第2話 陸上戦艦の日々。
移動都市…戦艦都市…陸上戦艦。
企業の連中が生き残る為に選んだ手段。
魔物達には縄張りがあって、季節に応じて移動をする。
移動をすればはぐれる奴が出てきて安全な街に迷い込む。
どうやっても街の安全性は一定以上にはならなかった。
重役達の言葉は「自分たちがいなければ企業はおしまいだ」、「自分たちさえいれば何とかなる」で、陸上戦艦を用意してそこに街…世界を形成した。
一次産業から二次産業、全てをそこに集約させて街に配給を送る。
配給は名ばかりでおこぼれだ。
おこぼれは街の中心、10ランクから配っていき、低ランクには余物しか届かない。
無論、街の中でも産業はあるので生活が困窮する事はないが、それでも移動戦艦で作るより質の悪い物が出回る。
移動戦艦は企業の力をそのまま反映した物だ。サヨンは中規模の陸上戦艦で、俺のような存在を含めて大体50000人が暮らしている。
当然ここは重役連中の夢の国で、俺たちのような連中には外や地獄と大差ない。
二階級特進の意味は簡単だ。
使い捨て。
死ぬまで出られない。
下手をしたら死体も家には帰れない。
俺達はそれを何回も見てきた。
定期便が来るまで家に軟禁された。
死んだらアウトで話がポシャる。
死ぬなら陸上戦艦に乗り込んでからにしてくれと心の声が聞こえてきた程だった。
ろくな荷物もなく陸上戦艦に乗り込んだ俺を値踏みしたのはナンセンと言う男だった。
平凡な能力の俺は随分なもてなしを受けた。
当然だ。
二階級特進を使って6ランクになった俺の親が住むのは新築物件ではない。
本来住むべき人間が居たが追い出されている。
それは陸上戦艦の中でも変わらない。
4ランクの能力なのに扱いは6ランク。
当然妬み嫉みに暴力が付き纏う。
俺が親の手で売られてきたとわかっても関係ない。
下のランクからはバカにされ、上のランクからは卑怯者と扱われる。
同じ4ランクの人間からも悪く言われる。
針のむしろだ。
だがサヨンは元々が食糧に特化した企業なので、食事だけはきちんと与えられた。
だから死ななかったが悲惨だった。
進行方向に魔物が見えれば討伐を命じられるが、武器は他所から買い付けた二級品。
医薬品も同じ。
そして陸上戦艦を切り盛りする日々。
重役達はここを極楽と言うが、その裏では俺たちみたいのが使い潰されている。
俺は耐えた。
意味もなく耐えた。
気付いたら2年が過ぎていた。
各部署を転々とする俺は、ナンセンから今日から動力部に行けと指示を出された。
「よう、やっと来たなノウエ」
「やっとって…、ひと月半しか経ってないですよ?」
俺にやっと来たと言ったのはサンワさん。
この動力庫の責任者。
「そのひと月半が長いんだよ」
「ならナンセンに言ってくださいよ」
「言ってんだよ。しつこく顔見る度に、「ノウエは今どこだ?」、「アイツは動力庫にいる為にこの船に来た男だから早く寄越せ」ってな」
「まったく…。今日から1週間世話になります。今回は何やります?予備水晶に魔力を送ります?それとも水晶の在庫チェック?」
俺が聞くと、サンワさんは「リーヤの奴を休ませたいからメイン入ってくれ」と言う。
「ええぇぇぇ?」とは言ったが、決まっているので「了解です」と言って、俺はメインの水晶が置かれた部屋に入ると火魔法を放つ準備をする。
周りのメンバーも「お疲れー」、「まあゆっくりしていけよ」なんて軽口を叩いてくる。
2年前はひどい物だった。
火魔法のなんたるかもわからないが、6ランク扱いの食事や待遇に苛立ったメンバーから役立たずと罵られてボコボコに殴られたりした。
散々俺を殴ってくれたリーヤは、女性なのに火魔法使うから熱い気がするなんて言いながら肌着姿でこの機関部で暮らしていて、俺には「痛みを持って仕事を覚えろ」となんだかんだ面倒見の良さを見せてくれて、暴力で俺を仕込んでくれた。
火の適性もそこそこあったのか「まあ及第点だよ。手抜きしたらブン殴るからな」と言われながら一年が過ぎる頃には、こうしてリーヤの代わりにメインに入る事も増えてきた。
「リーヤ、お疲れ。代わるよ」
「遅いよっ。疲れた。最近は機関部が不人気なのか、人手が足りないんだからもっと来いよ!ってか機関部所属になってよ!」
「俺に言われても困るよ。サンワさんにも言ったけどナンセンに話通してよ」
俺は言うだけ言うとさっさとメインの水晶に火魔法を送り込んで行く。
リーヤは「ボスに言っとく…死んじゃうよ」と言いながら機関室を後にしていく。
周りの連中は「ノウエが来てくれるとボスもチーフもご機嫌だから助かるよ」なんて言うが、あの2人の笑顔なんてそうそう見た事がない。
だがサンワさんにもリーヤにも感謝している。
初めて入ってボロボロになるまで痛めつけられたが、キチンと機関部に配属できるレベルまで使い物にしてくれて、他の場所の注意点を教えてくれた。
「お前、まだ身体が出来てないせいで、適性がよくわからんからたらい回しらしいな」
「悲惨な奴。まあ仕込んでやるから貰い手が無ければ、機関部で可愛がってやるからな。ボス、ナンセンにはそう言ってくださいよ?」
サンワは「勿論だ」と言ってから「ノウエ、お前が次に行かされるのは水質管理部になる。水魔法の適性があればいいんだが、お前は火魔法の適性があったから多分雑用と水質確認の仕事を渡されるだろうな。あそこの責任者はカマチって奴だが、悪い奴じゃない。だがリーヤみたいに教えながら殴ってくれるタイプでも無ければ、俺みたいに殴られてても助けるタイプじゃ無い」と言う。
殴られてて助けてくれたか?と俺は思い返す。
「お前がグズグズしてっから殴られんだろうがバカガキ!」と言われながら、誰よりも強い力でぶん殴られた記憶しかない。
「だから死ぬ気で仕事を覚えろ。いい機会だから潰しが効くように色々覚えてこい。適正な場所が無ければウチで面倒見てやる」
「うんうん。優しいボスに感謝しろよなノウエ」
優しいボス?
当時はそう思ったが、振り返るとサンワさんは優しかった。
その後も戦艦都市サヨンのポイントを教えてくれた。
「ナンセンの奴は止めてやる。多分奴も行かせる気は無いだろうがな、風俗室の勤務だけは何がなんでも断れ」
「風俗室?機関部とかみたいに部じゃないんですか?」
「ああ。あそこはな。とりあえず薬物耐性の適性なんかがあったら引く手数多で連れて行かれるぞ」
「しかも行ったら廃人決定コースな。薬物耐性があっても中毒にならないだけで、脳は焼き切れて使い物にならなくなる」
俺は話を聞いて縮み上がった。
薬物耐性の能力持ちか、何も持たなくても見た目が気に入られると風俗室送りにされる。
もう入ったら出てこられない。
1日に数回、興奮剤やあぶない薬物を投与されて、素っ裸で朝から晩まで24時間肉欲を満たす重役やその家族にコレでもかと奉仕をさせられる。
しかも金さえ積んでしまえば壊しても構わないし、自室で飼うことも可能なのでどう足掻いても絶望しかない。
タチが悪いのは飽きたら処分も視野に入れられる。
1番最悪なのは戦闘部に連れて行かれてデコイにされる事だ。
たまに頭のネジが外れてヤバい才能を発揮する奴もいるらしいが短命だ。
それ以外は手の震えなんかで皿洗いも出来ないから、やれて畜産部で牛達の世話くらいになる。
ちなみに俺は他の部署でもそこそこ気に入られて、ナンセンに俺を迎えたいと言う申し出が多かった事で難を逃れられたが、清掃部の仕事で風俗室に入った時は朝っぱらからいろんな物で汚れたシーツを目の前にげっそりした所を、仕切っているギロップとかいう婆さんに気に入られてしつこく勧誘を受けた。
嫌な思い出だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます