、腕部の根本に当たって殴る力が弱くなる。
そこで旋回してきた謎の戦闘機からもう一度、火線が飛び、支えている方の足の根本に命中するとバランスを崩し、巻き付いていた足が外れ拘束が一時弱まる。
ようやく少し自由になった左手で大腿に収納されているもう一丁のオートガンを抜き、指示された腰の辺りにある円柱に銃弾を叩きこむと、弾かれつつも何発かは外板を貫いて破壊する。
残弾全部を撃ち尽くした後は銃身で殴り、銃身が壊れたら投げてぶつけた後は、銃撃で出来た装甲の裂け目から手を突っ込んでぐしゃりと潰して、引き千切った。
ガキンッガン、ゴォンッ!
かなり密着していた機体同士を自由になった左腕で可能な限り引き離し、頭部を下方に向けて、胴体を拘束している足の弱そうな間接部分に向かって残りの砲弾を全部撃ち込むと一部を破壊、拘束していた側の足がだらりと下がり、締め付けていたサイガーエースがようやく完全に解放されて、さすがに頭部を掴んでいるだけではエース全体の重量は支え切れず、ほとんど宙に浮いていた機体は海面に落着する。
三本の足の内の一本が破壊されて稼働しなくなった足のお陰でグラリとバランスを崩してよろめき、敵ロボットは後ずさってエースと距離を取る。
そこに再度、重砲弾にロケット弾、対艦ミサイルによる支援攻撃が開始された。距離が離れると砲撃を開始する手筈になっているのだ。
また轟音を響かせて砲弾が降り注ぐが、今度は全弾バリアーに阻まれることなく本体に命中し、さっきまで通常兵器では傷一つ付けられなかった白銀の表面装甲は傷つき炎上する。さっき破壊した腰から突き出ていた円筒はバリア発生装置だったようだ。
止めを刺すチャンスと見て、砲撃が終わるのを見計らって……
「響け右腕!唸れ!超電!サイガーアーム・デストグリップ!!」
全力で突進して、機械的に強化した右手刀が腹部に刺さり内部から破壊する。
続いて左の手刀も突っ込んで引き裂く。
腹部を大きく損傷した敵ロボットはヨロヨロと後ろに後退りしてから、そこでようやく動作が完全に止まった。
……が、こちらの機体も限界を迎え、立っているのが不思議なぐらいの状態で、爆発に巻き込まれない為に何歩か後ろに退避した後、脱力したようにゆっくり片膝をつき、各部が停止していく。
……やった……勝っ……た……!
機能を完全に停止した敵ロボットは大火災を起こして、白銀に輝いて綺麗だった表面は激しい炎に炙られ、黒く焼け焦げて、装甲の割れ目から勢いよく炎が噴き出して火花を散らす。
機体の各部は爆散しては腕が吹き飛び、足が折れ、胴体が破裂、四散した部品が水中でまた爆発して、飛び散った大小の破片がキラキラと光りつつ回りながら吹っ飛び、バラバラと海面に落ちる度に水柱を上げる。
そして断末魔の叫び声とも呻き声ともわからない音を発しながら、崩れ落ちるようにゴボゴボと海水を泡立て、巨大な渦を作って巻き込みながらゆっくり濃緑色の海に沈んでいく。
やがて、そのビルぐらいもある大きさの機体が完全に水没してから最後に一際大きな爆発を起こした。
後に残ったのは静かに炎上する海面だけ。
遠のいていく意識の中で最後に見たのは、その燃え盛る海から海水を巻き上げながら静かに浮かび上がり、急速に飛び去る円盤状の飛行物体と、それをまた追っていく助けてくれた謎の戦闘機。
……そこで完全に意識が途絶えた。
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