第6話 3日のタイムリミット。
動力部に向かう道すがら、ナンセンとサンワさんとカスカンさんに出会う。
「なあ?リーヤは?」
「意識は取り戻しましたが危ないそうです。3日以内にホームに帰らないと助かりません」
俺の言葉にサンワさんは憤りを見せて、カスカンさんは「で?お前はなんでここにいる?」と聞いてくる。
「動力部は俺も手伝いますから、カスカンさんは航行に支障がないか見てください。ナンセンさんは特別給与ください」
ナンセンは「なに?」と聞き返してくる。
一応本人の前ではさん付けで呼ぶようにはしている。
「ホームに着くまで可能な限り仕事をしますよ。リーヤの治療と動力の確保ですよね?」
「それは助かるが…」
ナンセンの言葉に嫌な予感がした俺は「が?」と聞き返すと、「あの爆発で船体各所に問題が生まれた。水瓶は配管の亀裂が増えたのか水の減りが早い。後はハウスバッファローとの会敵が確定になった。10時間後に会敵する。しかも中規模だ」と言う。
最悪だった。
そして普通の神経なら助け合えばなんとかなるが、ナンセンの顔と声で次に何を言われるかわかった。
「…重役達は?」
「誰1人として理解を示さなかった」
「理解?状況を受け入れなかったじゃないの?」
「個人の見解に任せる。とりあえず重役達は、「生活の質は落とさないから水は普段通り使う」、「久しぶりに会いたい人がいるからホームには予定通り到着させろ」、「ハウスバッファローは売れば金になるから倒したら倉庫に積んでおけ」と仰った」
まあ、そうなる。
今死に瀕した人がいて、それを助ける為にホームに行きたいわけではない。
俺達に重役が生活を合わせるわけがない。
「なに?ナンセンさんは俺に水瓶もやれって?三つ同時はやですよ」
「…わかっている。だがどうしてもあの水瓶ではホームまで保たない」
「プール壊せば?」と言った俺はカスカンさんを見て「カスカンさん、直すふりして壊しましょうよ」と言うと渋い表情で「無理言うな」とカスカンさんが言う。
まあ重役達は成功には興味はないがミスには煩い。
今回のトラブルで誰が何をされるかわかったものではない。
それなのに皆最善を尽くそうとしている。
「一回か…」
「なに?」
「カスカンさん。通常速度が出たなら、通常メンバーで1日半くらい保たせるくらいの水は残ってますよね?」
「ああ、そう聞いている」
「なら危険水域で呼ぶか、ハウスバッファローとの戦闘の時に水瓶に水を張ります。サンワさん、悪いけど機関部に行きましょう。俺がこの船を走らせます。後はカヤさんから連絡きたらリーヤに治癒魔法を使います」
俺の言葉にカスカンさんとサンワさんが、「お前…」「ノウエ…」と言うが、俺は「時間勝負ですよ。Harry!Harry!」と煽るようにサンワさんを連れて動力部に行く。
動力部は焼けこげた臭いがしていたが気にせず入るとメイン水晶に向かう。
「バカ!?メインは危ないから空にする為に使っていたが、今入れなおして動かしたら割れて火が噴き出る!あの割れたのが1番若いやつだったんだぞ!」
「了解です。8割入れる形でやります」
火魔法を注ぐと動力が稼働を始めて戦艦の移動速度は改善する。
「サンワさん、このままなら予定でホームまで何日ですか?」
「2日半か?ただハウスバッファローが居るからわからねえな」
聞けばハウスバッファローとの会敵は明後日の朝なので、長引いてもまだなんとかなる。
とりあえず会敵まではここで暮らして、仮眠をとりながら前へと進ませる事だけを考える。
食事も前もってデンマにはながらで食べられるものにして貰った。
「お前、休まねえと死ぬぞ?」
「了解です。でも慣れましたよ。本当始めの一年はキツかったですからね」
そう。ここはまだ良心的だった。
その後の職場は4ランクの仕事では納得をされない。6ランクの仕事を求められる。
正確な測定すらしていない俺は4ランクすら怪しまれて、コレでもかと突き上げをくらい可愛がりを受けてきた。
売られようがロクな身の上でなかろうが周りには関係なかった。
殺されてもおかしくない。
死んでもおかしくない日々を耐え抜いた。
状況が変わるのは仕事で結果を出した後。
それでも6ランクの仕事をしても認めない奴はいたし、引き際をわきまえずに標的にしてくる奴はいた。
逆にそいつらが痛めつけられるようになって今がある。
「あの不眠不休でゴミの分別と焼却をやって、飯を捨てられた日よりマシですよ」
俺はそう言いながら船を走らせて、仮眠中はメイン水晶を休ませてサブの予備水晶に本来の動力部勤務の連中が火の魔法を溜め込む。
「お前、無理すんな」
サンワさんが心配してくれていて「俺こそすみません。俺がここに居るからサンワさんも帰れませんよね?」と返す。
「馬鹿野郎。部長クラスは全員休みなしで部署勤めしてるよ」
「あ、そうなんですか?」
「とりあえず夜明けになればハウスバッファローと会敵するから、一度しっかり休め。今もお前のおかげで予備の連中は速度は落ちるがハウスバッファローの通り道までなら走らせられる」
その言葉に「じゃあお言葉に甘えて少しここから離れます。デンマが来たら医療部に食事を持って来させてください」と言って部屋を後にする。
扉の向こうからはサンワさんの「お前まさか?」と聞こえてきたがそれを無視した。
医療部に顔を出すと出会い頭にカヤさんが「容態は良くないな」と言う。
「…保ちますか?」
「3日はな。それもお前の治癒魔法のおかげだ」
俺は呆れながら「持ち上げすぎですよ」と返す。
「それで?容態を聞きにきたのか?」
「いえ、時間稼ぎします」
「お前、今船が走ってるのはお前が火魔法を送ったからだろ?」
「そうですよ。でもサンワさんが後は皆でハウスバッファローの通り道まで走らせてくれるって言ったので、甘えてこっちに来ました」
俺はカヤさんが止めるのを無視して中に入って、包帯を取り替えながら薬を塗りながら、「リーヤ、お疲れ。治癒魔法を使うよ」と言うと、しばらくして泣きながらリーヤは目を覚まして、「お前…、船が走ってるのに…。ここの部長が言ってたぞ?今船を走らせられるのはノウエだけだって…」と話しかけてきた。
「よく言うよ。皆して持ち上げ過ぎだ。俺は1ヶ月半動力部に居なかったからやれるだけだ」
話しながらも治癒魔法を辞めないと「お前、痛みが引くのはお前が魔法を使ってくれてるから…」と話しかけてくる。
「まあ気休めだけどさ。明日にはハウスバッファローを戦闘部が倒してくれる。そうしたら後はホームまで一直線だ。ホームが見えたらもう少し加速させるから頑張るんだ」
「馬鹿野郎…もう私はお前を抱いてやれないのに…」
「別にそんなのが目的じゃない。ただリーヤとサンワさんのおかげで2年は生きてこられた。それの恩返しだよ」
「なんだよそれ。なんにもしてねぇよ」
「ならそれでいいから、生き延びて身体治しなよ」
「そしたら恩返ししてやるからな」
「恩返しの恩返しなんて意味ないよ。リーヤが治れば恩返しは終わりだよ」
俺はその後も食事を摂りながら治癒魔法を使う。
カヤさんからは「何時間使う気だ?死ぬぞ?」と言われたが、まあまだマシだ。水質管理部の時も発電部の時ももっと悲惨だった。
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