第14話 再開、学校

 携帯の照らす布団の中と、その携帯から繋がってる部分だけが自分の今の世界。

 そんな閉鎖された空間でこの間起こったことを整理する。

 事件が起きてからおよそ三日経っているけれど、まだTVもネットも今後の対策やら真偽不明の情報やらで大騒ぎ。

 父親は入院中で、妹と交代で病院に行ったり来たりしているが面会出来ない。

 この三日間、その病院へ行く以外はほとんどボーっとしてただけ。何を食べたとかそういうのもあまりはっきり覚えていない。

 しかしいつまでも布団の中でウジウジしていても何も解決しないので、諦めてのろのろと這い出て学校へ向かう。学校はとりあえず、週明けの月曜は休校になって火曜日の、それも午後から登校することになった。


 その再開初日の学校は当然大騒ぎだった。

そりゃそうだろう。地方の中型都市が謎の存在によって攻撃されて都市機能は完全に麻痺、たった1時間ぐらいの内に半壊したのだ。

「あの事件見てた!?」

「見た見た!定点カメラの映像だったけど!」

 みんな興奮状態であれやこれや憶測を交えながら好きなことを言っている。

「でも、芹沢たちは間近で見たんだろ!?どうだったんだよ!なぁなぁ!」

「そうだよ、教えろよ!なぁ……」

「チッ、うっせーーーんだよ、しゃべることなんかなんもねーよ、ほっとけよ!」

 しかし、そんなクラスメイトのウザがらみも後ろの竜崎の気迫に圧倒されて話もそこそこに退散していく。今日だけはこの怖い級友に感謝するしかない。


 その日の放課後、あの場に居合わせた5人は町田先生に呼び出される。

「とりあえず、現物を見てから説明した方が早いよね。着いてきて頂戴」

 そう言って5+1人は外の駐車場へ向かう。

「先生も含めて6人もいますけどいいんですか?」

「大丈夫、大型だから」

 大型……?何の話だろう?

 そう言って学校の駐車場に案内されると、どう考えても学校には場違いな自動車が止まっていた。たぶんあれだろう。

「これは特殊万能偵察戦闘車輛、マッハ・ラーチャーと言います」

 待っていた自動車は確かにかなり大きかった。まず車輪からして普通の車より少し大きいしごついし、六輪もある。色は銀色を基調に、赤のラインが走っていてタイヤのホイール部分の白がワンポイント。正面のボンネットや側面の目立つ所には大きくNGEL(Next Generation Energy Laboratory=次世代エネルギー研究所)というロゴが入りの星の意匠をあしらったマークが付いている。略してニジェルだろうか?

 どれぐらい大きいかというと前席に余裕で三人座れるぐらい。かなり昔のアメ車がこれぐらいだった気がする。もしかしたら普通免許では走らせられないかもしれない。といっても半自動運転なのだけど。

「大きいだけじゃないわよ。対戦車地雷を踏ん付けても中の人は大丈夫。もっともそんなことになったらさすがに廃車だろうけどね」

「そりゃすごい……」

 早乙女が感嘆の声をあげる。

 確かに、窓ガラスもドアも良く見慣れたものより分厚くてかなりしっかりしていて重く、それでいて、開けると屋根の部分から大きく上へ跳ね上がる、最近ではあまり見ないタイプの開き方をするし、後部には空も飛べそうなぐらい立派でかなり大きい可変式リアウイングも付いていて、随分昔に流行ったというスーパーカーっぽい雰囲気もある。運転席は真ん中にあるのも珍しい。これだけ大きいと片側に寄っていたら運転しにくいのかもしれない。

 正面にフロントライトの類は見当たらないが、それもそのはず稼働して格納・展開出来る、リトラクタブル・ヘッドライトになっていて使用する時にせり出してくるようだ。カッコいい。

「さぁ、みんな乗って頂戴」

 その大型車に先生と僕達5人を乗せて出発する。

「乗り心地は結構いいですね」

「で、どこへ行くんですか?」

「次世代エネルギー研究所。……の奥の方の開発区画」

 なるほど、エネルギー研究施設の方は何度も行った事があるけど、そっちの方があまり行った事がなかったな…

 研究所までの道のりでは早乙女は興奮してしゃべり続けていて、女子二人と荒砥は終始ずっと黙っているが、雰囲気は少し違っていて、南原さんは思いがけない展開にひたすら緊張している風だけど、竜崎は腕を組んで不機嫌そうにぶっすりしている。荒砥もずっと黙っているが、見た目では何を考えているかよくわからない。

 学校の敷地を出て、研究所の敷地へ入ったけれど相変わらず広くて大きいため目的の施設にはまだ着かない。微妙に登ったり下ったり何度か繰り返してようやく目的の建物に到着した。

「この子達にも臨時の入館証をお願いします」

 ようやくたどり着いた車両用入口の守衛さんに車に乗ったままそう伝えると、配られた人数分の入館証を首にかける。そのままトンネルの様な通路を車で進み、もう一度セキュリティチェックがあった後もマッハ・ラーチャーに乗ったままエレベーターに乗り、今度はどんどん下へ降りていく。それもかなり深い。

「深い所にあるのですね」

「地下10階の、ここでは一番深い所まで降りているからね」

 なかなか広くて圧倒される施設だ。こんな所は歩いて移動しようとしたら大変だろう。

 ずっと騒がしかった早乙女も含めて他の4人もかなり驚いていて、言葉もほとんどない。

「さぁ、着きました。降りてください」

 エレベーターから降りた後もずっと車に乗ったまま移動して、ようやく着いた先は頑丈そうで、かなり大きい扉の前だった。先生はその扉の開閉手続き始める。結構厳重なようで、幾重にもかかったセキュリティを解除した後、ようやくゆっくりと開き始めた。

「さぁ、中に入って下さい。暗いですから足元には気を付けて」

 中は通路からの明かりと一部の非常灯や装置のランプ以外は照明らしいものは何も点いてなくて真っ暗だからよくわからないけど、声の響き方からかなり広い空間なようだ。

「照明を付けてください」

 入り口近くの壁に付いている内線電話を通じて指示を出すと強力な照明が点灯して一瞬視界が真っ白になって、目が慣れてくると、思っているより広くて高い空間の真ん中に巨大な構造物が存在していた。

「これがサイガーマシン……の、1号。やつらに対抗するために作られたのよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る