第48話 南の島の砂浜にて

 寄せては返す波の音が心地よい。

 本土のとはまったく違う、赤道に近い、更には真夏のギラギラした強烈な太陽光で焼かれて、砂まで熱いけれど、時折吹きぬける潮風が少しだけ涼しい。

 何も変わらない砂浜が、さっきまであった激しい戦闘が本当にあった事なのか疑ってしまうけれど、もう何時間かすればさっきまでの激闘で出た残骸がここにも打ち上げられるかもしれない。


「冷たッ!」

「気持ちい~ぃ!」

「……あんな事があった後なのに元気だなぁ……」

「……まったくね……」

 男2人は砂浜で突っ伏しているけど、竜崎と南原さんの女子2人はキャッキャ言いながら波打ち際で元気に水遊びをしている。さすがに水着なんて便利なものは準備してないので、ブーツを脱いで裾を捲り上げて足だけ海に浸けて遊んでいる。一時はどうなるかと思うぐらい仲が悪かったけど、すっかり打ち解けたようだ。

 レイナさんは用事があるとかで、僕たちを二度も助けてくれたあの戦闘機を呼んで、先に撤収してしまった。異星人の超科学技術で作られているので、いつでもどこでも垂直離着陸出来て、しかも長距離移動できる機体はかなり羨ましい。今の科学技術で複製出来ないかな。

「それにしても暑いなぁ……」

「だよねぇ……」

 南方の夏の太陽光の熱量の作り出す暑さに荒砥と二人で嘆く。

 さっきまで不安定なコクピットの中で右に揺られ左に揺られて、上下に落ちたり上がったり回ったりしていたので、動かない大地の上なのにまだふらふらするけど、その動かなさがいつもは当たり前のことなのにありがたくて身に染みる。ついでに、ずっと機械の駆動音がする中で活動していたので、静かになった今でもまだ耳鳴りがしてる気がする。

 ほぼ夜明けと共に作戦が開始され、、敵基地上空で合体させたのが朝9時ごろ。全てが終わった今の太陽は頂点に近い。実際そう時間は経ってないんだけど、すごく長かった様に感じる。


 あの戦闘が完全に終わった後、真っ先にダイサイガーの超電発電炉の制御室にいる竜崎を助けに行った。

 一番早く到着出来る手段は何かと悩んだ末、身長が約120mもあるダイサイガーのほぼ頂点にある頭部コクピットのハッチを開けて、まず肩口まで降りてダイサイガーの各所に装備されている緊急脱出用のセイフティロープを垂らして、そこから40mぐらいダイサイガーの外板をレンジャーだかレスキュー並に懸垂下降して腰辺りにある超電発電炉のある竜崎のいる所に急行した。正直、恐ろしかったけど、もたもたしている場合ではなかったので恐怖を押し殺して気合で降りた。座学で使い方を学んで、脱出訓練で一度だけ実際に降下したのが役に立った。といっても、練習ではぜいぜいが訓練施設の屋上からで、高さがまったく違ったけど。

 発見当初の美晴はかなりグロッキー状態だったけど、今は水遊びが出来る程度には回復したみたいで良かった良かった。

 基地を守護していた機械竜が破壊されてしまえば、海底の敵基地はほぼ無防備となり、多少の抵抗はあったものの、到着した深海基地打撃戦隊の、この作戦の為に新開発された深々度爆雷及び、深々度長魚雷の攻撃によって破壊された。いくら異星人の超科学で出来た耐圧殻でも一部損壊してしまえば深海の水圧には勝てずそこから圧壊、その中に建設途中だった基地も運命を共にしたらしい。その後、深海探査船による戦果確認と、残された残骸から多くのサンプルが回収出来たそうで、これを分析すれば敵の正体もかなりわかるかもしれない。

 とにかく、これで全てが終わったことを祈るばかりだ。


「……ところでさ、荒砥……」

「……ん?何……?」

 隣の、残されたもう一人にずっと気になっていた事を聞くことにした。

「今更だけど、荒砥はなんでサイガーマシンに乗ることにしたの?」

「……え~っと……噂は聞いてると思うけど、オレってモテるんだよね……」

 おおっと、いきなりの直球モテ自慢キター!

「うん、そうらしいね。うらやましいよ」

「……それがさ、そうでもないんだよ……」

 少し遠い目をして続ける。

「でもなんか違う……って三日で振られちゃうんだよ。なんか二人っきりになると外見からのイメージとかなり違うんだろうね」

「……そう、なんだ……」

 あーでもそれ、少し分かるかもしれない。

 みんなと一緒にいる時は普通なんだけど、二人になると極端に口数が減ってたっけ。合宿最初はそれでかなり戸惑った覚えがある。

「だから女性のイメージって、深い人間関係を構築出来る人たちじゃないことになってしまって……」

「それは……大変だね……」

 ……僕にはさっぱりわからん感覚だけど、モテにも苦労があるんだなぁ……

「でもきっと、俺のことを深く理解してくれる女の子もきっとこの世の中のどこかにいると思うんだ。その将来出会うはずの女の子のために頑張ろうって」

「そっかぁ……」

 僕はどうも彼を誤解していたらしい。

 ついさっきまで女の子をたった三日でとっかえひっかえする、ただのチャラいイケメンだと思っていたけど、正義感の強い熱血硬派の真面目イケメンだったようだ。


 今の所、海岸に立たせてあるダイサイガーは、どう解体→撤去→輸送するかはまったく目処が立っていなくて検討中らしい。動かそうにもあちこち壊れているし、ここまで移動した時点で燃料がすっからかん。仕方がないので、南の島の強い日差しから守る僕達の日よけになってもらっている。時間的に頂点近くに太陽があって影が小さいのだけど、ダイサイガーは120mもあるので何とかなっている。

 無事に解体出来たら5体全部、輸送艦に乗せて帰ることになっているそうだ。サイガー1と3は燃料だけ補給して空を飛んで帰ればいいんじゃね?とか思ってしまうけど、付近に離陸できるほどの長い滑走路がないとか。じゃぁ、サイガー4だけでも海で帰れば?と言われそうだけど航続距離的に問題があって、とりあえず人だけでも先に何とかすることを考えているらしい。

 ヘリで人だけは回収出来なくはないけれど、本土まではこれまた航続距離の問題でそのままヘリではダメらしくて、これだけ距離があるとただ帰るだけでもなかなか大変だ。

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