第46話 太平洋、血に染めて
急に距離を取って戦うようになったのをおかしいと思ったのだろう。
機械竜が距離を詰めるようになってきたのでジャベリンを繰り出して接近を阻止する。
しかしそれもたぶんあまり持たない。
超電バリアーもさっきまで酷使し過ぎた影響でシステムが過熱しているので使用を控えなくてはいけない。
……どうする……?
ギャオオォォォン!!
そんな戸惑いを見透かしたように機械竜が唸りながら襲い掛かってきた!
その突進をジャベリンを横に構えて機械竜の首に押し付けて防ぐ。
勢いを削いだ後、近距離で腹部の砲座から近距離から射撃して、蹴りを入れてまた距離を取る。すると今度は各所に生えているトゲトゲが飛んできた!
「うわぁっ!!」
『きゃっ!』
ある程度は出力の下がっている超電バリアーで防いだものの、まったく無傷とはいかなかった。炸裂したトゲの爆炎がダイサイガーの右腹……すなわち今、竜崎のいる辺りを炙る。
「竜崎ーー!」
『竜崎さんっ!』
『大丈夫……大丈夫だから……』
反社的にハッチを閉じたので助かった。危なかった。
一旦、攻撃が治まったようなので、再度ハッチを開ける。
直撃はしなかったものの、その爆炎で激しく炙られた装甲板にはまだ熱が残っていて、熱い空気が漂っている。
「でも……こんな所を……行くの……私が?マジで……?」
体感ではかなり長く感じたけれど実際はたぶん2~3分、逡巡したけれど意を決して一歩一歩、そろそろとではあるけど、足を進める。
ずっと孤独だった。……でも今は一人じゃない……仲間がいる……
みんなの為にもやらなきゃ……
気持ちを奮い立たせて歩く。
ドンッドドドドドンッッ!!ガァァァン!!
今まで遠くに聴こえていた爆発音が直接響いて空気が震える!
反射的に手近な場所にしがみ付くと、床がまた大きく傾斜して、爆風による空気の圧力が全身を締め付け、熱風が吹きつける。
「……大丈夫……大丈夫だから……」
心配して私の名前を叫んでいる声が聞こえたが、かなり熱かったものの、一瞬だったのでなんとか耐えられた。
ここに来るまで、足を滑らせて数メートル落とされて宙吊りになること3回、ヘルメット越しに頭をぶつけたこと5回、壁に叩きつけられたこと数知れず。
今は身体の節々が痛い。正直、気持ちも体力もかなり限界。
そして……高い。
これまでは移動する作業に忙しいし暗いしで高さなんてあまり意識しなくて済んでたんだけど今は違う。足場は幅50cmぐらいの出っ張りで、壁側に申し訳程度の手すりが付いているが外側に柵みたいなものは当然ない。正確に言うと、格納庫で整備するような時のために外側に柵が取り付けられるようになっているが、出撃時には取り外すことになっている。緊急発進の時はそのまま出撃することもあるらしいけど、今は付いていない。
手すりは壁に埋め込まれるように付いていて、そこにハーネスのフックも取り付けるのだが、こんな状況で使われる事まで想定して作られているだろうか……?と強度的に大丈夫なのか不安でガクガクと足が震える。
でも…ここでグズグズしてる時間はない。勇気を振り絞り、怯える身体を無理やり動かす。
『なんとか行けそう?』
「…………」
…………返事をする余裕がない。しかし次の瞬間、
「わわっっ!」
さっきまでしっかりしていた足元がゆっくりずれ始めた事で、そこを足場にして立っている自分の下半身も持っていかれたので、ダイサイガー上半身部分に付いている手すりにしがみつき、なんとか踏ん張る。ダイサイガーが腰を回転させたのだ。しかも次の瞬間には外側にも傾斜しはじめて、ずれながら斜めになる床に足が滑って宙に浮き、一瞬、手すりにぶら下がった風になる。ハーネスで本体と繋がっているので手が滑っても落ちることはない。けれど、怖い。
かと思えば、またすぐに戻りはじめて、今度は内側に傾斜して今度は外壁に身体が叩き付けられて、更には腰の位置も戻り始めてさっきとは逆方向に踏ん張る。
「ちょっ、もっと安全運転してよ……」
『ごめん、そんな余裕がまったくないので、落ちないように注意して……!』
……簡単に言ってくれて……
とりあえず、そんな不安定な足場に注意しつつ、一歩一歩慎重に歩く。こんな高さにまで跳ね上がった海水で床が濡れてて滑らないように歩くのだけでも大変なのに……マシな時でも上り坂になったり下り坂になったり左右にも傾斜して、その度に振り落とされないようにしがみ付きながら歩いて、やっとのことで背中側への曲がり角に到着した。
……ここを曲がればゴールはもうすぐ……な、はずなんだけど……
「……えっ……?ウソ…………」
やっと側面から背中側への角を曲がると信じられない光景が広がっていた。
さっきまでの戦闘の結果、機体の一部の損傷が激しくて足場が破壊されていたのだ。その距離およそ1mぐらい。しかも壊れてガタガタになっているので、足場は相当悪い。
『どうしたの?何かあった?』
「……ごめん、もうダメ、やっぱ無理……道が、壊れてて……」
足に力が入らない。立っていられない。
なんとかここまで気力を振り絞って、しがみついてやって来れたけど、気持ちがとうとう切れてへたり込んでしまった。
「……ごめん、私ここまで……もうダメ……」
『……竜崎さん、あんた、あれだけ私を罵倒しておいて、それなの!?』
その言葉に一瞬カッとなって反論する。
「こんなの無理ッ!無理に、決まってるじゃん!」
『頑張れとは言わない、全力を尽くしてダメだったら、みんな諦めるけど!』
「…………」
『あんたが今諦めたら、これで全部終わりなんだよ?私たちも街もまた……もしかしたらこの世界全部が終わるかもしれない』
『……だから……最後まであきらめないでっ!』
その罵倒に、一旦完全に萎えた気持ちに再び火が入る。
まだまったく当てにならない力の入らない膝だけど、壁を支えによろよろと立ち上がる。
「……わかったから……もうちょっとだけ……頑張って……みるから……ッ!」
『うん、ゴールはもうすぐだから!』
『竜崎、かなり無理してるだろうけど、頑張って』
壁の手すりにしっかり掴まって、そろそろと壊れた足場ギリギリまで前進してどうなっているか確認する。
……距離的に飛び移るしかなさそうだ……しかしランヤードはどうしよう?
とにかくあっち側へ乗り移りやすい場所にフックを取り付けなければならない。
……でも……
「フックが……かからない……もう少しで届くのに……」
仕方ない、フックを付けるのは諦めよう。渡った後に外そう。
ここまで来れば主福どちらかさえ付いていればいいだろう。
あまり下を見ないようにして……タイミングを見計らって、意を決して助走を付けて……
一気に……飛ぶっっ!
無事に着地!!
やった!私すごいっ!
その時だった。
敵の攻撃によってまた機体が傾斜。足場も大きく傾いて、足が滑って……
「あっ」
どこかに捕まろうとして伸ばした手は空をつかむ。
今までしがみ付いていた縁を派手に滑り落ちて、側面に激突した後、反動で空中へ投げ出された。衝撃でヘルメットが外れ、毎朝……今日は特別念入りにセットしたお気に入りの髪型の結った部分が、ほどけてバラバラになる。訓練の時に何度も経験したけど、いつも自分にかかっている重力がなくなって落ちるという不安、恐怖。
40メートルも落ちたら下が海でも確実に……
……私、ここで死ぬ……?
お父さん、お母さん、散々迷惑かけてごめんね。
かなり我が儘を言って許してもらった結果がこんな最後になって。
こんなことならPCのデータも消しておけばよかった。
人にはもっと優しくしておけばよかった、もっと優しくされたかった。
言いたくても恥ずかしくて言えなかった大切な言葉も素直に伝えておけばよかった。
そんな言葉がぐるぐるとめぐり……もう一度激しく外壁に激突してバウンドした後、海面へ向かって落ちていった。
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