第19話 抹殺。
飛び降りて地表までの間に識別魔法でデリトを探す。
デリトの奴は俺と入れ替わりで出て行って、俺がミカとの別れをしている間に随分と距離を稼いでいた。
「…ここからドッグまで随分あるのに…」
ここで奴が7ランクの風能力者だと言うことを思い出した。
多分今の俺のように風を使って移動している。
あの切れ味はおそらく武器だけじゃない。
風魔法を使ってのことだろう。
自分の能力を認める気はなかったが、上には上がいることを教えてやる。
奴らは結局2番艦を奪うことにしていた。
奪った先はどうするのか?野盗にでも成り下がるのか?それともどこかの企業にマッシィータの船だと売り込むのだろうか?
まあ主砲だけでも目を見張る性能だから買い手は数多だろう。
戦闘部メインで、その他の部署も大なり小なりストライキに参加した奴がいた事が良くなかった。
戦闘部は案外潰しが効く。
火魔法の使い手なら動力部に行ける。
他の連中も戦闘用と艦内用で力の方向性が適正とは違っていても、代役くらいなら勤められる。
そして1番艦戦闘部は半数しか出てこれていないのが少し問題で、兵数が違いすぎる。
「全員聞け。ノウエだ。反乱者を倒す必要はない。時間稼ぎだけをしろ。もう間も無く着く」
ヒグリもウキョウもミカ達のことを聞いたのだろう。
誰も余計な口出しはしてこない。
俺はあっという間にドッグに着くと同時に着いたようなデリトを見る。
真っ青な顔。
まさか自分でシーマを殺すなんて思って居なかったのだろう。
諦めてすぐに逃げ出せば、俺はミカとシーマ達の安全を確保するまで動かなかった。その時間があれば、1番艦戦闘部を蹴散らして動力部に火を入れて、出航と同時に主砲を放って混乱に乗じて逃げる事もできただろう。
だがその機会を奴等は無くしていた。
逃すわけがない。
デリトの奴は筋肉質の巨体を震わせながら、「お前さえ!お前さえマッシィータに来なければこんな事にならなかったのに!」と言うと魔法攻撃剣から風の魔法による斬撃を放ってきた。
後ろの戦闘部の連中は「退避!」「危ない!」「ノウエ!」と言っているが実の所脅威はない。
俺は右手を前に出して風魔法を掻き消すと、想定外の出来事にデリトは「へ?」と言って俺を見る。
「終わりか?」
「今のはなんだ!?手違いだ!!何かの間違いだ!」
デリトは叫びながらコレでもかと剣から風魔法を放ってくるが、俺の右手に触れれば全て掻き消す。
「嘘だ!嘘だぁぁ!!」
血走った目で剣を振るうデリトに飽きた俺はデリトの風を封じてしまう。
遂には何も出なくなったデリトはワナワナと震えながら自身の剣を見て故障を疑っている様子だった。
「知らないんだな…。高ランクの人間は、低ランクの魔法を阻害することが可能なんだよ。俺はサヨンの船で突き上げを喰らった時に、よく阻害されて邪魔をされたよ。邪魔をされない為に強くなる事を意識したら、俺もできるようになっていた。俺の力を封じていた奴は封じ返された日から何も言わなくなったよ」
「ふざけるな!俺は7ランクだぞ!」
「それでも俺よりは低い。風魔法を使うならこれくらいやってみせろよ」
俺はそばに居た風魔法使いからデリトと同じ剣を借りると、竜巻を起こしてデリトの背後で魔法砲撃銃を構える連中を吹き飛ばしてしまう。
悲鳴と絶叫。
なす術なく打ち上げられて落とされた連中の何割かは死んでいた。
特に風魔法の使い手は威力を相殺しよう、落下時の着地ダメージを軽減しようと風魔法を使おうとしていたが、俺に封じられていたのでなす術なく驚愕と絶望の表情で死んでいた。
「ば…バケモノが!援護だ!お前達!攻め立てれば機会はあるはずだ!」
デリトは背後の魔法砲撃隊やアンカーや刺突槍を持つ連中に指示を出すが、魔法砲撃隊はどの属性の奴だろうと一度も魔法が放てなかった事に目を丸くし、直後に俺が放つデリトを真似したような風の刃が体を真っ二つにする。
「この場の全能力は俺が封じた。お前達は魔法を撃てない」
それならと単純に刺突槍を使って攻め立ててくる連中と、アンカーをアンカー単体で使って動きを止める為に使う奴が居たが無駄な徒労だ。
「お前達、4ヶ月の間、ハウスタートルだろうがハウスバッファローだろうが、全て1人で倒した俺の実力を見ていなかったのか?」
俺は刺突槍を持った奴に対しては氷結弾で氷漬けて、アンカーで動きを封じてきた奴には逆に感電死させてやった。
「ウキョウ…。やった後で聞くのも悪いが…。全員殺していいのか?」
「構わない。好きにしてくれ」
ウキョウの言葉が聞こえたデリトは必死に逃げるがそれは無理な話だ。
「デリト。風魔法で殺してやる」
俺は竜巻を発生させて氷漬けにした連中ごとデリトを飲み込むと、竜巻の中で更に風の刃を生み出してズタズタに切り裂いてから殺した。
真っ赤な血の雨が降って周りの奴らは慄いていたが、俺にはよくわからなかった。
俺の目の前には景色ではなくミカとシーマの笑顔が見えていた。
俺は笑顔に向けて「終わったよ」と呟いたまま倒れていた。
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