第25話 見知らぬ、女の子
痛いのやら熱いのやら冷たいのやら、ただただ気持悪いのやら、ありとあらゆる不快なイメージが極彩色の濁流になってグニャグニャと渦巻いて身体の内外、骨から内臓にまでまとわり付いて魘される。
かなり気持ちが悪い。
………………………………
あるようなないような真っ暗闇な意識の中で、外からの言葉が耳から入っては、その意味を理解することなくただただ流れていく。
…………………………
………………
……人は死ぬ間際でも耳だけは最後まで聴こえていると言う話を聞いたことがあるけど、こんな感じなのだろうか?……と、意識の奥の奥で言葉が浮かんでは消える。
(……治療の話……?)
「…………」
(……すごい心配されてる……)
「……」
(……ああ……やっぱりヤバいのかな……)
そして様々なイヤな悪夢でうなされる。忘れものをする夢や授業がさっぱりわからない夢や、受験で落ちる夢まで、これまでの人生で経験した多種多様のイヤなイメージをかき集めたような最悪の夢がそれはもう濁流のように浮かんでは消えていく。
そんなグチャグチャとした意識がどれほどの時間が経ったかわからないほど続いて……
……ようやく目覚めた。
見知らぬ天井。たぶん、病室。の個室。
……よく聞くシチュエーションだけど自分がそうなるとかなり驚く。
気を失うという体験自体がそうそうないことだし、知らない内に知らない場所へ運ばれている、その間に自分がどうしてどうなっていたのか、そういう事に戸惑い、その間どうしていたのだろうかと頭を巡る。
「……目が覚めた……?」
「……ああ……うん……」
僕が目覚めた事に気が付いた妹の奈美が声をかけてくれる。
まだ節々が痛いが、だいぶ良くなった。気がする。
「どれぐらい寝てた?」
「三日。正味二日ぐらいだけど。みんなに知らせるね」
そう言って携帯をいじりはじめる。
「えっと、ケガした時の事をよく覚えてないんだけど……ま、まさか逃げようとして、こんな事になるだなんてね……?」
「ほんと、驚いたんだから。気を付けないとダメだよ……」
「気を付けるよ……」
「……お父さんが死んじゃって、その上お兄ちゃんまで死んじゃったら、私一人ぼっちになっちゃうじゃん……」
「……ごめん、今度から注意する……」
これは本当の事は言えないな……
幸い、思っているよりケガは大したことなかったようだ。まぁ良かった。
それから30分ぐらいだろうか。気を失ってた間の事件の……神杜港での話を聞いたり(サイガーマシンについては公になってなくて、通常兵器で撃退した事になっているらしい)、いつどこで逃げ遅れたのか(頭をフルに活用して辻褄が合うように説明)とかの話をしていたら、ノックがした。
連絡を受けたメンバーが駆けつけてくれたようだ。
「ようやく目が覚めたんだ……良かった……」
「……」
「大変だったね」
「もうだいぶ良くなった?これ、お見舞い。お高いフルーツ」
そう言って早乙女が大きい篭に入ったフルーツの盛り合わせを台の上に置く。
「ああ、ありがとう。こんな事でもないと食べられないお高いヤツやん……」
「しっかり味わって食えよ。と言っても町田先生が出したのだけどね」
「後でお礼言っておかないといけないな。その先生は?」
「一緒に……というか、車出してくれたのは先生なんで、すぐに来ると思うよ」
「お医者さんの話を聞いてくるとか言ってた」
まぁしかし、危うく死にかけた事を考えると、そんな盛り合わせでもお安いかもしれないけど。
「いやー、それにしても、逃げ遅れてこんなことになるとはね。注意しないとね」
「そ、そうだね……本当に、気を付けてね」
「……ほんと、不注意にもほどがある」
意識ない間に奈美とどういう話をしてたかわかんないけど、適当に胡麻化しておく。
そんな話をしているとようやく、町田先生が入って来た。
「遅れてすまない。加減はどうだ?」
「ええ、まぁそれなりに……お医者さんの話はどうでした?何か言ってました?」
「このまま問題なければ、後2~3日で退院出来るそうだ」
「そうですか、それなら良かったです」
みんな、授業の後でそれなりにやることもあるだろうに、心配して駆けつけてくれたのだからありがたい事だ。
「奈美、ちょっとこの果物、せっかくだからすぐに食べたいんだけど、ナースセンターで道具借りてきてくれない?」
「ん、わかった」
妹が病室を出て行ったのを確認して話を続ける。
「で、あの後、どうなりましたか?」
「ああ、サイガーエースはクレーン船で回収して、今全速力で修理中だ」
「……すいません、あんなに壊してしまって……」
「なぁに、気にするな。あの程度で済めば軽いものだよ。機械は部品さえあれば修理出来るが、君の命は修理できないからな。それだけでも十分だ」
「……それで、あの敵は?」
「破壊されたロボットも今解体撤去中。回収出来た分の残骸は研究所に運び込んで分析、解析中だ」
「そうですか……」
「かなり頑丈で、しかも重くてね。いや、その頑丈さから考えるとかなり軽いのだけど。良く破壊出来たものだ。小さな残骸はそのまま回収すれば良いのだけど、大きい残骸はクレーン船で一部一部引き上げてる」
「とにかく、よくやってくれました。サイガー1の修理にもしばらくかかるので、それまではしっかり養生して、話はそれからにしよう」
「お世話になりました」
「お大事にね」
意識を取り戻した次の次の日まで検査して、異常なしということで無事に退院することになった。最後にお世話になった看護師さんに、退院の手伝いをしてくれた妹と一緒に挨拶して病院を出る。ちなみに病院といっても次世代エネルギー研究所の医療区画みたいな場所だった。何でもあるんだな、この研究所……
それから一週間ぐらいは平穏な日々が続いた。あの出来事が嘘のよう。
体調もだいぶ回復して、心の疲労も体の傷もかなり癒えてきた、ある日の放課後。
「芹沢、ちょっと」
最後のHRが終わって掃除に行こうとした所で町田先生に呼び止められた。
「最近、調子はどう?怪我は治った?」
「まぁ、だいぶん良くなりましたけど、なかなか全快したとは言い難いですね……」
「そうか。予定ではもうちょっと時間がある予測だったのだけど、想定より事態が切迫してきてしまってね……」
「……」
「もし本当にダメなら早めに言ってくれ。なんとか調整するから」
「そうですか……わかりました」
それだけ言うと先生は行ってしまったが、言われた意味を反芻する。
……これはいわゆる……そういう事だよな……?
それからずっとこれからどうするかを考えながら掃除も終わって、下校しようとした所で、行く手を遮られた。
「……今日これから時間ある?ちょっと話があんだけど」
「……えっ?」
そう言って立ちふさがったのは竜崎だった。
「……二度も言わせんな……いい?」
「……あ、ああ、うん、いいよ」
「じゃぁ着いてきて」
「……わかった」
靴箱で上履きから靴に履き替えて、竜崎の後に着いて歩く。
……が、そもそもどこへ向かっているのだろう。気になったので聞いてみたが……
「それで、今はどこへ向かってるの?」
「……」
「…………」
……返事がない……
他にも話を振ってみてもやっぱり返事がなかった。
そんな調子で結局会話もなく、学校から駅まで歩き、電車を待って乗り込み、最寄り駅で降りる。
今の所、いつもと同じ帰り道なのだが、こんな緊張する帰り道ははじめてだ。
結局、いつもの帰り道で家の前まで来てしまったのだけど、僕の家はスルーしてそのまま直進して、ようやく着いた先は竜崎の家だった。
「着替えるから少し待ってて」
「う、うん」
家の玄関前で待たされること15分。ようやく扉が開いた。
「……着替え、終わった……中へ入って……」
「……えっと……どちら様……?」
扉を開けて出てきたのは、まったく知らない女の子だった。
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