第33話 シゥェリ・ヴァン・ュルリイューナ
研究所の居住区画の一室を与えられて、ようやく一息つく。
あやうく射殺されそうになったりと大変な一日だった。
ただ、あの後は、もう一人の女性がここまで案内してくれて、使い方も一通り優しく教えてくれた。ついでに詳しい自己紹介もしてくれて、何か困ったことがあれば何でも言ってくれとまで言ってくれたのはナンバラさん。いい人だ。
……と、もう一人私を殺そうとしたリュウザキさん……その話をしながらナンバラさんはしきりに謝ってくれたので、こっちまで恐縮してしまった。
……それにしても、ほとんど勢いでここまで来てしまったけど、これで良かったんだろうか……?と、今更自分自身に問いかける。
最初は、日々ほとんど変わらない日常に飽き飽きしていた生活の中へ、いきなり飛び込んできた、まったく異なる文化・異なる文明……つまり異世界への興味だけだったが、小出しにされる情報にときめいた。宇宙にはこんな世界があるだなんて。すごく感動した。
そこにいきなり持ち上がった侵攻計画に居ても立っても居られなくなって自分の気持ちのまま突っ走った結果とはいえ、ここは敵地で、私は敵陣営の存在。この計画に反対する人たちの支援に加えて、地球侵略の前進基地建造の為に編成された施設建造支援隊に色々誤魔化して潜り込んで、とうとうこんな所まで来てしまった。
改めて今日あったことを整理する
「あの人が……あの子がね。ふふっ」
前の時は暗かったからわからなかったけど、今日はじっくり見ることができた。しゃべることが出来た。そんなほっこりした気持ちを思い出していたら、その後の危うく殺されかけた記憶まで連なってきてドキリとして身が震える。
寝台に寝転んで、そんな事を思い返していると、コンコンと室内に居る私に対してであろう合図が鳴った。
「はっ、はいっ!?」
急いで自動翻訳装置を装着して対応する。
「すぐ開けますんで!」
開錠の手続きをしてドアを開けると……
そこには、さっきここまで案内してくれたナンバラさんと……腕を組んで仁王立ちしている、リュウザキさんが立っていた。
「ぉ、おう、ちょっとツラ借せや……」
「休んでる所ごめんね。今ちょっと時間いいかな?」
「……?ツーラー?」
今使っている翻訳装置はスラングまではまだ正確に対応していないし、主語も目的も不明瞭なのだけど、恐らく着いて来い……ということだろうか?
……しかし、この星で今までも幾度となく訪れたピンチを何度もこれで乗り切ってきた信頼と実績がある、思わずとっさに出た言葉がこれだった。
「……ワタシニホンゴワカリマセーン」
「……ま、まぁ難しい話じゃないから……これから一緒に戦う女子だけでコミュニケーションを図ろうと思って。……とりあえず、大浴場行こっか?」
「……だい、よくじょう……?大欲情っ!?」
「ん……?大きなお風呂があってね。個室に付いてるユニットバスは狭いでしょ?」
「ああ、オフーローね……それならわかります。日本語難しいです」
なんか言語がまったく通じていないような、あやしいやり取りになってまったので、さっきの適当な外人設定の続きでなんとか誤魔化す。
……しかし。さて、困った。
この星に来てからおよそ一か月、なるべく早く馴染もうと、目立たない様にしつつも色々調べて、食事なんかにはだいぶ慣れた(美味しかった)が、こういう細かい文化・慣習やシチュエーションまではまだ良く知らない。それに衛生状態を維持する為に入浴する、というシステムがあるのは知っていたが、実際に使用するのは初めてだし。
「べ、別にいいんだよ、来なくても……」
「どうかな……?」
「……あ、いえ……、行きます」
実際あまり良くわらかないままだったけれど、促されるまま着いていく事にする。さっきの事もあったからわからないけど、今更危害を加えられることもないだろう。
「さ、着いたよ!」
標識にはオフーローじゃなくて大浴場と書いてある。ああ、なるほど、漢字で書いてあるのならわかる。フロの大きいヤツだ。その出入り口には何やら呪術めいた、横方向に広がった楕円の上側が大きく欠けている部分から上方に三本の波線がニョロニョロと突き立っているクラゲを逆にしたような謎の記号が描かれている赤い布と青い布が垂れ下がっていて、その赤い方に入っていく。
勝手がわからず、戸惑っていると南原さんが声をかけてくれる。
「こういう大きいお風呂は初めて?」
「アッ、ハイ。作法とか良くわからなくて……」
「この国ではね、一緒にお風呂に入ってコミュニケーションを取るの。裸の付き合いというやつだね。はい、これはタオルとバスタオル、小さいのは中で、大きいのはあがった時に体拭くのに使ってね」
……そうなんだ……宇宙は広いな……様々な文化があるものだ。
しかしそのセリフを聞いた竜崎さんは微妙な顔をしている。
……んんっ??しかし、裸!?ということは脱ぐのっ!?
そんな戸惑っている私を気にすることなく二人は着ていた衣服を次々と躊躇うことなくさっさと脱いでいく。
……これは私も……脱がないといけないってこと……?
これ以上戸惑っていると怪しまれるので、意を決して私も脱いでいく。今着ているのはこの星で揃えたものだ。お金は手伝いに連れてきたロボットがここで就労して稼いだもの。ロボットと言っても外観ではわからないぐらい精巧に作られているアンドロイドだ。この星での調査の為に開発されて、言っては何だが私よりここの社会・風俗に完全に馴染んでいる。
一足先に脱ぎ初めている南原さんは、私の一挙手一投足をチラチラ見つつ脱いでいる。特に、虹色の髪の毛に興味津々。……なような気がする。
覚悟を決めたとはいえ、それでもまだ躊躇っているので脱ぐ動作が遅いのだ。
……しかし……他人が居る前で裸になるのは想像以上に恥ずかしいな……
なんというか、ここでのコミニュケーションが生々しい……
そもそも、ここへ来てからほぼ一人で隠れて情報収集……という名の隠遁生活を送っていたので、他者とのコミュニケーションはほとんどない状態の一か月で、更には同年代の同性……というかこの星に居住する人達とのちゃんとしたコミニュケーション自体、今がほとんど始めてなのでいつも以上に緊張しちゃってるのだ。
「あのぉ……すいません、こっち見ないで頂けますか……?」
「あ、ごめんなさい、いい身体してるからつい……」
そうなのだろうか?それともお世辞だろうか。
私たちとほとんど変わらない年齢の女子の平均的な体格までは詳しくないが、この二人もまったく違った方向にだけどかなりいい感じだと思う。
竜崎さんは同年代の女性よりたぶんかなり背が高く、手足が長く、胸部も大きくてメリハリが効いた体格なので、見た目は実際の年齢より高めに見えるかもしれない。
南原さんは普通な感じだけど、それなりに大きかったり、くびれていたり、年相応な感じなのが良い感じ。なのだと思う。ちなみに私はその二人の中間ぐらいだと思う。思いたい。
「……それにしても、その髪の毛の色、すごいね……染めてんの?」
「私のですか……?いえ、これ地毛なんです。母親からの遺伝で……自分では気に入ってるんですけど……」
竜崎さんにそう言われて、長さは腰ぐらいまである、光の加減で角度によって微妙に虹色に艶めく髪を撫でる。
「いいんじゃないですか?綺麗でいいと思いますよ!」
「でもこれ、ちょっと目立ちすぎるんですよね……なんとかしないと……」
「まぁ確かにね……」
そんなやり取りをしながら、私はまだ逡巡しつつのろのろと服を脱ぎ、南原さんは脱衣を完了させた後、私を待って……私が待たせている間、何か薄い台の上に乗って下を覗き込みながら「太った……?いやいや、そんなことはないはず……運動してるし……もしかして、筋肉が増えたから……!?」とかブツブツ言っている。
竜崎さんは少し遠い所にいて、壁に設置してある鏡越しに見える後ろ姿を失礼にならない程度にチラチラと横目で行動を観察する。
彼女はここに入ってから脱衣を早々に終わらせてからすぐに水の出る装置の前で結構長い間ゴソゴソと何かをやっていて、気になっていたけど、その作業がようやく終わって、あー終わったんだー、一体何してたのかな……?って振り向いた姿を何気なく見て……
「……ィひぅェっッ!?」
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