第7話 日の入りまでの下方修正。

3日目の明け方。

リーヤが今までにない苦しみ方をした。

治癒魔法を使っても効果はあまりなく、苦しむリーヤは何遍も「ノウエ…ノウエ…」と俺の名を呼ぶ。

俺以外の看護師が手を掴んで「ここにいる」と言うだけで、リーヤは「頼むから最後までいてくれ」と苦しみながら言い続けていた。


カヤさんは「内臓が弱ってるせいで薬も治癒魔法も受け付けなくなってきてる。ここまで酷かったなんて…。チェックマシンも老朽化で誤作動を起こしてたのか…。恐らくお前の治癒魔法が無ければもう1日早く死んでいた」と言った。


サンワさんはリーヤを心配して見舞いに来たついでに、俺に「速度が落ちる。もうハウスバッファローと会敵をする。キーバッハの奴には事情を話した。奴らが最速でハウスバッファローを倒すから何とか再始動をしてくれ」と言う。

鎮静剤でおとなしくなったリーヤを見ながら俺は頷いて、「ギリギリまで治癒魔法を使ったら水瓶に水を溜めます」と言った所で、キーバッハさんが治療部に顔を出してきた。


「怪我ですか?」

「いや、よくないニュースだ」


キーバッハさんはナンセンと共に明け方から重役達に呼び出しをくらい、朝一番から頭の痛くなることを言われていた。


「重役達、今回のフルメンテナンス、オーバーホールの代金をハウスバッファローで補填すると言い出した。3体でも確保できれば良いはずなのに、群れだから欲を出された」


もうその先を聞かなくてもわかる。

リーヤより金。

リーヤ以外の人達の事より金。


企業は金を稼いでなんぼ。

従業員とその家族のために最大効果を狙う。


話を聞いていたカヤさんは「ダメだよ。あの子は遅くても日の入りくらいまでにホームに入らないと助からない」とキーバッハさんに言ってくれるが、キーバッハさんは苛立ちを隠さずに「わかっている。だが命令を出されてしまった。確認した所、陸上戦艦の主砲は死んでいた。副砲で仮に蜂の巣にしてもハウスバッファローをミンチにしてしまうと、かけら一つ残さず回収なんて言われたらそれこそここで夜を明かす羽目になる」と言う。


まだ朝で明日の朝の話をしている。だがとりあえず太陽と共にリーヤは生きていて夕陽が沈めば死んでしまう。


「…カヤさん。栄養剤と疲労回復の点滴を分けてください」

「ノウエ?」


「サンワさん、仮の話でいいです。動力全開ならここからホームまでは何時間ですか?」

「5時間だ」


「日の入りは18時でしたよね?12時30分までに出られれば間に合うか…。キーバッハさん。俺を戦闘部にスポット参戦させてください。俺とキーバッハさんで組んで他の人達は素材回収。3体は確保します」

「…来てくれるか?助かる」


俺は「いえ…」と言って、もう一度リーヤに「邪魔な敵を倒してくるから待ってて」と言って治癒魔法を使って外に出る。

カヤさんは「無茶苦茶するつもりだろうけど、あんただって休んでないんだ。倒れるよ?」と言ってくれる。


「倒れるのは最後です。「休む事なら死ねばいくらでもできる」、コレは前に戦闘部で俺を痛めつけていた奴の言葉です」

そう言って栄養剤を受け取って飲んで点滴を打ちながら水瓶に最低限の水を補充した俺はキーバッハさんの所に向かった。


俺が向かうと戦闘部の用意は終わっていて、皆が「待ってたよ」、「来てくれて助かるよ」、「お前の彼女は助けないとな」と言う。


「彼女?俺とリーヤはそんな中じゃないですよ?」

俺の言葉に「お前…相手はそう思ってないだろ?」と引き気味に言われるが返答に困る。


リーヤは俺の上で「お前はサイコーのアダルトグッズだ」とか言ってた日があった気もするけど…。

まあ相手のこともあるのでそれは言わない。


俺が答えない事をいい事に、「とりあえず彼女を助けたい。いいじゃないか!」、「お前ってどこか引いてて、どこか諦めてるからそういうのがいいよな」と皆無責任な事を言ってる。

引いているのは6ランクなんて言われて4ランクしかない事、諦めているのは死ぬまでコレが続く事を知っているからだ。


「作戦は小隊ごとにハウスバッファローの各個撃破だ。魔法砲撃担当。アンカー担当。刺突担当。救護担当。随時小隊長と連携を取れ」


キーバッハさんの言葉に皆が返事をする。

「俺は?」

「今回お前にはある程度の権限をやる。好きにしていい」


「仲間は?」

「お前も言っていただろ?俺だ」


「…他は?」

「居るか?」


渋い顔の俺に向かって、キーバッハさんは「魔法砲撃は?」と聞いてくるので、「撃てます」と返す。


「アンカーは?」

「扱えます」


「刺突は?」

「やれます」


「救護は?」

「…やれますよ」


この2年、全部やらされてきた。

現場ごとの酷い箇所。貧乏くじの全部が回ってきた。だがあくまで補助でしかない。


「6ランク様だからな」

「よろしく頼むぜ」

そんな言葉ばかりを浴びせられてきた。


その事を思い出していると、「ほらな」とキーバッハさんが言うので、「…俺はあくまでお手伝いしかしてません!最近は皆が休みたいからって俺にませてましたけど、俺はあくまで手伝いですよ!」と返すと、ニヤリと笑ったキーバッハさんが「そう言いながら俺の使い道を考えたろ?」と聞いてくる。

俺は渋い表情で「…キーバッハさんは悪い人ですよね」としか言えなかった。


「言えって」

「…キーバッハさんは死なない事、荷物持ちに専念してください」


戦闘部の部長が荷物持ちと言われていい気はしない。

キーバッハさんが「んだと?」と不満を態度に表すが、俺は気にせずに「重役達に文句言われないのは3体でしたよね?3体までは皆さんにお任せします」と言った。


俺は言うだけを言うととりあえず魔法砲撃を行うための銃器を持てるだけとアンカーを3本キーバッハさんに渡して俺自身も砲撃銃器を持った。


索敵をしている航行部から22頭のハウスバッファローを確認したと連絡が入り、陸上戦艦は止まった。


群れの切れ目を狙えばいいが、群れの切れ間を待って再始動をするのにかかる費用の計算をし、更に魔物が増えすぎてホームに来ないためにも間引こうと言う建前。

本音は魔物の素材はやはり有益だ。

食用にも使えて素材は過去の動物達より強靭だ。


家くらいのサイズのバッファローだからハウスバッファロー。

力は強く、直撃すれば陸上戦艦の装甲もタダでは済まない。


それに人間を当てがおうというのだから頭がおかしい。

世界と一緒で人間も壊れたのか、そもそも人間が壊れていたから世界が壊れたのか…。

俺にはわからない。

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