第47話 ノウエとコウワ。

ウラが声の方を見ると、そこにはホムンクルスとシルバーズをアンカーで縛り上げて連行しているノウエがいた。「ノウエくん」と言ったコウワを見たノウエは、腕の無いコウワを見て「コウワ…。お前…」と言って驚きの顔をする。


「来ちゃったのね。困ったわ」

「困った?」


「カオス自体が巨大生物で、魔物達はカオスが生み出した抗体や生き物なのよ。魔物は無尽蔵、しかも傷痕なんかと同じで、一度傷つけると次は傷付かないように強く硬くなるのよ。現存する武器じゃ出られない。それこそ臨界爆発だけど、そうなるとノウエくんでも耐えられないわよ」


コウワの作戦に、ノウエが「お前、俺を逃す気なのか?」と聞くと、コウワはバカねという顔で、「そうよ、人類の為には不可欠な存在だもの、貴方は帰らせる」と答えると、その顔を見たノウエは呆れ顔で「全員で帰るぞ」と言って外を指さす。


「ふふ。ありがとう。でも無理よ」

「傷なら治す。腕なら終わったら生やしてやる。ウラとダイキュとアンタは確保しろって言われてんだよ」


「あらあら、ありがとう。でも遠慮するわ。私の死か、私が居ないと自爆できないように、この艦をいじっておいたのよ。企業には拒否されたって言いなさい。気絶したら自爆開始するように指示を出したとか、うまい事言っておいて。私を連れ帰るのはダイキュの事ね?」


コウワは「一度しか言わないからキチンと聞きなさい」と言ってから、「私の研究結果なんかはアーカイブから消したけど、代わりにヒグリ氏の所に送った。彼なら人類の為に使ってくれる。ダイキュは貴方の所にいるあの子がオリジナルのダイキュ、あなたとビーコ・マッシィータの娘。ちなみにあの子はナノマシンが影響を及ぼすかを確かめるための、ナノマシンを入れていないダイキュよ」と言って入口を警戒するダイキュを指差した。


「この子も含めてオリジナルのダイキュにもプロテクトをかけてあるわ。何も知らない…、私以外がクローンを作ろうとしたら失敗する。もうプロテクトをかける前の…、最初に採取したオリジナルの細胞は破棄してきたから、この子達からしか作るしかない、だけどウラを参考にしたプロテクトはヒグリ氏にも製法は伝えていない」


コウワの説明が気になったノウエが「コウワ?」と聞き返すと、コウワは「ウラがね、死にたくないって言うから、ダイキュも連れて逃げなさい。そして何処かに身を潜めて、この艦が自爆して少しでも道が開いたらそこから逃げて。私は見捨てなさい。生に未練はないのよ」と言ってウラを見る。

ウラは申し訳なさそうに俯きながらもノウエを見る。


「何がそこまで…」

「ヒグリ氏の所に貴方宛で送ったわ。気になるなら後で読みなさい。後はホムンクルスとシルバーズは置いて行きなさい」


「何故だ?」

「この子達は戦闘力に全振りしたから意思なんてないし、細胞の限界が近いの。後1週間ともたずに崩壊が始まる。そんな姿を晒したくないわ。それにしてもノウエくんは凄いわね。4人を拘束してシレッとしながら出入り口を塞ぐのね」


コウワの言いたいことを、やりたいことを受け入れて話が終わり、「とりあえず帰る為の方法を考えるか」とノウエが言った時、金のダイキュが「パパ、声が聞こえるの」と言った。


「ダイキュ?」

「私。見えてる。感じる。パパといるのわかる。パパに言葉伝えて」


「なんだ?」

「そう聞こえてきたの」


ノウエはその言葉を聞いたことがあった事を思い出す。


「ダイキュか!?」

「私?」


「違う。向こうの艦にいるもう1人のダイキュだ。ダイキュ、ダイキュの声を聞いて話してくれ」

ノウエはそのまま外にいるダイキュに向かって、「ダイキュ!指示をしてくれ!」と言った。


「主砲。氷結弾。氷柱状にして撃つ。穴。作る。大きくして」

「…マッシィータの主砲をダイキュが撃つんだな。着弾凍結型じゃなくて発射時に氷柱にしてなんとか穴を開けるからそこから出ろって事か」


「よし、わかった。後は場所の確認だな」

話を聞いていたコウワが「それは任せなさい。AIスグゥイ、目標変更。小さな穴でも良いからシルバーズと開けなさい」と言い、「ノウエくん、4人を解放して。彼女達が壁に小さな穴を開けるから、そこをダイキュに狙わせて。氷柱で空いた穴をウチの主砲で広げたら、ノウエくんはウラとダイキュを連れて脱出。脱出時間は30分よ。そしてマッシィータの主砲が氷結弾なら、それでカオスを封じて痛み分けにして、何年かかっても兵力を集めて、今度こそカオスを破壊しなさい」と言った。


余りに真剣で協力的なコウワに、ノウエが「コウワ…」と言うと、コウワは呆れ顔で「やだわ、憎らしい敵でしょ?睨みなさい。悪役は悪役として仕事を果たす。奥様や子供達にした事は謝らない。でも私にだって罪悪感くらいあるのよ。好意は素直に受け取りなさい」と言うと、儚く笑って「さあ、作戦開始よ」と言った。

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