第8話 ノウエの本気。

作戦は簡単だ。

氷魔法の使い手達が氷結弾を放ち抑え込むと、雷魔法の持ち主がアンカーを放って感電させる。

そして動かなくなるまで火魔法の火炎弾を放ち、合間合間に刺突部隊が魔物から作った刺突槍で突き刺す。


問題はハウスバッファローの体力からすれば一体1時間くらいかかる事だ。

まあ300人を10チームに分けているから単純計算で2時間と少しで終わる。


だが問題は回収だ。時間がなくなる。

回収をしないで済むように、不問に処すためにやることは決まっている。



「氷結弾!撃てーっ!」

キーバッハさんの声に合わせて氷結弾の担当者達は皆ハウスバッファローの群れに向かって氷結弾を放つ。


氷結弾と言っても玉を飛ばすのではなく、氷魔法を専用のバレルを通すことで強力な氷結弾になる。

確か今使っている魔法砲撃銃はマッシィータとかいう企業が開発したやつの型落ちだ。


俺も氷結弾を放ちハウスバッファローの足を凍らせる。

どうしても群れの中央に攻撃が届かない。


だからこそここで本気を出す。

別にリーヤの為に本気を出すとかじゃない。


そう思いながらも、初対面でいきなりグーパンチをしてきたリーヤの怒鳴り顔。

食事に喜ぶ笑顔。

そして暗い部屋で星あかりが差し込む中、俺の上で好き勝手動きながら「お前…っ……ふぅっ……、まだ終わるなよな。私はまだだぞ」と言いながら見せた恍惚の表情。


そんなものが思い出される。

人はいつか死ぬ。

それは明日かもしれないし今かもしれない。


だから本気を出さない。

深く関わらない。


昔からそう思っていたから兄さんが死んだ日も悲しかったがそれで済んだ。


だがリーヤには何となくだがキチンとお別れを言いたい。

もう一度元気なリーヤに、いつかくる日の為にお別れを言いたかった。


両手の魔法砲撃銃から氷結弾をコレでもかと放つ。


周りのどよめきや、驚くキーバッハさんの「ノウエ…、お前…」という声。

2分もすれば氷山が出来上がりハウスバッファローは氷漬けに出来た。

殺すにはまだ足りない。

表面を覆っただけで血肉の全てまでは凍りついていない。


「ごめんなさい壊しました」

俺は壊れた氷のバレルが着いた魔法砲撃銃をキーバッハさんに渡しながら「次はアンカーです。アンカー隊にも指示を出してください」と言う。


表情を戻したキーバッハさんが慌てて「アンカー隊!奴等に打ち込め!押さえ込むんだ!」と言う。


ワイヤー付きの銛、アンカーを持った2人1組のメンバーは、ハウスバッファローの脚に向かってアンカーを射出して、雷魔法が得意な連中がコレでもかと雷を流して奴の筋肉を破壊する。

後は動かないように力自慢の隊員とアンカーを支えて、刺突隊と火炎弾を持つ魔法砲撃隊が攻撃を行い、氷結弾は奴等が動き出さないように氷を絶やさない。


「俺も行きます。キーバッハさん。今のうちに刺突槍の用意をしておいてください」

「わかった。火炎弾…ん?火炎弾二門じゃ…」


キーバッハさんがバレルを見て違う事に気付き驚くが、俺は気に留めずに「ないですよ。火炎弾は仕上げに使います。とりあえず最低三体は倒し次第船に入れてください。残りは倒します」と言いながらアンカーを構える。


「馬鹿野郎。倒すってお前!?」

「倒します。時間が足りない。前に倒したやつより大きいから、殺し切るのに時間がかかりますよ」


俺は前に出ると手前の三体に向かってアンカーを放ち、「最大出力!」と言って目も眩むような雷を浴びせる。


周りのどよめきは気にしていられない。

時間が足りない。

3体がグッタリした所でアンカーを抜いて次の個体に差し入れる。


「まだ撃つのかよ!?」と聞こえてきたが、戦艦都市で重役達が馬鹿みたいに使う電力を三日間1人で賄うように強要された時に比べたらまだマシだ。


だがコレで終わりではないから次に動く。

それにアンカーが異常発熱をしている。

もうこれはダメだ。


俺はキーバッハさんの元に戻って「壊しました」と言いながらアンカーを渡す。


「…お、おう」

「多分6体は沈黙。3体は虫の息。一度氷結弾を放ちます」


再度氷結弾でハウスバッファローを凍らせると刺突槍を手に取って前身をする。


虫の息の3体は行きがけの駄賃で殺し切る。深々と刺して貫通させた刺突槍を反対側から回収する。


俺の動きに戦闘部の連中が、「バカな…」「この槍はクソ重くてあんな動き…」と言っているのが何故か聞こえてくる。


やれるよ。荷物の搬入を1人でやらされた。

時間制限がある以上、速度を引き上げたらやれた。

縫うように3体を仕留めた俺は、そのまま残りの13体を狙うが槍が途中で折れ曲がる。


仕方なく鈍器のように振り回して何回も痛めつけてからその場に捨てて「キーバッハさん!お替わりをください!」と言いながら近付く。


「お前、休まなくて平気か?」

「栄養剤飲みましたから。寄港したら寝ますよ」


俺は残りの刺突槍と魔法砲撃銃を手に取る。


「仕上げます。周りの状況は?」

俺に周りなんて見ている余裕は無かった。


「3体は確保。手が空いた奴がお前の倒した奴を回収してる」

「了解です。でも5分以内に安全圏に避難できなければハウスバッファローは諦めてください」


言葉の意味を理解できなかったキーバッハさんの慌てる声が聞こえてきたが、「守ってください!」と言って残りのハウスバッファローに向かって走り出して残りの個体を虫の息に変えていく。


そして仕上げに入る。


「火炎弾!暴風弾!」


本来暴風弾は空を飛ぶ魔物を撃ち落とすための攻撃だが、今回は強制燃焼…火炎竜巻に使う。


目的は全ての個体の消滅。

何も残らなければ文句はない。

ないものはない。


始末書と「次から気をつけます」でお咎めなし。

キーバッハさんは総務部とかから備品を壊した件で文句を言われるか、来期の予算で頭を悩ませるだろうがそれは頑張ってもらう。


ここで想定外の事が起きた。


ハウスバッファローの骨が燃え切らないのにこっちの魔法砲撃銃が嫌な色になってきた。


燃え切らないと骨一つでも金になると言われかねない。

時間が惜しい。

体感で正午近いことがわかる。


撤収作業でギリギリだ。


「キーバッハさん!次の魔法砲撃銃を俺に!」


俺が声を上げた時、俺の横に見たこともない男がいた。

白基調で黒と赤の差し色。見たこともない企業ロゴが入った…マッシィータ…。

マッシィータの社名が入った戦闘服。


「型落ちのbelieve3でよくやる。そいつを寄越せ。最新型のbelieve6と交換してやる」


男が出してきた二門の魔法砲撃銃は、確かに今俺の使うものと共通点も多いが洗練されたデザインになっていた。


「バレルは?」

「火炎弾だがお前なら火炎弾のみでもこの威力が出せるし、このくらいの時間ではbelieve6は根を上げない」


俺は疑う時間も惜しんで「なんだかわかりませんがお借りします。代金はサヨンまで請求してください」と言うと男は「安心しろ」と言って楽しそうに「ふふ」と笑う。


「終わったら返します」

「その必要はない。来期にはプロダクトモデルになったbelieve7が導入される」


「なら壊れてもOKですか?」

「なに?」


「時間がおしてるんでもう一段本気を出します」


俺は自分の魔法砲撃銃を棄てて新しい魔法砲撃銃を受け取ると、「手始めに右手!火炎弾!」と言いながら火炎弾を放つ。


その威力には正直感動した。

減衰と呼ぶべきか、本来増幅してくれるバレルが削っていたような感覚が無くなっていた。


お陰で高威力の火炎弾が放たれて着弾地点にはとてつもない火柱が巻き上がる。


「どうだ?気に召したか?」

「ええ、これならもう一段威力を引き上げます。火炎弾!」


左からも火炎弾を出すと単体でさっき出していた火炎竜巻に匹敵する威力になる。


「これなら焼き尽くせる!」

俺は一気に火炎弾を放ってハウスバッファローを片付けると、横の男に礼を言おうとした。


だが男はもういなかった。

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