第37話 始動、タナバタ作戦!巨大輸送機ビッグ・マンタ、離陸せよ!

 7/3払暁。

 夏至が終わって、これから本格的な夏を迎える早朝の、東の空が白み始めてだいぶ明るくなってきた、梅雨はまだ明けていないけれど天気は快晴。妹には、朝からちょっと出かけてくると書置きをして出てきた。

 広大な海上空港の端に駐機している巨大な航空機のアイドリングで吹かすジェットエンジンの熱で陽炎が揺れる。この大型飛行機の名前は「ビッグ・マンタ」。サイガーマシン空輸用に開発・建造され、普段は海上空港の巨大ハンガーに収められていて、形状は名前の通り、あのマンタに似ている。

 サイガーマシン各機は分解されて専用キャリアーに載せられた状態で昨日の夜の内に空港に搬入されて、再度組み立てられたサイガー2、4、5は輸送機にすでに積み込まれ、サイガー1、3は離陸を待つだけ。電磁カタパルトで撃ち出されるのは心身への負担が大きいので、滑走路からの離陸はかなりありがたい。

 今はまだ海風もあって涼しいけれど、もう3~4時間もすれば夏の日差しで気温もぐんぐん上がり、通勤通学の時間も始まって、いつもの街の日常が今日も動き出すだろう。そんな日常を守れるのか、またこの街が……いや、この街だけじゃなく、他の街も炎上してもっとたくさんの人が死ぬのか、この一日にかかっている。


「これから今日の作戦……タナバタ作戦の最終確認をします」

 町田先生が大型ディスプレイに表示された図を使いながら説明を始める。

「情報提供により、敵基地は小笠原諸島よりさらに南方の深海2000m、ほぼ正確な位置が無人深海探査機で確認されています。ただし、その探査機はその直後に破壊されました」

 この最後の打ち合わせは空港の一室を借りて、支援体制に空中合体~戦闘に入るまでの流れとかそういうのをパイロット5人が配られた資料を見つつ町田先生から最後の説明を聞く。

「今回の作戦で直接海域に展開する艦隊は護衛艦6隻(内一隻は全通甲板型)、潜水艦2隻に加えて補給艦に潜水艦救難母艦、水上機母艦、深海探査艇とその支援母艦の計12隻。それらの艦隊は、もう数時間前に出撃しているけど、この艦隊が直接支援出来るかは微妙なの。どうしても船は時間がかかるから」

 巨大液晶に表示された作戦展開図を指しながら説明を続ける。

「ただし、敵基地索敵及び監視の為に同海域にいた艦は支援出来るという話だし、主力艦隊が海域に到着しなくても全通甲板型護衛艦から支援攻撃機を飛ばす予定になってます」

 そこまで説明してから、編成を表示していた画面が切り替わる。

「私たちの作戦開始時間はマルゴーマルマル」

 表示されている作戦展開図が時間表示に従ってアニメーションしはじめる。

「サイガー2、4、5号機は大型輸送機ビッグ・マンタが先行して出発して現地まで運びます。さっき見たと思いますが、滑走路に駐機していた機体です」

 一応、サイガーマシン5体全部載せて運ぶことも出来るように設計してあるけど、全部積むとスペースがなさすぎて取り回しが悪い、積み込むのが大変、離陸するのに補助ロケットを使わなければいけない、燃料が満タン積めないから離陸する時に最低限の燃料しか積めず、空中給油機を飛ばして給油する必要がある、などの問題が出るので、サイガー1と3は自力で現地まで飛ぶ事になっている。

「それから、ビッグ・マンタ離陸の30分後にサイガー3、その更に30分後にサイガー1が出撃して現地上空で集合します」

「そして集合完了後、まずサイガー1とサイガー3が航空合体、続いてビッグマンタから放出されたサイガー2、サイガー4、そして最後にサイガー5が合体してダイサイガーが完成します」

 その説明を聞いているメンバーの顔は一様に不安そうだ。なんたって、シミュレーションならともかく、実際にやるのは初めてで、しかも失敗は許されない。

「大丈夫、君たち5人の気持ちを合わせれば成功する。絶対だ」

 そんな空気を読んでの言葉なのだろうけど、そう言われるとなんだかそんな気がしてくるから我ながら単純なものだ。

「その後、護衛艦隊……深海基地打撃戦隊到着まで当該海域の警戒・監視任務にあたり、もし敵の妨害があれば排除します」

「敵の反撃はどの程度を想定しているのでしょうか?」

 そこまでの説明を聞いて荒砥が質問する。

「正直よくわかってない。わかっていないですが、何らかの妨害があると思った方が良いでしょう。しかも芹沢君以外は実戦は初めてなので注意して下さい。敵基地への攻撃及び破壊は到着した深海基地打撃戦隊が担当しますので、あなた達の仕事はその戦隊到着までです。とにかくそれまで頑張ってください」

「以上で今日の作戦概要の説明は終わりです。何か質問はありますか?」

 その後は特に何もなく最後のミーティングは終了した。


「じゃぁまた後でね」

「はい、また後で」

「三人も、また後で」

「……うん……」「……また」「……はい」

 打ち合わせが終わって竜崎と荒砥とレイナさんと、そして町田先生の第一陣の出撃組と別れる。旅客機利用のなるべく少ない時間を見計らった作戦開始時間は午前五時ちょうど。もうそろそろ時間だ。夏のこの時間だともうすでに日の出は過ぎてはいるがまだほの暗い。

 ヒュゥゥゥン……

 ビッグ・マンタのエンジンがアイドリングを終えて本格的に稼働し始める。

 巨大輸送機ビッグ・マンタがまた一段甲高い音を発しながらゆっくりと動き出した。誘導員の指示に従って、駐機場所から誘導路を通って滑走路へと移動する。

 後発組の南原さんと二人で空港の展望デッキからビッグ・マンタが滑走路の端へ移動して、ゆっくり動き始めて速度を上げて完全に離陸するまで大きく手を振って見送った。

「……見えてたかなぁ……」

「見てたと思うよ」

 遠くてよくわからなかったけど、たぶん見ていたと思う。

 そこから、一旦待機スペースに戻って、次のサイガー3の出撃まで待つ。

「……眠れた?」

「実は……全然!」

 てへへと、苦笑いしながら空元気で答える。

「芹沢君は?」

「僕も……それでもこの前よりまだ眠れたかな。まぁでも今回は空中で着くまで少し時間あるから。そういや、この前の時、弁当ありがとうね。すごく美味しかった」

「いえいえ、お粗末様でした」

「……もしかしたら、あのお弁当が本当の最後の食事になる所だったんで……生きていられて良かった……まぁ、今日死ぬかもしれないけど……」

 ……そこで会話が途切れてしまった。しまった、余計な事を言ってしまった……

「……さっきのブリーフィングでさ……もしこの作戦が失敗したらどうなるの……?とか、そんなことばかり考えちゃって、震えが止まらなくて……今更こんなことやめておけば良かったとか考えちゃう」

「……」

「……でもね。今の自分に出来ることがあるなら、全力でやろうって」

 そういって笑うが、どう見ても無理やりの作り笑いだ。

「そういや、今日持ってきてるんだ!」

「……何を?」

 そう言って胸ポケットから取り出したのは……

「じゃじゃーん!あの日に撮った芹沢くんの写真!」

「うっ……あのホストパネマジ写真!?……それもう、捨てない?」

「いやだよ、これコクピットに貼るんだから!もう絶対にダメだってなっても、これ見るともうちょっと頑張れる、って思うんだ!」

「……そっか……」

 ……まぁ僕の写真がそんなに役に立つならそれでいっか。

「……超今更だけどちゃんとしっかりできるかな……練習の時はあんまり成功しなかったし」

「大丈夫、あれだけ練習したし、絶対に成功するから!」

「そうだね、そうかも。そう思うことにする!」

 元気付けるために話を変える。

「あ、そういやG耐性は女性の方が高いらしいよ」

「そうなの!?」

「マジマジ!だから自信を持とう!」

「うん、なんか元気出てきた……気がする……!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る