終末世界で生きる俺。

さんまぐ

サヨン

第1話 俺は売られた。

大昔、ノストラダムスって預言者がいた。

そいつの予言だと1999年に世界が滅びるとあったらしい。


皆が眉唾だと言いながらも、何処かで期待して、何処かで恐怖した。

空から降ってくるのは核ミサイルなんじゃないかなんて言う奴も出ていて、第三次世界大戦が起きてしまうなんて言われて、色々な創作物が世の中に溢れかえったらしい。


結局、訪れたのは古い言葉で旧暦とかいう頃に、日本と呼ばれていた場所に一枚の石で出来た巨大な板切れが現れた。


そして地殻変動が起きた。

何で起きたかは知らない。


人類の大半は地殻変動の大地震で死んでいて、生き残った学者様達がアレコレ言いながら調査をして、「何でそれが起きたのかわからない」という、フワッとした結論に至ったが正直どうでも良かった。


起きたものは起きて、人は死んで世界は変わった。

地殻変動で世界中の土地は一ヶ所に集まるように纏まり地続きになる。


地球一周ではなく外周を3割ほど覆う形で、残りは海になった。


板切れからは空想上の魔物達がコレでもかと溢れてきた。

残された戦力で板切れを攻撃すると、板切れはそのまま消えてしまったらしい。


なんでかはわからない。

わかるのは板切れから出てきた魔物達は消えずにいた事。

世界中を危険な魔物達は我が物顔で徘徊して人を喰った。


人類の勢力図はガラリと変わってしまった。


運良く?というのもアレだが、人類の数は減っていて、隠れて住めば何とかなった。

そして板切れの出現からか言語の壁は無くなった。

言葉が通じたおかげで人種の壁も低くなる。


文化風習宗教なんかで揉めもしたが、人類共通の敵を前にそんな悠長な事を言う奴らから順に死んで行った。



そんな話を聞かせてくれた兄さんは死んだ。

安全地帯と言われていても絶対的ではなく、相対的なだけで安全地帯に迷い込んだオークに喰われて死んだ。

下半身はオークの腹の中。上半身だけ食い残された兄さんの葬儀が終わった後で俺は売られた。



壊れた世界で人の売り買いは頻繁に行われる。

それは国が崩壊して形を失ったから。

とにかくスピード感が重要で、波に乗り切れない連中から淘汰殲滅されてきた。

そこでトップに出てきたのは企業達で、元々は軍需だったり医療だったり食糧の会社だったが、今は得意不得意の差はあるが一通りの企業を吸収した事で、どの企業の傘下に住んでいても最低限の暮らしは保証されていた。


だが問題もある。

相手が国家なら積み重ねてきたルールがあるが、企業になると企業毎のルールが尊重されるし、余裕というのはトップだから生まれるもので、人類は魔物に怯える下位の存在として余裕がない。


人類皆平等の標語は一発ギャグになった。


親が俺を売ったのは簡単な話で、今の街がある場所は地図上で比較的魔物の襲撃がない部分で、辛うじて来ても群れから逸れた野良が迷い込むくらいで、めったに襲われないし、魔物は人間の街を食糧庫くらいにしか思っていないので腹が満たされれば帰っていく。


よって街の外周は相対的に周りよりマシで、街の中では1番危険で住みたくない。


街の住民は皆中心を目指すが、中心に住む連中からすれば外側に住んでもらって餌になって貰いたい。


この世界に平等はない。

街の外周は襲われてもいいように、襲われた後の建て直しがやり易いように安い建材で建てられいて、中央は高い健在を用いている。


当然企業の傘下なので重役クラスから良い暮らしをしていて、末端なんかは外周に住まされる。

勿論勤めている人間が出世をすれば中心に近づける。親父は必死になって働いていた。


だが必死になって役職にしがみつく世の中。

競争社会。

中々上にはいけない。


定年退職なんて文化だけは残っていて、老齢になったら今より2ランクくらい下の家に死ぬまで住む権利を貰える。

まあ外周の最低ランクから下は無いから、親父は4ランクくらいまで出世して2ランクまで降格して生涯を閉じようとしていた。


だがそれを覆す方法が存在する。

俺達には検査が待っている。

検査で高水準の魔法適性なんかがあれば一気に5ランクから始められる。


そう。この世界には板切れが出た後に生まれた子供には皆魔法があった。

始まりは路地裏のゴッコ遊びだったり家族の団欒だったと聞いている。


小さな子供が絵本を見て魔法に憧れて、「お父さん!行くよーファイヤーボール!」とやったら父親を焼き殺してしまったなんて事件が頻発した。

そこから魔法の存在を知った大人達は検査の方法を見つけて、子供達に魔法がある事を知った。


これにより文明も変わった。

世界がひとまとまりになり、また探す所から始まり、魔物の襲撃に備える手間を考えた結果。化石燃料の採取が難しくなり、代わりに魔法を組み込んだ。

トラックなんかは火魔法を仕込んだ水晶を使って走らせる事でガソリンを不要とした。

電気も雷魔法がそれを可能にする。


それは低ランクの魔法使いの仕事になっていた。


親父の適性は低い。

オフクロも低い。

だから外周住みだった。


だが…子供は親が低水準だからと、低水準になる事が決まっているわけでは無い。


低水準の可能性が高いだけで高水準の子供は生まれてくる。

兄さんは低水準と高水準の中間に居たが、兄さんが企業に入れば5ランクスタートで外周と中心の間付近に住む事が出来る。


親は飛んで喜んだが、外周の比較的安全な所で兄さんはオークに食い殺された。

周りの連中の哀れんだ目と、嫉みからくる嘲笑の目が忘れられない。


本来、兄さんが就職をすれば終わった話なのに、俺も検査をすることになる。

年齢的に検査年齢では無かったが、兄さんが死んで計画が狂った両親は俺を検査に出した。


判定は兄さんより若干劣っていたが4ランクの扱いが与えられる。

そもそも本来の検査年齢になれば6ランクの可能性もあった。可能性としてランクダウンの可能性もあったが、それはほぼ無いと言われていた。

だが狂った親の耳に情報は正確に届かない。


「4ランクじゃダメだ」

「5ランクじゃないと」


「6ランク?いつなるんだ?」

「今すぐに意味があんだ」


そんな事を口走った親は自分の勤め先の企業、サヨンに俺を売った。


生殺与奪の権利を売ると二階級特進になり、俺は4ランクではなく6ランクの扱いで企業に売られた。


親達が新しい家でニコニコ笑顔の中、俺はサヨン本社の陸上戦艦、戦艦都市に居た。

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