第8話 次世代エネルギー研究所
「お兄ちゃん、お父さんが忘れ物届けてちょうだいって」
朝、妹の奈美がそんな事を出掛けに言って大きい封筒に入った書類を渡してきたきた。
「うん、わかったー。放課後に届けてくる」
「よろしくー。じゃぁ気を付けて」
「奈美もな。気をつけてな」
学校まで歩きなのでまだ余裕がある妹に見送られながら出かける。
その朝は、なんとなく物足らなさというか、静かだなぁという違和感を持ったままいつものように登校して、教室に入ると、これまた違和感があった。なんといつもなら、今頃校門蹴ってていないはずの竜崎がもうすでに着席していたのだ。机に突っ伏して寝てるのはいつも通りだけど。
なるほどそれで……と、後ろの席で寝てる竜崎の姿を見て納得しつつ、一時間目の授業の用意をしようとカバンの中身を取り出していると、教室の入口から大きくお~い、お~いと可愛く手を振って、こっちが気付くと小さくちょいちょいと可愛く手招きする可愛い南原さんに気付いたので行ってみる。
知り合ったのは昨日の今日なので、まだ緊張してしまうけど。
「お、おはよう南原さん、昨日はお疲れ様でした。で、どうしたの?」
「おはよう、芹沢君!……ちょっと着いてきてくれるかな?」
「うん……?了解」
そう言って手を握られて引っ張られるように移動する。
「……竜崎さんって芹沢君の後の席なんだね……?」
「ああ、うん、昨日の席替えでね」
「いつも本当にあんな感じ?」
あんな感じとは、いつも寝てるのかということだろう。
「うん、授業中も。でも不思議と成績はいいんだよね」
「そうなんだ……ふ~~ん……」
道すがら、そんな話をしながら階段を降りて一階の人気のない所まで移動して止まる。
「……それはさておき、あの……さ、今日いつもよりちゃんと遅めに登校したんだけどさ」
「う、うん」
「……竜崎さんの蹴り見られなかったよ……!?」
「お、おうっ……!?」
まさか、本当に登校時間を合わせて来るとは、あの蹴りにそこまで訴求力があるなんて……
「そうなんだよね。なんか今日は静かだなぁと思ったら今日はやってなかった。というかいつもより早めに来てたみたい」
「そして竜崎さんはもう寝てたっぽいね……」
「……うん」
「あー、残念だなぁ!でも、校門が壊れても困るからその方が良かったかな?」
「僕も連行しなくて済んだのが良かったよ」
まぁもめごとはないに越したことはない。
「じゃぁまた、放課後に、ね!」
「あ、そういや今日は用事があって1時間ぐらい遅くなるから、ごめんね」
「了解~!じゃぁ放課後、またね!」
ああ、緊張した。美少女相手だとやっぱりね……
そんなやり取りをした後、今日の放課後の件で突っ伏している竜崎にも声をかける。
「竜崎……?起きて……」
「う、う~ん……何……?」
気怠そうに起きる。
机に突っ伏して時はわからなかったが、起きた時に理由がわかった。
髪型自体はほとんど変わってないけど、昨日までド派手だった髪の毛の色が少し地味になっていて、メイクもかなり控えめになっていたのだ。まぁ今のでも他の同級生を比べると指導が入るか入らないか微妙な感じだけど、昨日までと比べると許容範囲に収まる程度には地味になっていたし、面倒くさいしでスルーされたのだろう。
「今日は校門蹴ってなかったね。南原さんが残念がってたよ」
「……見せもんじゃないから……」
まぁ、理由はともかく昨日までと比べて馴染んだことはまぁ良いことなんだろうと続ける。何より羽交い絞めにして連行する手間がなくなってくれたのはありがたい。
「そういや、今日は放課後用事があって、編集作業に行くの少し遅れるから」
「……ん……わかった」
いきなりの予定変更で少し驚いたようだったけど、これで大丈夫。
そのやり取りを聞いていた早乙女も話に混じってくる。
「え?何?今日用事?」
「うん、ちょっとね」
「そっか、そういや明日は忘れんなよ~」
「ああ、駅前に11時だったよな?了解了解」
そういえばもう週末か。
「竜崎もな?」
「……了解」
「明日何があるの?」
その話を聞いていたクラスメイトの女子が尋ねる。
「冊子編集メンバーで遊びに行くんよ」
「へー、いいね!私もいk」
……と、答えた後、……あ、ということは竜崎さんも!?となったのがわかった。
「……へ、へぇ……楽しんできてね」
と、最初のテンションとはまったく違った微妙な返答に。
まぁ、そうなるよなぁ……
そしてその日の放課後。
「じゃぁ先に用事済ませてから参加するから、みんなによろしく言っておいて」
「……おk」
一応、もう一度後ろにいる竜崎に断って、靴を履き替えて裏門の方から出る。
向かう先は学校から歩いて10分ぐらい離れた次世代エネルギー研究所。
少し離れた言っても研究所自体もかなり広くて、敷地に入っても研究所の建物本体に辿り着くのに歩いて約5分ぐらいもかかるので、学校との往復するだけでも30分ぐらいかかるだろうか。
そんな距離を歩いてようやく研究所の正門にたどり着く。
「こんにちは~」
「ああ、はい、こんにちは」
詰所で受付を済ませて入館証を貰い、見知った守衛さんに聞く。
「今、父はどこにいますかね?」
「今なら超電発電実験棟にいるんじゃないかな」
「ありがとうございます。そちらへ行ってみます」
話を聞いて研究所の広い敷地を実験棟に向けて歩く。
次世代エネルギー研究所……
主に電気に代わる新しい形のエネルギー形態を模索・開発・研究する施設。
その中で一番有力な研究を仮に、超電気と名付けた。
これまでの世の中で言うエネルギーというのは、色々な種類はあるけれど、その中で一番手ごろに使われているのは熱エネルギーだと思う。そして、今の世の中で多く使われている電気エネルギーは熱エネルギーから変換されて作られている場合が多い。
化石燃料を燃焼させたり核分裂から発生する膨大な熱量=熱エネルギーでお湯を沸かし、蒸気を生成、それを風車に当てることで回転運動に変換、そこから発電機を回して電気エネルギーを作り出す。つまりどうやってお湯を沸かすか。
そこで、電気より生産が安価で安心・安全・安定してて、保存・蓄積が簡単なエネルギーが出来ないか?ということで、この次世代エネルギー研究所で研究開発されたのが超電気という新エネルギー形態だった。
ただし、電気と付いていても電気特性は持っていないし、生まれたばかりで、今の所は超電気で沸かしたお湯で蒸気を作り、その勢いでタービンブレードを介して発電機を回して発電するという、結局手間もロスも大きい実験からやっている。
それでも、条件さえ整って普及すれば今より便利で快適な生活になるだろうと思っているけど、いつになるかな……
その超電気で発電する実験炉の開発をしている実験棟の方へ歩いていると向こうから、父親と一緒に働いている乃反(のそり)博士、森盛(もりもり)博士、背鷲(せわし)博士が歩いて来た。この三人はそれぞれ、電気・電子工学、原子炉工学、そして超電気工学の教授だ。
「こんにちは、乃反博士、森盛博士、背鷲博士。父は今も実験棟ですかね?」
「いよう、甲太郎くん、お父さんに用事かね?」
「はい、忘れ物を届けに」
「じゃぁ我々も芹沢君が実験している研究施設に行く所じゃから、一緒に行こうか」
「はい、お願いします」
行先が同じなので4人で並んで歩きだした、その道すがら話を聞く。
「あの実験炉、完成したのですか?」
「うん、ほとんどね」
「ただ、もっと出力を上げるために大型にしようとはしているのだが、これが問題山積でねぇ……」
「なるほど、色々大変なのですね……」
ほどなく、水蒸気をもくもくと上げている冷却塔が三つぐらい並んだ実験棟に到着する。
「父さん!」
「おう、甲太郎か、すまんね?」
「はいこれ、忘れ物」
「ああ、手間かけたね」
無事に書類を受け渡すことが出来た。やれやれこれで任務完了だ。
ホッとした事で、この建物の真ん中にある一番大きな構造物を見上げる。
「これが超電気発電炉?」
「うむ。しかしこれ以上のサイズにしようとすると、なかなか上手いこといかなくてね」
「これで何ワットぐらい発電出来るの?」
「熱出力3MWで、電気出力1~2MWぐらい。大きくすれば出力も大きく出来るのだけど、今のままでは効率が悪くなるのでね。どうすればコンパクトに出来るか思案中」
「へぇ……」
そうなのだ。確かにこの次世代エネルギーは良く出来ているのだけど、生活に溶け込んむまでにはまだまだかなり時間がかかるだろう。なぜなら、社会の中で動いているコンピューターやモーターなどは電気の持つ特性によって稼動しているから。
対していまだに超電気で点く電球(のようなもの)や超電気で回るモーター(のようなもの)すらも開発されてない、インフラとして使用するため整備が進んでもいない状態では、まだまだこれからもエネルギーといえば熱エネルギーか、熱エネルギーを変換した電気中心の時代が続くのだろうと思う。
「じゃぁそろそろ学校に帰るよ。まだ用事もあるからね」
「おう、じゃぁ気を付けてな」
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