第36話 未知との遭遇
そう前置きをして語り始める。
「私たちの地球……母星は、この太陽系の所属する天の川銀河よりももう少し宇宙の中心に向かって16万8000光年(光が一年間に進む距離)彼方にあります」
少しって言っても宇宙単位での話ですけどね……と苦笑いしながら付け加えながら続ける。
長い間、超えられなかった時間と光の速さをようやく克服する航法が発明され、外宇宙への進出が進んでおよそ50年。その50年の間にも技術は進歩して探索可能な範囲も広がったのですが、探索がいくら進んでも知的生命体とその生命体が作る文明が発見されることも、その痕跡が発見されることもありませんでした。
やはり私たちのような知的生命体はこの宇宙で独りぼっちなのか……?と、長い間討論されていたけれど、この地球の暦でおよそ20年前、人工的な電波が偶然観測されて、その発信元を辿ってこの地球が発見された時はすごい騒ぎになりました。……らしいです。らしいというのは、私が生まれる少し前だったから。ただし、一般に公表されたのはほんの数年前なんですけどね、と続ける。
「計5回、密かに調査隊が派遣されたのですが、若かりし頃の私の母がその内の何度目かの調査メンバーで、4~5年の間、現地調査に加わっていたのです」
「その当時は干渉は完全に禁止して、観測だけしていたのですが、潮目が変わったのがほんの3年ぐらい前でした。統一政権に政権交代が起きて、大きく政治方針が大きく変わったのです。この太陽系の人類がこのまま科学技術を発達させて外宇宙まで進出し、本格的に開発を始めれば、今は小規模でもきっと宇宙環境を破壊し始めるだろうと」
「うわ、ありがち……」
「……光の壁を超えることができても、社会はあんま変わらないね……」
「まぁ、それにも当然賛否両論あったのですが結局押し切られて、将来宇宙の脅威となるであろう害星人として、今の内に矯正するという名の下に侵攻計画が立てられて、実行に移すことになったのです」
「……なんて勝手な……」
「まぁ、そうですよね。私もそう思います……」
そう言われても、もっとも過ぎて私は苦笑いするしかない。
「あ、ちなみに人類・人工物の類はいくら破壊しても良いけど、自然物には極力被害を出さないように作戦を実行する、らしいです」
「……舐めプだ……」
「ただ滅ぼしたいだけなら大質量の物体を一個でも落とせばすぐだろうしね……恐竜もそれで滅びたんだし」
こうして具体的に口に出して言うと、本当に自分勝手な話だ。
「……それにしても宇宙人って言っても私たちとあんま変わらないんだね……」
「本当、不思議……」
さっきのオオ風呂でのことを言っているのだろう。確かに、私もそう思った。
「そうですね、それについてもかなり調査しましたが……その結果は交配可能なぐらい、遺伝的にはほぼ同じという驚くべき結論でした」
「「……っ!!」」
「実は私たちの地球と、この地球とは公転周期が微妙に違いますので、まったくそのままではないですが、その他の条件・環境もかなり似通っているのですよ」
「そして、それについては色々な仮説が立てられましたが、一番有力な説は……」
どう説明すればわかりやすいのかを考えながら続ける。
「私たちが生きているこの宇宙の開闢……いわゆるビッグバンから始まったのはおよそ138億年前、そしてこの地球が生まれたのが45億年前。つまり、宇宙の歴史から言えば後半の出来事なのです」
「それから、地球誕生からほぼ全部44億9500万年飛んで、この星に初期の人類がアフリカに現れたのが500万年前、そしてまた493万年も飛んで、7万年前にそのアフリカ大陸から出帆した人類は欧州に広がり、ユーラシア大陸を横断して3万5千年程度かかってこの日本列島に辿り着いて、そこからおよそ2万年ぐらいがこの地域での旧石器時代となります」
まぁ、この辺はあなた達が学校の勉強で学んでいる事なので、私が改めて説明する程のことじゃないですけど……と続ける。
「そこからは、あなた達が良く知って学んでいる16000年前……紀元前14000年辺りの縄文時代からはじまる、この日本列島で限定すると日本史の範囲に入っていきます。そして西暦がはじまって、たった2000年とちょっと……そして地球歴」
「……」
「…………」
「しかし、その縄文時代ですら1万3千年程度もあったのですが、それでもなんと西暦を6周以上も出来てしまうのです」
「なるほど、138億……円か、45億円でもいいけど、その内のたった2000円、もしくは500万円でもゴミみたいなお金ってことだね……」
「すごい例え方するね……まぁわかりやすいけど」
ペットボトルのお茶を一口飲んでから続ける。
「では宇宙が産まれてからの前半に、この地球の人類のような知的生物が生まれて、仮に歴史としてはっきり残る期間が1万年……宇宙の時間で言えばほんの一瞬、絶えることなく科学・文化・文明が存続・発達していれば……ライト兄弟が初飛行してからたった半世紀程度で宇宙にまで飛び出したような、そんな人類に近い生き物が1万年も経ればどれだけ発達して、この地球の人類がアフリカに誕生して少しずつ世界へ居住地域を地球全体に広めたように、母星だった惑星から第一・第二宇宙速度を突破することの出来る技術を開発して宇宙へ進出し、光と時間の壁を超越して、属していた太陽系も、銀河系も超え、全宇宙に出帆し、広がっていったとしたら、どこまでその版図を広げることが出来たでしょうか」
「そして宇宙探索の末に、住環境が整った生命が繁栄しやすいと思われる私達の母星と、この地球を発見して、テラフォーミングを施して私たち、二つの人類の元となる生命の種を撒いた……」
「……そのような存在がいたのではないか……?と、そんな仮説が立てられましたが、まったく確証はありません。……が、もっと宇宙の中心に近い深宇宙の探索が進めば、そういう存在がいた、もしくは現在も存在しているという痕跡が発見されるかもしれませんね……」
この次の日、作戦決行日時が三日後に決まったと通達があり、作戦名はタナバタ作戦とされた。実際には七夕には少し早いけど、無事に作戦が成功して七夕を迎えられるように、という意味らしい。そこから残りの時間を、合体・完熟訓練から連携、作戦開始から戦闘までの流れを何度も何度も確認して、とうとうその日を迎えた。
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