第4話 異常事態。

異常はあった。

予兆もあった。


機関部に来て4日目。

昼の休憩時に、サンワさんから「お前、おかしくないか?」と聞かれた。


どれの事を言われたのかわからない俺が「おかしい?」と聞き返すと、メインの水晶が今までの出力になるのに必要な魔法量が増えた気がしないかという話だった。


よく分からない俺が「そうですかね?」と言うと、サンワさんが「…それでリーヤ達が根を上げたからお前に来てもらったんだよ。確かにメインの水晶はいくら取り換えても部屋全体がもう古いからガタが来ているのか…。さもなくばリーヤ達の不調か…」と言って、予備の水晶に火魔法を送るリーヤを見る。


「やっぱりおかしいよボス」と言って戻ってきたのはリーヤで、「予備水晶がメイン水晶くらい火魔法を吸うよ。だからもうヘトヘト」と言いながら着席すると、デンマの持ってきた弁当をひと口食べて、「怠ぃ…。ノウエ、喰わせてくれ」と言ってくる。


確かに最近そんな話が多い。

動力部の仕事が終わると、俺の元にナンセンが来て「ボーナスを用意するからすまない」と言われて、水質管理部に顔を出して水瓶に水を溜めたし、調理部の調理器具も直して、リーヤの部屋のシャワーも直した。


だがサンワさんはそこを無視して、「お前達…、リーヤがおめでたとかやめてくれよ?せめてホームに寄港するまでは待ってくれ」と言ってくる。

リーヤは赤くなって「あるわけないだろ!」と言い、俺は「いや、問題は深刻じゃないですか?」と言った。


「あ?何がだ?」

「この戦艦都市って建造何年です?故障が多すぎですよ。もしかしたら最近のトラブルって老朽化じゃないですか?」


難しい顔をしたサンワさんが「…気になるな」と言うと、「ノウエ。規定値までは魔法を込めたんだよな?」と聞いてきた。


「ええ。夕方分までなら溜まってますよ。夜中の分はまた夕方にやらないとダメですね」


俺の言葉に頷いたサンワさんは、「リーヤ、お前代理で責任者やっとけ。俺はノウエと出てくる。なんか嫌な予感がする」と言うと、「うぃーす」と返事したリーヤは「ちゃんと帰ってこいよな?」と言って俺を送り出した。



道すがらサンワさんに聞くと、5年に一度はオーバーホールをする事で陸上戦艦は問題なく航行できると言う。

オーバーホールさえしていれば耐用年数でガタが来るわけがない。

だが現に問題は山積している。


違和感を覚えたサンワさんは俺を連れて各部署のリーダーのところに顔を出す。

俺がいる事で話は早く、皆から話を聞く事で陸上戦艦の中がボロボロになっている事がわかった。


メンテナンス部のカスカンさんは、頭を抱えながら建造時の図面を取り出して「ノウエ、調理部のオーブンが死んで…」と確認するので、「後はダクトとコンロ」と言うと、「馬鹿野郎」と言いながら図面にバツ印を付けて、「じゃあ水瓶は?」と聞いてくるので「夜中の使用量が日中並です」と答える。



一通り話を聞いたカスカンさんは、もう一度頭を抱えてサンワさんに「サヨンのホームまで後約5000キロ。動力は保つか?」と聞く。


「多分な。だがそれもノウエが勤務してくれればだが、コイツは後3日しかいない。ウチのベテラン達を総動員しても、今の水晶相手じゃ火の魔法を送り込んでも可動域まで持っていくのがやっとで、最終日は半分の速度しか出ないぞ。それにホームに帰る前にハウスバッファロー討伐があるから、コイツを一度止めると再始動の分がかかる。多分一日中魔法を送っても始動するか怪しい」


カスカンさんは俺を見て「ナンセンには私からも進言するから動力部に詰めて貰えるか?」と聞いてくる。


「俺なんて手伝いだから役立ちませんよ?」

「馬鹿野郎。リーヤ達が根を上げるメイン水晶に魔法を送ってられるなら一線張ってるんだからアテにさせてくれ」


弱気のサンワさんは初めてで俺は目を丸くしてしまう。

サンワさんはそのままカスカンさんに「何が起きてる?」と聞く。


「恐らくだがオーバーホールがされていない」

「なんだと?3年前にしたじゃねぇか」


「だからだ。あの時に外見だけオーバーホールして、放置していたとしたら通算8年。どの設備も耐用年数を超えて故障が始まる。

水瓶から各部へ水を送る配管に亀裂が走り、動力部の水晶には人の目に見えない細かな穴が空いて魔力抜けが起きている。

オーブンやコンロの不調は配線の問題かも知れない。発電部も水瓶と同じで漏れている」


「マジかよ…。今マシなのは?」

「恐らく設備に依存しない治療部と戦闘部、…戦闘部は外壁に付けた迎撃砲は稼働しないかもな。メンテナンスはしてあるが稼働テストはしていない」


聞けば聞く度に気が滅入る。


「本来ならノウエを返してもらって、フルチェックの洗い出しをしたいくらいだ」

カスカンさんの言葉にサンワさんが、「勘弁してくれ。とりあえずナンセンの所に話に行くから着いてきてくれ」と言った時、爆発音がして陸上戦艦が震えた。


「なんだ!?」

「ちっ…会敵か?」


サンワさんとカスカンさんは無事そうで安心したが、どう見ても速度が落ち込んでいて何かがおかしい。


「カスカンさん。メインシャフトですか?」

「可能性はある。私は編成を組むからノウエはメインシャフトを見てきてくれないか?」

「わかりました。それ以外の可能性もありますから、サンワさんは動力部に戻って見てきてください」

「わかった」


3人で廊下に出た時、走り回っているメンテナンス部の連中が、「あ!動力部のボスだ!動力部が爆発を起こしたぞ!どうなってんだ!?」と言ってきた。


動力部?

爆発?


俺は言葉が理解できなかったのに、すぐにリーヤの顔が思い浮かんでくる。


メンテナンス部の奴は俺に気付くと「おい!ノウエじゃないか!助かった!お前も参加して対処に当たってくれ!」と声をかけてきたが、俺はそれを無視して動力部に向かって走った。

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