第9話 ハーバーシティ
そして週末。
待ち合わせ時間10分前に
「おはよう」
「おはよー!」
「……おはよう」
「待った?」
「ううん、今来た所!ww」
と、お約束を返してくる早乙女。
「というのはまぁ冗談だけど、本当にオレらも少し前に来たところだよ。実は荒砥の方が早かったり」
「そうなんだ。今日はよろしくー」
「……よろしく……」
それにしてもこのイケメンは女子もいるとそうでもないのだけど、男同士だと寡黙みたいであまりしゃべらない。それでいて、頭が小さくて身長も高く、筋肉質で手足も長いから、女子にはモテる。それをとっかえひっかえ……かなり羨ましい。クッ……
そうしているとまず南原さんがやってきた。
「おはよー!」
南原さんの服装は高校一年生らしい淡いパステルカラーの春コーデで、良く似合っている。うん、普通に可愛い。
「いい天気で良かったねー!」
「ほんとほんと!」
「その恰好、よく似合ってるね!可愛いね!どこかのアイドルかと思った!」
「そうそう、なんかすごい!」
「そ、そう?嬉しいな!」
さりげなく褒めるの上手いなぁ早乙女……僕も見習わなければ……
そんな話をしていたら、最後に背後から竜崎が現れた。
「……おはよ……」
「ああ、おはよ……ッ!?」
声を聴いて振り返るとそこには確かに竜崎がいたのだが……
……第一印象……というか、インパクトは攻めたなぁ!だった。
胸ぼーん!おへそどーん!太ももばーん!に、ブーツの踵も高くて、ただでさえJKとしては高めの身長が更に高い。しかも、高校一年って言っても、ほんの何か月か前まではリアル中坊。しかし、そんな少し前まで中学生だったのが、体格はかなり中学生離れしていたので、なんかすごいアンバランスでおかしな雰囲気になっている。
いや、良し悪しで言えば……まぁ……良い……のだけど、なんか、かなり驚いた。
そんな感想をこっそり抱いたけど、その衝撃を素直に口にするとまた怖い顔で睨まれるので、黙っておく。しかしまたも直球を投げる早乙女。
「すごい恰好してるな、竜崎!」
「いや、普通だし……」
「マジか、いつもそんな恰好してるのか!」
「うん、まぁ……」
「そうなんだ、私もしてみようかな……」
南原さんの、この恰好……?なんかいけない想像になりそうなので封印する。
まぁとにかく無事に集合できたので次の行動へ移る。
「じゃぁ、みんな揃ったからそろそろ移動しようか」
「おーけー!行こう行こう!」
「うん!今日は楽しみ!」
「……わかった……」
「…………」
向かった先はハーバーシティ。この街の海沿いにある商業施設。
昔から神杜は立地の良い港湾都市として発展していたのだけど、貨物船からコンテナを積み下ろしをしていた商業港としての機能は沖に作った人工島に移し、市街地に近い部分は廃止された元貨物駅の広大な土地を利用して作った商業施設に隣接したような観光港となっている。
「まず、どこへ行く?」
「とりあえず、お昼食べない?」
「さんせーい!何食べる?」
「ファミレスでいいんじゃね?」
向かった先は海が良く見える景色のいい事で有名なファミレス。
東側には壁がなく、大きな窓になっていて神杜港が一望できる。
土曜のお昼前の店内はそこそこの込み具合だったので、外のテラス席に案内された。
この季節は気候的に暑くも寒くもないし今日は風もないので屋外の席は気持ちが良い。
「ここ、景色いいよね~!」
「天気いいから遠くまでよく見えるしね」
ぼんやり外に目線を移すと、遊覧船が観光客を乗せては港湾クルーズに出港して、また戻ってきているのが見える。今はいないけど、たまに海外から来たような大型クルーズ船も停泊しているのを見かけるが、あれは大きくてかなり驚く。
「さぁ、何食べる?」
「何にしよう!」
メニューを広げてみんなで覗き込む。
「何がいいかな……?今の時間だとランチメニューもあるんだよね?」
さて、僕は何を食べようか……みんなは何を選ぶんだろう?
「……昼ごはんといえば、高校の昼はもう慣れた?」
「ああ、弁当?食堂?小中は給食だったもんね」
「私は中学もお弁当だったからあんまり変わらないかな。でも市内は給食の方が多いのかな?」
「オレは食堂かな……初めて行った時はなんかすごく新鮮だった」
「自販機も驚いたね!」
「あれは大人になった?気がしたわw」
個々に注文を済ませた後も、高校お昼以外のご飯の話まで広がる。
どこの何が美味しかったとか、あれはまずかったとかそういうの。
「給食と言えば、とくらんのオレンジゼリーな!」
「ああ、あれ、美味しかったよね!」
「休んだ子の分はじゃんけんで取り合いになったっけ」
「みんな必死www」
あの時はみんなすごかった。本気と書いてマジのやつ。
「また久しぶりに食べたいなー」
「ん?食べられるよ?」
「え?マジで……?」「……そうなの……?」
荒砥だけでなく、竜崎まで食いつく。
「市内でちょくちょく売ってるけど、ここに来るまでにあったUMIAの地下のエオンにも売ってるよ。ちょっとわかりにくいけど」
「マジかー、帰りに買って帰ろうかな……」
そんな話をしていると、料理が運ばれ始める。
南原さんはボロネーゼランチ。いかにも。
竜崎はカツカレー。他人が食べてるカレーの匂いってなんか魅力的なんだよなぁ
早乙女はシーフードランチ
荒砥は焼肉ピラフ
そして僕はハンバーグランチ。ベタだった。
「ごちそうさまでした~」
「美味しかったー!」
昼ご飯を食べた後は辺りをぶらつく。吹き抜ける海風が気持ちよい。
「観覧車あるよ?乗らない?」
「乗る乗る!」
「よしっ、乗るか!」
岸壁にある、海側から街を一望出来る観覧車に乗ろうという話になったのだけど……
「……私はいい」
一人だけ……竜崎だけ、さっぱり乗り気でない。
「えー、乗ろうよう!」
「いや、いいから……」
そういや、高い所がかなり苦手だったっけ……
それから5分ぐらい乗る・乗らないの問答を繰り返したけれど、結局乗らない事になり、竜崎一人残して4人で乗ることになった。
ゴンドラに乗ってすぐの上昇中に地面でこっちを見ている竜崎がまだはっきり見えるので、南原さんが手を振っている。……が、竜崎は見上げてるけど、それに応えてない。
「竜崎さん、私の事嫌いなのかなぁ……」
「そんなことないんじゃない?そもそも教室にいても誰にも愛想ないし」
「愛想がないというか、誰彼構わずまわりを威嚇してるw」
「あはは、そうなんだ!まぁ……想像できるかな……」
「だから、あまり気にしなくていいと思う」
「そっかぁ……せっかくだから仲良くなれればいいんだけど……」
そんな話をしながらゴンドラはどんどん上昇して、もうすぐ頂点の位置にきた。
「いつも見て普通に暮らしてる街なのに、視点が高いだけで見たことない街並みに見えるね!」
その通り、神杜の街がかなり遠くまで見える。
北側は山で、東西には市街地~港が広がっていて南はひたすら海だけが見える。
微妙に高さが変わりつつ360度全体が見渡せるのも珍しい体験。
「私たちの高校は……どの辺かな?」
「見える?」「……あの辺だとは思うけど、よくわからないね……」
この観覧車で100mの高さらしい。世界一のは250mぐらいあるそうだ。
ちなみに少し向こう側の、この神杜港の象徴的な建物であるポートタワーがそれぐらいの高さがある。
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