第49話 明日への帰還

 海で遊んでいた女子二人が、遊び疲れたのかようやくこっちに歩いて来た。

「あー、楽しかった!気持ちよかったし!」

「……そうだね……」

 その二人もダイサイガーの作る日陰に僕たちの隣に並ぶ形で座り込む。

「お疲れー」

「ありがとー!」

「男子二人は海水浴はいいの……?」

「ああ、うん、今日は色々ありすぎて疲れちゃったので……」

「もったいない……こんな南の島で海に浸かれるなんて、もう一生ないかもしれないのに!」

「……こんなシチュエーションでなければね……」

「あはは、そうかもね!」

 この人はなんでまだこんなにテンション高くて元気なんだ……

 今日は色々ありすぎたのに……

「……それにしても、いやーさっきは本当に危なかった……もうだめかと思ったしね……」

「竜崎さんが弱音吐いた時ね……」

「……あー、あの時はね……その……ごめん……」

「いいよ、なんだかんだ言ってもちゃんとやってくれたし、結果的にはなんとかなったし!」

 またさっきまでのことを思い出す。あの激しい戦闘が終わってから30分も経ってないのに、まだ本当に起こったこととは信じられない。

 そんな出来事を思い出すだけでまた疲れそうなので話題を変える。

「あー、それにしてもお腹減ったなぁ……」

「そうだよねぇ、おなかすいたねぇ」

「何か食べ物あったっけ……ちょっと探してみるか」

「コクピットに少し持ち込んだ食料があったはずだけど、でも……」

「……あ……」

 ダイサイガーの方を見上げてため息をつく。

 普通ならエレベーター的な装置が付いているのでこの状態でも各コクピットまで移動出来るように出来ているのだけど、残念ながら今は動力が切れているので、行こうとしたら自分の手と足でよじ登るしかない。しかし何十m以上も……?さすがにちょっと現実的じゃない。

「地面から一番近くて行きやすいコクピットってどこだろう……やっぱりサイガー5?」

「たぶん……でもレイナさんがそんな気の利いたの持ち込んで、しかも残しておいてくれたかな……でも、他の人が使ってたコクピットに入って漁るのって抵抗がある」

「そうだよねぇ……」

 とりあえず、ダイサイガーの足元(地形に合わせて立っているので微妙に傾いている)に戻って詳しく調べてみると、大小のハッチが何個かあって、表面にある説明書きによると救命筏や様々な脱出装備に救急マークの付いたレスキューキット、機外と機内のコクピットとを繋げる通信装備などが収納されているようだった。

「あ、あったあった、たぶんこれじゃないかな?」

 見ると『サバイバルキット SURVIVAL KIT』と書かれてあるハッチが見つかった。それを開けてみると、真新しいパックに封入された非常時に生き延びる為のナイフや火打石に懐中電灯、変わった所では釣り道具なんかと一緒に、多少の水と固形食品も入っていたので、それをみんなで分けて齧りつつ、水を飲んで一息つく。

 まぁ、普段食べてもそんなに美味しいものじゃないけど、かなり空腹なのでそれなりに美味しく感じてしまう。

「……みんな、帰ったら何したい?」

「このメンバーでまた遊びに行きたいかなー。……楽しかったから。でも前の時は最後あんな事になっちゃったし、今度こそ落ち着いて遊びたい」

「いいねー行こう!行こう!」

「……温泉……みんなで行きたい」

「いいねぇ!」

「打ち上げは、回らない寿司とか焼肉とか……」

「いいね、いいね!」

 クッキーだかビスケットだかみたいな食品をもそもそと齧りながら、あれやこれや、今日あった事、これからの事についてワイワイ話し合う。

「じゃ、そろそろ帰ろっか!」

「……そうだね……」

「……今日は超疲れたしね……」

「……でも、どうやって?……帰るの?」

「あ……」

「そうだった……」


 それから30分ぐらい後に大型飛行艇US-5が飛んできて沖に着水した後、ゴムボートで移乗して、無事に帰途につくことができた。

 離水するために徐々に海面を滑り出した飛行艇の窓から見えるダイサイガーを見ると、こんな南の島の海岸にポツンと一人……いや一体だけ残して自分達だけ帰るのは少し心苦しかったが仕方がない。

 ターボプロップエンジン6基の騒音が響く機内から、どんどん小さくなっても窓から見えなくなるまで、水平線の彼方に消えてしまった後もしばらくの間も南の方向を眺めていたが、その内意識が遠くなってきた。

 結局、他の3人も乗り込んだ所で緊張の糸が切れたようで、座席に座ったらすぐにみんな意識がなくなって、出撃した海上空港に着陸して起こされるまで爆睡してたらしい。

 そこで今回の任務は完全に終了した。

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