第48話 撤退。

俺が4人を解放すると、4人は出入り口に向かってわき目もふらずに走り出して行った。

俺はその後ろ姿を見ながら、「ダイキュ、向こうのダイキュに今の作戦は伝えられるか?」と聞くと、ダイキュは頷きながら「パパの言葉を聞いたからわかる。爆発を待ってるって」と返事をする。


「わかった。火適性が強いのは?」

「私だよ」


俺はダイキュに「よし、ダイキュは主砲の所に行って回頭しておいてくれ」と言うと、ダイキュは別行動になるとは思っていなかったようで、「パパ?」と聞き返してくる。

俺はダイキュの質問には答えずに、ウラに「ウラ、ありったけの魔法砲撃銃を持って甲板に出る。付き合ってくれ」と指示を出した。


「お父様?」

「4人を無駄死になんてさせない為だ。あのダイキュも娘だ。父親らしいことがしたい」

俺の言葉にウラは「わかりました」と言うと、23門のsuspectを出してきた。


甲板に出ると魔物どもは増えていて4人を狙っていた。

すでに1人のダイキュは腕がなく、別のダイキュは頭が削られていた。

それでも必死に出入り口を目指してくれている。


「ウラ、雷撃弾」

「はい」


渡されたsuspectから砲弾を放つと、遠くて怪しいがマツザウロスはケシズミになる。

それを見てウラが「お父様凄い」と言ってくれて、照れながら「こんなもんだ。もう壊れた、次」と言ってsuspectを棄てる。


次々にウラが渡してくる魔法砲撃銃を放って血路を作ると、壁の目前で4人は一気に加速をして壁に取り付くなり自爆をした。


感情が無いと言われても、やはりダイキュの死は見ていて辛い。

俺は心の中で小さく「さよなら」と「ありがとう」を言う。


「ウラ、道案内をしてくれ」

「はいお父様」


主砲に向かうとダイキュが嬉しそうに「パパ!」と言う。


「ダイキュ、向こうの声は聞こえる?」

「うん。穴に向かってもう撃つって。大きいから大変だって」


「よし、こっちも魔法を込める。ダイキュも手伝…、ウラもやるか?」

「やります」

「3人だ!」


3人で主砲に魔法を込めていると、地響きと同時に巨大な氷柱がカオスに刺さった。


「目標はあの氷柱だ」

「制御は私がやります」

「パパは思い切り撃ってね!」


「ああ、この一撃で主砲が壊れても構わないからな。火炎弾発射!」


俺達の火炎弾はウキョウとダイキュが放った火炎弾以上のサイズで氷柱に直撃すると再び大穴が空いた。


退艦時にコウワに声をかけると、コウワは全て見ていたのだろう、「本当、勿体無い。準備をしっかりしていたら勝てたわね」と言うと端末を渡してくる。「これを持って行きなさい。今日の戦闘記録とカオス内部の調査結果なんかが入っているわ。私達の戦いを無駄にしないでね。さっきも言ったけど、時間は30分。ダイキュとウラをお願い」と言われ記録を受け取った。


俺が「ウラ、ダイキュ、コウワにさよならを言ったら走るよ」と言うと、ウラが「先生、さようなら」と挨拶をし、ダイキュは「バイバイ!」と言う。

コウワは穏やかな顔で「ええ…楽しかったわ。さようなら」と言って、ウラとダイキュを見送った。



その後は時間勝負だった。せっかちなコウワの奴は、俺達が退艦する前に自爆シークエンスを開始しやがった。


2人とも高ポテンシャルなので、なんとか俺について来てくれるが、下手をしたら車より速く走っている。


「パパ!向こうから、時間足りない!もっと速く!だって!」

「何!?」


ダイキュの言葉を聞き返す俺の耳に、「ノウエくん!穴が空いたから聞こえるはずだよ!返事だ!」というヒグリの声が聞こえてくる。


「ヒグリ!」

「良かった。こちらのダイキュさんとそちらのダイキュさんの共感で、状況把握はある程度済んでいるが、計算がイマイチ甘いよ。オンボ艦がカタログ通りの内容なら艦から20分で壁まで到達して、穴を背にするのではなく壁側に逃げて、壁を背にしてから、君の足でも更に10分走らないと危険だ」


「何!?文句ならせっかちなコウワの奴に言ってくれ!アイツ、退艦前に自爆し始めやがった!今も全速力で車より速く走ってるぞ!?俺はまだしもウラもダイキュも辛そうなんだぞ!?」


ここで「退いて!」と聞こえてくるとそれはメアリで、「できないなんて聞いてないの!やれって言ってんの!早くやりなさい!」と怒鳴られる。


「メアリ?」

「早く2人の娘を抱っこして全力疾走!手抜きは全部ダイキュが見てるからね!」


無理難題に「お前…」と言うと、「早くしないとダイキュが1人で主砲撃つって言ってるからね!ヒグリさんに言われたけど、いくらダイキュでも今度は倒れるって!倒れるなんて子供の成長に悪影響だってさ」とメアリが言う。


俺は耳を疑った。

成長に悪影響?

ダメに決まっている。


「何!?わかった!」

俺は通信を無視して「ダイキュ!おぶされ!ウラは左手で抱く!」と言ってダイキュを背中にしがみつかせてウラを抱くと、右手に持った刺突槍で邪魔な魔物を蹴散らしながらさらに加速をする。


ウラは俺を見て「お父様、凄い」と言い、ダイキュは「パパ速い!」と喜んでいる。

通信機の向こう側からは「うっわ、速」、「いいなぁ。ダイキュも後でパパに頼もうっと」、「心臓が破裂しそうだね」と呑気な声が聞こえてきていた。

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