第10話 新世代画像処理システム

 一周10分ぐらいの空中散歩を終えて、観覧車を降りてまたみんなで岸壁をぶらぶらしていると、イベントスペースで何やら派手に呼び込みをしている一団に出くわした。

「新しい映像処理システムのデモンストレーションをやってまーす!そこの学生さん達、どうですか?」

 そう言いながら、呼び込みしているお姉さんが一人ひとりにパンフレットをくれる。中身を見てみると、思ったより難しい事が書いてあって、システムの概要と画像処理方法が図示してあったが、正直良くわからない。そんな図を見てから、ステージに設置してあるレールに沿ってカメラが3台並んでいるのも見る。結構大がかりだ。

「これは最近流行りのステレオカメラの発展システムで、カメラ3台を使って人間が見ている風の映像を普通の写真や動画に正確に再現するシステムなのです!」

 ???

 どういうことだろう?

「従来のこういう3D画像を鑑賞していたシステムでは、保存した3D映像を閲覧・鑑賞するのにVRゴーグルや3DTVなど、特殊な装置を通さないと見られないものでしたが、その煩わしさを解消するために開発されました」

 ふむふむ……

「人間は二つの目で見ているでしょう?ということは、一つの定点カメラで撮った映像より微妙に奥側や側面が見えたりするのです!」

「ざっくり説明すると、音楽を聴くときに両側の耳から微妙に違う音を流せば立体的に聴こえるでしょう?あのシステムを視界にして、その二つの映像を一つにして出力したものと思ってください」

「左右二つの目で見た二つの映像を脳内でコラージュして一つの映像にしているのですが、このシステムはそんな人が見ている映像をなるべく再現するために、左右の目に模した二つのカメラから撮った映像をCG処理して一つの平面映像にして、特殊な機材を使わずに鑑賞出来るようにしたシステムなんです!」

 画期的でしょ!と、おねーさんは胸を張っている!結構大きい。

「真ん中のカメラは?」

「これは両側のカメラの補完と通常のカメラ映像と比べるためのものです」

「今は静止画のみですが、将来的には動画、処理が軽くなれば生中継にも使えるようになるはずなんです!他にも3DCGにも応用が考えられています!」

 なるほど、わからん……と、もらったパンフレットをパラパラとめくって見ていたが、イラストで説明されると多少わかってきた。

 Human Sight Reproduction System(HSRS)……というのがこの装置及び画像処理の相称らしい。平たく言えば人の視界を再現するシステム?

 まず大きく紹介されているのは、TVや映画の撮影に使う業務用に使うような大型機材みたいのに(今、ここにあるのはこの規模の装置らしい)、個人で扱える程度の両肩に乗せて使う大型のカメラぐらいの大きさの機械から、今までのカメラより多少大きい程度の装置から、式典会場や競技施設なんかに設置するような大規模かつ大がかりなシステムまで、イメージイラストが何個か載っている。いずれも従来のカメラとはかなり印象が違ってて、共通しているのは横に長い。一番小さい個人用のは横に並んだ二眼カメラとでも言うべきだろうか。

 他、芸術分野への言及もある。二つの目に相当する二つ(以上)の消失点を設定して作画すると、従来の一つの消失点で描くより目視に近い自然な絵が描ける。らしい。

 これらはリアル・キュビスムという理屈から生まれた技法・装置で、『これからの新時代の映像はここからはじまります』とか大げさなキャプションが付いた、開発・発明者のろくろを回しているおっさんの写真も付いていて、アイデアを思い付いてから二個のカメラを並べて撮った画像をどのように処理すればより自然に見えるか、などの開発を始めた頃の苦労話なんかが書いてあるけれど、素人なのでそれだけ読んでもなんだかやっぱりよくわからない。

「こうして説明しているのも何なんで、一度撮ってみましょう!」

 おねーさんに促されるまま、みんなで撮影エリアに入っていく。

「まずは集合写真を撮りますね!適当なポーズを取って下さーい!」

 撮影エリアにみんな入って並ぶと、システムが稼働し始め、カメラがレールに沿って動き出した。被写体との距離やサイズによってカメラの位置を変えるようだ。

 おねーさんは制御PCのフレーム画面を確認しながら支持をだす。

「もう少し中央に寄って下さ~い!そうです、そんな感じで!いいですよー!」

 ガチャガチャと忙しく動いていたシステムも撮影準備が整ったようで二基のカメラが静止する。

「ではいきます~!皆さん、笑ってくださいね!」

 いわゆるシャッターというモノは存在せず、制御しているPCの画面にある撮影アイコンをクリックすることで撮影されるようだ。

「ハイ、チーズ!」

 みんな、各々が思ったポーズを取ると、掛け声とともに撮ってもらう。

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