第3話 リーヤと過ごす夜。
労働時間はそこそこ保証されていて日に10時間くらいになる。
食事は交代制で摂る。
俺はサンワさんとリーヤと同じタイミングで食事になり、休憩していると配給がやってくる。
配給は調理部の仕事でデンマという男の子が持ってきた。デンマは両親が調理部同士で、この戦艦都市で結ばれて子を成した。
デンマのような子は珍しくない。
適性は測れないが下働きなら出来る。
働けば給金も出るし扱いもマシになる。
デンマは俺を見つけると、嬉しそうに「あ!ノウエさん発見!いつ動力部になったんですか?」と聞いてくる。俺も弟に話す間隔で「今日からだよ」と言う。
「父さん達が待ってましたからね?」
「ナンセンに言ってくれ」
もうスイッチ一つで再生できるように再生機でも買おうかなと思うくらい、俺は「ナンセンに言ってくれ」という言葉を使っている。
「動力部の前ってどこだったんです?僕は会いませんでしたよね?」
「清掃部。ずっとゴミ処理してたよ。今回は仕分けやリサイクルじゃなくて焼却だから、シャワーと風呂の温水は俺の力だよ」
「成程、じゃあ母さんにそう言っておきます。いつ調理部に来ます?」
「ナンセンに聞いてくれ。俺は風俗室には行かない以外は何も言ってないよ」
デンマは「了解でーす」と笑いながら、サンワさんとリーヤには「いつもありがとうございます」と言って配給を渡して次の部署を目指す。
デンマの後姿を見ながら「ったく…。他所では手を抜けよ」、「そうだ!俺のホームは動力部だと言え!」と言うサンワさんとリーヤに、「無責任な…。俺に仕事で手を抜くなって教えたのは2人ですよ?」と返すと、サンワさんとリーヤは顔を見合わせてバツの悪そうな顔をする。
「それに俺はどこ行っても一線を張れる訳じゃないから、キチンと仕事しないと風俗室送りにされちゃいますよ」
俺は呆れながら高ランク用の食事を摂る。
食事だけは街よりいいものが食べられているのでそれだけは喜べる。
「……なぁ」
「はい?」
「ノウエは後一年で計測だろ?そこで火魔法が強かったら私と動力部で働こうぜ?清掃部の焼却炉なんて勿体無いって!」
「それ、清掃部のチョウボさんにも言われたよ。動力部なんて誰でもできるから清掃部に来いってね」
俺の言葉にサンワさんとリーヤは目を三角にして怒り狂い、「あの野郎!動力部の恩恵あっての戦艦都市だぞ!」「ボス!ゴミの分別をやめましょう!!」と言い出す。
俺が「勘弁してください。分別ができていないとヘルプで呼ばれます。分別班は本当キツいんですからね?」と伝えると、ヒートアップした2人はようやく大人しくなる。
「お前、そう言えば識別魔法もあんだよな?」
「でも検査してないからランクなんかはわかりません」
「潰しが効くように言ってやったけどやり過ぎだよな」
「直近はどこ行ったんだ?」
「ここ2ヶ月は…前が清掃部、その前が戦闘部、その前は発電部、水質管理部、医療部、調理部だったかな?」
俺の説明に、サンワさんとリーヤが、「お前、そこの仕事を一通りやれんだろ?」、「やべぇな」と言うので、俺は「手伝いだからですよ」と返した。
俺がメインのポークソテーを食べてると、「なあ、余計なお世話だったかもしれないが、進行方向にハウスバッファローの群れが居るんだとよ」とサンワさんが言う。
「ああ、戦闘部でキーバッハさんが群れ専用の訓練をしてましたね。俺も訓練に参加させられましたよ」
「怪我をされちゃたまんねえから、皆でナンセンに文句を言いに行ったんだよ。だから会敵の時にはお前はここだ」
「ああ、ありがとうございます。じゃあ次は医療部かな?カヤさんが目を三角にして待ってそうだ」
俺は白衣と細いメガネがトレードマークになっている、部長のカヤさんをイメージする。
きっとコレでもかとこき使われる。
笑う俺を見てリーヤが「お前って下手したら、戦闘部からの医療部の可能性もあったのか?」と聞いてくる。
「確かに、それより嫌なのは医療部は医療部でも、ベッドの上は勘弁してもらいたいかな?ああ、後は医療部の後でメンテナンス部に呼ばれて戦艦都市の修繕とかまでセットだと泣いちゃうかも」
イメージがついたのか、リーヤはフォークを口に含んだまま物凄い顔をして、「お前、6ランク飯やめて8ランク飯くらい貰えよ?ナンセンに言ってやろうか?」という。
「俺は4ランクだよ。そんなに貰ったら周りからもっと恨まれるからやだよ」
俺がなんと恐ろしい事を言うんだと思っていると、サンワさんが「なあ。お前ならハウスバッファローの群れとか倒せんのか?」と聞いてくる。
「まあアレは戦闘部で倒した事がありますね。でもメインはキーバッハさん達で、俺は弱ったオコボレにトドメを刺すだけですよ」
俺は食べ終わると仕事に戻る。
夕方になり交代が来たので代わると、外ではリーヤが待っていて「帰ろうぜ」と言って笑いかけてくる。
周りを見てもリーヤと同じ時間に上がるサンワさんが居ない。
「サンワさんは?」
「ボスは談判。お前の話聞いてから「ノウエをウチに置けるように、ナンセンの奴に物申してくる」って意気込んでたよ」
「マジか」
「ほら、良いから飯食って帰るぞ?」
動力部から近い食堂ではデンマが配膳をしていて、「お帰りなさいノウエさん」と言うと、厨房からデンマの両親が手を振りながら「帰ってくる気になったな!」、「本当大変なのよ!早く入って!」と声をかけてくる。
大まかな厨房は調理部にあるが、皆が決められた食堂を使うわけではないので、仕上げの為に色んな場所に移動をする。
夕飯時は1番キツい。
重役達のディナーの準備と、俺たち労働者の夕飯の準備で文字通り戦場になる。
猫の手も借りたいのはよくわかるが、俺を欲するなんてあんまり過ぎるだろ。
「全く、夫婦揃って冗談好きなんですから」と俺が返すと、横のリーヤは「ノウエは動力部の機関室に来るために生まれてきた男だからそれはない!」と言い切って、俺の手を引いて着席する。
「お前、ここでも必要にされてんのな。毎日か?」
「普段は配給待ってから帰るから食堂には行かないよ」
「なんで?」
リーヤがなんでと言っている時に、他部署の近い知り合い達が「ノウエ!ここで会ったのが100年目だ!」と声をかけてきて、「助けてくれ!人手が足らん!」と言ってくる。
それも1人や2人ではない。
「皆、持ち上げ過ぎです。俺はただの手伝いですよ」と言って笑う俺に皆が「ナンセンに言うから次はウチに来てくれ!」と言うと、リーヤが「失せろ!私とノウエはディナータイムだ!」と皆を追い払って、「納得した。明日は配給にしよう」と言ってくれた。
「ありがとう。確かにリーヤと食堂来たのは最初だけで、後はサンワさんと気遣ってくれてずっと配給にしてくれてたよね?」
「そりゃお前、周りからの嫌がらせとか見て飯食いたくねえしな」
食後だったが、調理器具が壊れてしまい、メンテナンス部は今すぐは無理だと言うし、厨房の勝手を知る俺はリーヤに一言謝って直すと、デンマから「助かりました〜。これからも是非食堂に来てくださいね!」と言われた。
だがもう行かないと心では言っていた。
機関部に来た時の部屋はリーヤの横の部屋になる。
ここは初めて間借りした部屋で、なんとなく愛着がある。
部屋の扉を開けようとした時、リーヤが「なあ、久しぶりだから来いよ」と声をかけてくる。少し考えたが久しぶりだと言われれば断りにくいし、下手に断っても残りの期間がギスギスする気がしたから、「…わかった」と返事をして一度自室に戻ってからリーヤの部屋に行く。
清掃部がクリーニングした服と下着を用意しておいてくれる。
この点はコンピュータ管理と管理者ナンセンの手際の良さだろう。
嫌がらせ以外で配給やクリーニングが滞った事はない。
「風呂入ろうぜ」
「狭いだろ?」
「馬鹿野郎!ひと月半ぶりなんだからはいと言え!」
俺は半ば無理矢理浴室に連れて行かれる。
浴室は狭いが無理をすれば入れないことはない。
リーヤは昔の風習でシャワーを嫌がり湯に浸かりたがる。
「なあ…洗ってくれよ」
「…わかった」
この先の流れは言うまでもない。
女の匂いをさせたリーヤが求めるままに行動をする。
この関係になったのは1年前。
久しぶりの動力部の仕事で、リーヤの代わりにメインの水晶に火魔法を送るようになった日の仕事上がりに、部屋の前で「なあノウエは経験あんのか?」と聞かれた。
返事に困る俺に「無いなら私で初めてを済ませろ」と言われ、真意を聞こうとしたら「あれか?6歳上なんてババアで嫌か?」と涙目で問い詰められた。
答えに困りながら口から出たのは、「俺はいつ死ぬかわからないから」だった。
「馬鹿野郎。そんなの皆同じだろ?だから私だっていつ死ぬかわからないし、動力部にこうなってもいい奴は居ないから丁度いいんだよ」
リーヤの言葉を聞いて頷きながらキスをした。
そのまま言われるままにリーヤを抱いた。
それからは会う度に、求められるままにリーヤを抱いた。
いつ死ぬかわからない。
だからこそ子供なんて作れない。
生まれてきた子供にとても誇れる親では無い。
親のように子供を売る日が来てしまうかも知れない。
それなのに求めるまま。望まれるままにリーヤを抱く。
変な感じだ。
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