第13話 炎上、神杜市

 遠くでサイレンの音が鳴っている。

 飛んできた破片が当たった所が痛い。

 いろんな匂いがする。炎上する建材が焼ける臭い、もうもうと巻き上がっている黒い煙の臭いと……肉が焼け焦げる臭い。

 視界に、まず飛び込んできたのは、光線の直撃を食らって炎上する建物に粉々に吹き飛んだ瓦礫、泣き叫ぶ人たち、呆然とする人たちと……一面の血の池の上で倒れて動けない人に、散乱するほんの少し前までは生きていた人の一部だったもの、千切れて吹き飛んだの、潰れたの。ここにいる人のどれぐらいがまだ生きていて、どれぐらいの人がもう助からないのかわからない。

「……人が……死んだ……」

「ィヤァぁぁ!!」

 目の前の惨状を見て南原さんが悲鳴を上げ、他の三人はただただ呆然としている。

 僕も、信じられない光景を見てショックを受けて唖然としているが、なんとか考えをまとめてこれからどう行動するか早く決めないといけない……でないと、今度はこっちが死ぬ。

「……みんな、どこも怪我ない……?」

「……」

「………ああ、うん」

 振り返って見てみると、今度は観光船を持ち上げて市街地の方へ投げようとしていた。しかし、いつまたこっちに向かってくるかわからないので、ここから一刻も早く離れないといけない。

「……早く……立って!」

「……う、うん……」

「とにかくここから離れよう。またこっちに来たら今度はやられる」

 竜崎にそう促すが動きが遅い。

「……待って、私……動けない……足に力が入らない……」

「じゃぁ手を貸すから……立ち上がって」

 そう言ってる竜崎に肩を貸し、抱え上げるように持ち上げるとよろよろと立ち上がる。

「次来るまでに逃げないと!走って!」

「…………う、うん…………」

「早乙女、荒砥、竜崎をお願い」

 竜崎がよろよろとでも歩き出すのを見届けて次に南原さんの様子を見ると……

 目の前の光景に驚いて動けなくなってて……少し強めに頬を叩く。

「大丈夫、大丈夫だから……肩を貸すから……立ち上がって?」

「う……うん……」

 言葉もない南原さんも抱き抱えるように無理やり立ち上がらせる。

 なんとか落ち着かせるために少し強めに抱きしめる。

 体温が伝わってくる。震えているのがわかる、鼓動も早い。僕の手も震えている。

 僕も怖い。

 ……でも、この子を絶対に守らなきゃ。

「今は早くここを離れるんだ……」

 腰が抜けて顔をグシャグシャになっている南原さんを引き摺るようにして、とにかく岸壁から離れる。

 ……でも……どこへ……?どこがいい?

 単純に走って距離を取るか、なるべく頑丈そうな建物に隠れるか、或いは地下の方が安全か、どうしよう、どうする?早く、早く決めないと……

「とにかく、ここから……」

 ……その時、携帯が鳴る。発信元は……町田先生……?震える手でタップする。

「……はい、もしもし……?」

『ああ、良かった繋がった!君達、今ハーバーシティだよね?大丈夫だった?怪我はない?』

「ええ、はい、まぁなんとか……」

『じゃぁ、今から地図を送るからそこに書いてある場所にすぐに来てちょうだい』

 手短にそれだけ言うと通話が切れた。

 直後に町田先生から『ここまで来て』というタイトルのメールに地図付きのメールが着信する。ここからそう遠い場所じゃないので、逃げる先に宛てもないし、指示に従って地図の場所に移動することにした。

「誰から……?」

「町田先生。ここに逃げろって」

 そう言って携帯に表示されている地図をみんなに見せる。

「……どうする?行く?」

「うん、行く当てもないしね……どうかな?」

「そうだね……どこへ逃げていいかもわからないしね……」

 みんなでその地図の所へ歩き出す。幸い、そう遠くない場所だったので良かった。

 もうすぐ目的地だけど、付近に人影は……ない。みんな逃げ出したのだろう。


「こっち!」

「町田先生……?」

 最後の角を曲がった、目的の場所の前には町田先生がいて手を振ってくれていた。僕たちが来るのを待っていてくれたようだ。

「あなたたち、怪我はないようね。本当に良かった」

「ええ、まぁなんとか……」

「そんなことより先生、あれはなんなんですかっ!?」

「説明は後。はやくこの扉の中へ」

 外からの見た目はどう見てもただの店舗用の業務扉なのだけど、それを開けると見た目とは不釣り合いな分厚さがあり、空気ががらりと変わった。

「静かですね……」

「外で起こってることが嘘みたい……」

 ついさっきまで聞こえていた人の叫び声だのサイレンだの、そして大破壊の音だのはまったく聴こえなくなって、耳がおかしくなったのかと思うぐらいの静寂。

 中は思っていたよりも広くて歩いていくと奥にもう一つの扉が現れる。

「そこ、開けてるから手伝ってちょうだい」

 暗証番号を打ち込んでセキュリティカードを通すとロックが外れたから、取ってを引っ張ったが……

「お、重い……」

 今通った外と繋がっていた扉より更に分厚く、重く、商業施設の真ん中にあるには不釣合いなごつい蝶番が軋みながら開いていく。開いて見てわかったが、50cm以上もの厚さがあったのでかなり驚く。どういう扉なんだ……

 そんな扉から中に入ると次は下へ降りる螺旋階段が現れる。

「暗いから足元に気を付けて」

「……はい……」

 照明は必要最低限あるだけでかなり暗く、金属製の階段を降りる6人分の乾いた足音だけが響く。その螺旋階段を降り切ると小さい小部屋に行きつき、そこには三つの扉があって、その一つの扉に入る。

「ここは……?」

「次世代エネルギー研究所・ハーバーシティ中央指揮所よ」

 扉の中は教室の半分ぐらいの空間に巨大なモニター一個とPCが並んでいて、何人かの人が慌ただしく働いていた。

「とりあえず、ここにいれば安心。核攻撃にも耐えられるように出来ているから。たぶん、だけどね……」

 その大きなモニターには定点カメラや様々な動画や画像が炎上したり倒壊したビルや瓦礫で埋もれた道路の今の様子が映っていて、ロボットは海岸沿いに東へ移動しながら、ビルや船やを投げたり、破壊光線をまき散らして休む間もなく市街を激しく攻撃して破壊の限りを尽くしている。

 その時だった。

 敵ロボットがいきなり爆炎に包まれた。

 編隊を組んだ三機のヘリが激しく機関砲とロケット弾による攻撃を加え始めたのだ。

「あれは……!?」

「一番近くの駐屯地から急遽飛び立った陸上防衛軍の大型攻撃ヘリです」

 ……しかし。その攻撃は通ってはいない。なんらかの障壁に阻まれてダメージが与えられないようだ。続いて空防の支援攻撃機が飛んできてAGM(空対地ミサイル)で攻撃するが結果は同じ、現用兵器の攻撃がまったく通じない中で……

 激しく風を切る音だけがする一機の謎の戦闘機?が飛来した。

 その戦闘機から光線が飛び、障壁に阻まれる事なく敵ロボットに大きなダメージを与える。

 その攻撃に耐えられずに転倒して、大きな水柱が立った。

 もう一度旋回して戻ってきて、倒れた敵ロボットにもう一撃追い打ちを加える謎の戦闘機。

 ロボットはそのまま起き上がることはなく、登場した時とは逆に4つに分離して、バラバラになった4つはまたふらふらと浮かび上がった後、高速で飛び立ち、その後を僕たちを助けて?くれた戦闘機も飛行物体が追いかけていく。

 ……あれも陸防の戦闘機なんだろうか……?それにしてはあまり見かけない形だけれど……

 そんな様子を追跡していたカメラの画面からどんどん小さく、見えなくなって、残ったのは何事もなかったように静まり返る海だけだった。

「……終わった……?」

「……助かった?」

 しばらく沈黙した後に切り出す。

「……あれは一体何なんですか……?」

「……そうですね、今はちょっと無理ですが、近い内にわかっていることをちゃんと説明しますから、今日は帰りなさい」

「……はい、お願いします……」

 そう言って、市内の被害状況を確認する。

「えっと……道路は渋滞してるし、緊急車両の通行規制も始まっているから、お家の人に迎えに来てもらうのは難しそう」

 大型ディスプレイに表示されている今現在の被害地域のリアルタイム画像や、道路や交通機関の不通情報を見て言う。

「でも鉄道は……地上のは無理だけど地下鉄はなんとか動いているみたいね。それで帰りなさい。くれぐれも気を付けて」

「わかりました……」

「……じゃぁ帰るか……」

「……だね……」

 その時、携帯が鳴って妹の奈美からメッセージが入った。

『お父さんが、ビルの倒壊に巻き込まれた。すぐ帰って』

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