第5話 瀕死のリーヤ。

動力部はメインの水晶が一個割れていた。

水晶に溜め込んでいた俺の火魔法が噴き出て、それをリーヤ達が制御しようとしたが制御仕切れずに爆発を起こしていた。


今は予備水晶を中心に、残ったメイン水晶を使って微速前進でホームに向けて進んでいる。


サンワさんは動力部に居たかったが、部長クラスの緊急会議の為に食堂に集まった。調理部長と清掃部長だけは上でのうのうと過ごす重役の為に来れずに居た。

後は風俗室のドンと医療部のカヤさんも呼べなかった。


サンワさんは集まった部長クラスに見解を伝えて、メンテナンス部と共に力を合わせて老朽化して限界を迎えた箇所の洗い出しをする事になったと教えてくれた。


今俺は動力部の予備水晶に火魔法を送り込み、医療部で動力部に居たメンバーの治療に参加していた。

医療部は基本的に治癒魔法の使い手達の力と医療知識のある者の混合チームで治療にあたる。


俺はそのどちらの手伝いもしているので、今は言われた通りに目覚めないリーヤの火傷に薬を塗って治癒魔法をかける。


「助かったよ。居てくれてよかった」


そう言ってくれたのはカヤさんで、「サンワから聞いてるけど…この子」と言ってリーヤを見る。


リーヤには面影はない。

昨日まで抱いた肌は背中の方にならあるかも知れないが、薄着が災いして火傷の面積が広い。

最後まで爆発を抑えようとしたからだろう。

左腕も無くなっている。

もう俺の背中に回していたあの手はないし、「撫でろ」「揉め」と散々言われた胸も焼け爛れている。


「今でもかなり危ない。早くホームに帰って、キチンとした設備で治療してやらないと」

カヤさんはそう言って窓の外を見て舌打ちをする。


速度が出ていない。

爆発を恐れての速度。

だがこの速度ではリーヤは死ぬ。


「どこまで治せます?」

「…左腕は魔法力で動く義肢しかないね。腕を治すような再生魔法なんて、医療の発達したトゥシバーの重役クラスしか受けられないよ。皮膚は根気良く治療だね。ノウエの治癒魔法でこのくらいしか治らないと並の奴らじゃダメだね」


俺は首を傾げながら「カヤさん?俺別に凄くないですよ?」と聞くと、「アンタの自己評価は無茶苦茶だね。まあアンタの治癒魔法は効くんだからそれでいいだろ?」と返される。


カヤさんがリーヤの点滴を取り替えたところで、リーヤはうなされながら目を覚ます。


「火が…吹き出して…爆発…」

「リーヤ。起きた?」


「ノウエ?」

「ああ。何があったかわかる?」


「少しなら。とりあえず生きてるんだね」

「ああ」


「全身の感覚が無くて全身が痛いよ」

「ああ。大怪我だ」


「アンタが治してくれたの?」

俺が「俺じゃない」と言いかけた所で、カヤさんが「そうだよ。たまたまノウエが捕まって良かったよ。他の部署の奴らが抱え込んでたら助けられなかったよ」と言う。


「へぇ……。ノウエは動力部にくる為に生まれてきた男なのに、医療部でも役に立つんだ。先生、ノウエって何が出来るの?」

リーヤが弱々しい声で聞くと、カヤさんが「なんでもさ。何にもできないのに何でもできる。治癒魔法も使えるから処置を手伝いながら治癒魔法もやってくれる。だからアンタは生きている」と答えると、リーヤは「ありがとう先生。ありがとうノウエ」と言った。


「話すぎ。無理しすぎだ。寝ておけ」と言った俺の言葉に、リーヤは「怖いんだよ」と言う。


「火傷だろ?なのに熱さがわかんねえんだよ。でも痛いのはわかる。なのに手足の感覚はない。死ぬのかな?死ぬの怖いんだよ」

リーヤはそのままカヤさんにどうかを聞くと、カヤさんは「ここで出来る限りの処置はしたよ。でも設備が足りない…。この船が万全なら助けられるんだけど、いざ使おうとしたら正常に動かない機械類があったから、ホームに帰る必要がある」と説明を始める。


「だが動力がやられて微速しか出せてない。他もメンテナンス部のカスカンが確認しているが問題が出たのかもね。だから保って3日。3日でホームに入れないとアンタは死ぬ」


死にたくないと言っていたのに、不思議とリーヤは泣かずに「そっか…。じゃあ無理だな。動力が死んだこの船はホームまで1週間はかかるだろ?それに3日くらいしか生きられない大怪我ならもういいや」と言う。

俺が「リーヤ?」と聞き返すと、リーヤは今になって泣いて「ごめんなノウエ。もうお前を抱いてやれないや」と言う。


「何言ってんだ?」

「だってそうだろ?死ぬくらいの大火傷なんだ。きっと肌もボロボロで肌触りも良くないから抱いてやれねえよ。本当は昼間ボスから子供って言われた時は嬉しかったんだ。3人家族で動力部で働いて、それも悪くないって思えたらこれだ」


「そうか?とりあえず諦めるのはやめておけよ」

「何言ってんだよ?メイン水晶が死んだなら速度は出ないだろ?私は諦めたから最後までそばに居てくれよ」


俺は呆れながらカヤさんに、「カヤさん、とりあえず合間合間に来ますけど、リーヤが死にそうになったら治癒魔法を使いにくるから呼んでください」と声をかける。


「ノウエ?」

「何言ってるんだよ?居てくれよ」


俺はリーヤには「運が良ければ助かるから生きたいと願っておきなよ」と声をかけると、カヤさんには「動力部に行きます」と言って医療部を後にした。

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