第34話 お風呂は命の洗濯だよね☆
かなり衝撃だった。超驚いた。
何かしら言ってしまうと失礼になりそうなので正直な感想を言うのはかろうじて抑えたが、声にならない声はあげてしまった。
なぜって、ついさっきまでとは、まったく別人になったかのような変わり方だったから。
まず、目の色が黄色と緑色だったのがほぼ黒になっていた。あれが普通じゃないんだ……そして、肌の見栄えを良くするために顔面へ分厚く幾重にも塗り重ねた塗布物?や瞼に増設したまつ毛などを除去した竜崎さんはすっかり雰囲気が変わって、トゲトゲした空気もなくなって目線もキョロキョロ落ち着きがなく挙動不審で、緊張のせいかしきりに髪の毛を触っていて瞬きの回数も多く、心なしかオドオドしてさえいる。
更に髪の毛も顔の前に垂らしているので顔もはっきりとは見えない。こんなに外見が変われば雰囲気まで変わるんだ……私に銃を向けて撃ち殺そうとしたり、そうでなくても目力で睨み殺そうとしてたような、さっきまでの彼女とはまったく別人としか思えない。
ちなみに、南原さんは脱衣後でもあんまり変わっていないが、竜崎さんのあまりの変貌っぷりには引きつつかなり驚いていて、謎の友情や連帯感が芽生えそうである。
「もしかして……あなたも始めて見たんですか……?」
「……ああ、うん、竜崎さんはいつも私より先に起きてるし、寝る時も私より遅く寝てるし、でもそんな朝でも夜でも気付いた時にはもうばっちりメイクしてるから、すっぴんを見たの実は今が初めてなんだよね……」
「そう、なんですか……すごいですね……(メイク……作り込むって意味でいいんだっけ……?顔を作り込む……確かにそうかも……)」
「……ああ?何?私の顔に何かついてる?」
「「ああ、いえ、何も!」」
返事がきれいにハモってしまった。外見はともかく口調は厳しいままっぽいし、目つきもさっきまでの厳しかった竜崎さんに一瞬で戻る。
そのまま竜崎さんは引き戸(入口?出口?)の方へ行っていってしまった。
「びっくりした……あんなに変わるもんなんだ……私も本格的にやろうかな……」
また南原さんはブツブツ言ってるけど、私はただただその変身っぷりに茫然としてた。
「あ……じゃ、じゃぁ私は先に入ってるね。ゆっくり脱いでていいよ」
「ああっ、待って、待ってください!一緒に入ります!入りますから!」
ようやく衝撃から立ち直って、先に入ろうとしている南原さんを止める。
ここで引き離されたら大変だ。事情を知らなさ過ぎて入浴方法に詳しくないのがバレてしまう。急いで残った衣服を脱いで完全にすっ裸になって、二人に倣うように小さい布一つで身体を微妙に隠しながら遅れないようについていく。
結局、微妙に待ってくれていた竜崎さんと南原さんの私の三人でカラカラと引き戸を開けると……
思ったのとはかなり違う光景が広がっていた。
「ふぁ~!?」
「ね!すごいよね!私も初めて見た時、驚いたよ!」
「……っ!なんか、地下迷宮にある回復ポイントみたいだね……」
驚いている私と、先に入っていた竜崎さんのなんだかよく分からないコメントを聞いて、南原さんが胸を張る。
内部は服を脱いだ部屋とは打って変わって洞窟のような内装に、松明のような暗めの照明がちょっと怪しく、かなり広くて泉のように湧き出るお湯がこれまた広い浴槽に流し込まれている。
「ここには何度か入った事があるんですか?」
「うん。といっても三度目ぐらいだけどね。一度目は基地の中を探検してた時に見つけただけだったし」
「なるほど、それにしても水をここまで大量に使用出来るのはすごいことです……」
……これって、このお湯の池に入るって事だよね……?……さて、じゃぁ入ろう。
……と、思ったら、二人はまず身体を洗い始めたので、急いでそれに習う。こういう大きいオフーローを見るのも入るのも初めてなので、今まで収集してきた中途半端な知識と、二人の様子を盗み見して見様見真似でなんとか儀式を済ませて、ようやく湯船に浸かることが出来た。
「「「はぁ~~~」」」
今度は三人でハモる。
湯舟は深めでかなり広く、そこに張られた大量のお湯の水圧によって押しつぶされた肺から吐き出される空気に少し発音を乗せると、この溜息ともなんともつかない声が出てしまうのだろう。
私の場合は緊張から解放された安堵の溜息も含んでいる。ここまで来るまでの色々手順が多くて色々面倒くさくて、ようやく入れる……?とか思ったら浴槽からお湯を2杯すくって身体にかけるトラップにはあやうく引っかかりそうになったし。
……が……しかし……
あああーーー、これは気持ちがいい……
最初は熱めかと思ったけど、浸かっている内に慣れてきて、緊張していた身体全体が一気にほぐれて弛緩する。広いので足も手も伸ばせるし。
「こういうお風呂は初めてだっけ?」
「アッハイ、私が住んでいた所は水資源がここまで豊富ではないので……ただ、水が豊富な地域ではこういう入浴をするケースもあると聞いたことがあります」
積極的に話しかけてくるのは南原さんで、竜崎さんはフーローへ入ってからは微妙に距離を感じる。いや、それまでもそんなに近かったわけじゃないけど。殺されかけたし。
「このお風呂って、この基地を作った時に出た温泉から引いてるお湯なんだって」
「へぇ……」
「そ、そうなんですか……」
なるほど、この島国は水が豊富だとは思っていたが、お湯まで出るとか。
「それにしても、この基地すごいですね……なんでもある……」
「この基地は元々、景気良かった時代に地下にコンサートホールを作るための空間だったんだって」
「……へぇ……」
「それが工事途中で計画は中止、残された地下空間を再利用して、更に大きくしたのがこの研究所……の地下のこの基地なんだってさ」
「……詳しいんだね……」
「うん、高校ではいろんなことに挑戦しようと思って、ここのこともちょっと調べてみたの」
竜崎さん@大人しいモードではあまり発言しないのだけど、それでも受け答えする度にふと見ては驚いてしまうが、さすがにそろそろ慣れなければならない。ようやく慣れた頃にはまたもとに戻ってそうだけど。
「あ、情報秘匿のために私たちはサイガーマシンのパイロットってのはごく一部の人しか知らせてないから、この基地の仕事を手伝う謎のJKってことになってるから」
「……ま、こんなただの高校生たちがパイロットだなんて信じないだろうけどね……」
「だから、正体がバレそうな事する場合はちゃんとサイガースーツとヘルメットを被ってね。そのためにバイザーはミラーになってて顔はあんまり見えないようになってるらしいから」
「……注意します……」
「……わかってる……」
「さて、そろそろ上がろっか」
結構長い間浸かっていたのに、それでも名残惜しいと思ってしまうが、さすがに上がらなければいけない。
「また一緒に入りましょうね。これからもっとこういう機会もあるだろうし!」
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