第49話 痛み分け。

俺は12分残しで壁を抜けるとそのまま艦を目指す。


「ウラ、ダイキュ!氷が得意なのは?」

「お父様?私の方が若干…」


「よし、主砲を撃つ。ダイキュは疲れたろ?ゆっくりしろ。後はその服、何が仕込まれてるかわからないから、替えの服を貰ったら着替えるんだ」


艦に戻ると、主砲の部屋に皆して集まっていた。

俺は「ダイキュ!!」と言いながら部屋に入ると、「パパ!」「なに?」と言われてしまう。

俺はここでダイキュが2人で困惑してしまうが、メアリが大人のダイキュに向かって、「ごめんね。2人ともダイキュだと困っちゃうから、ママの私があなたの名前を決めておいたんだ」と言う。


「ママ?」

「そうだよ。あなた達のママだよ」

大人のダイキュがメアリを上から下まで見て目を輝かせると、「ママが名前をくれるの!?」と聞く。


「ええ、あなたはオーコ。ダイキュのダイはきっと大きくなって欲しいからオー、コはあなた達を産んでくれた人の名前よ」

メアリなりに考えてくれていて、ビーコのコまで入れてくれていて、俺は違和感なくダイ…オーコを受け入れていた。


「パパ!名前貰ったよ!」

「良かったなオーコ」


「パパ、お姉ちゃんが増えてダイキュ嬉しいよ!」

「良かったな」


俺はダイキュを下がらせてウラと主砲に向かうと、ダイキュが不満げに「パパ?ダイキュと撃たないの?」と聞いてくる。


「メアリが言っていたが撃つと倒れるって、倒れると成長に良く無いって、聞いてないのか?」


俺の質問にダイキュが答える前に、メアリが「あれ適当に言っただけ。ノウエが遅いから本気出して貰おうとしたんだよね」と言って笑う。


「は?」

「だから適当。ヒグリさんはそんな事言ってないよ」


「はぁぁぁ?」

俺が不満一色の中、ブリッジから「オンボ艦臨界、15秒後。総員対ショック!」と聞こえてくる。


俺はとりあえずメアリとダイキュを抱えてショックに備えると、地響きの直後にカオスの外壁は綺麗さっぱり消えてなくなった。


「…仕上げだ。撃つぞ」と言った俺に、ダイキュが「10年くらい溶けないのやれる?」と聞いてきた。


「ダイキュ?」

「ママじゃないママが教えてくれたの。ママのお腹の赤ちゃんが大きくなると、カオスを破壊できるから魔物が出てこれないように蓋をしてホンシャーに住んでだって」


俺はもうダイキュの言うことは全部信じていて、「ママってどのママが言った?」と聞くと「シーマママ!」と答える。


俺はメアリやヒグリを見たが、誰もシーマの名前を伝えていないと首を横に振る。


「そうか、シーマが言うなら本当だな」

「マチママは勿体無い、中に入って全部倒して最強を目指せって言ってたよ」


マチの名前まで出されるなんてな。


「ミカママがパパとミカママの赤ちゃんならもっと凄いけど、居ないから仕方ないって。ママとの赤ちゃんなら大きくなればカオスを破壊できるって」

ニコニコと話すダイキュを信じた俺が「ヒグリ、主砲は壊す」と言うと、「え!?そんな」と返ってくる。


「俺はダイキュを信じる。オーコ、ウラ、2人も手伝ってくれ。フルパワーで氷結弾を撃つぞ。俺自身フルパワーは初めてだからどうなるかわからないが撃つ」


ヒグリが真っ青で「フルパワー!?初めて!?困るよ!」と言うが、ダイキュは「パパとお姉ちゃんとだ!」と喜び、オーコも「やるよ!」と言い、ウラも「お任せください」とやる気だ。


俺達はさっさと主砲に向けて臨界まで氷魔法を込めて、貯まるたびに打ち続けたら5発でバレルと水晶が壊れてしまう。


俺が「壊れたな」と言うと、ウラが「壊れてしまいましたわ」、ダイキュが「壊れちゃったね」、オーコが「まだ撃ちたかったなー」と続く。

肩を落としたヒグリが「それは壊れますよね。君達に合わせて作れたら良かったんだけどね」とボヤいていて、戻ってきたウキョウが肩に手を置いていた。


だが出来上がったのは氷山そのもので、ヒグリに言わせると「永久凍土だよ」だった。


俺達はこれでカオスから魔物が出てこないなとニコニコで帰って行った。

それからは色々と厄介だったが、コウワがダイキュとオーコにプロテクトを施してくれていた事でクローンの制作はうまくいかずにすぐに頓挫して、また14歳で4ランクの子供達が徴用されるようになった。


そのコウワのメールには自身に何があったかが綴られていた。

若くしてオンボに認められたコウワは恋をする。

世界平和に使おうとした力は重役たちに穢された。

それでも恋をして愛した相手と生きるために我慢をしたが、その相手は魔物に襲われて死んでしまう。

遺された細胞を使って恋人の子を産もうとしたが、未熟な施術で失敗し、コウワは生殖能力を失っていた。

再生魔法すら通用しない身体になったコウワ。


簡単に言えば復讐。

誰に、誰が、ではなく対象は自身を含めた全人類と魔物に対してで、自身のような話は決して珍しくない。人類の為にも魔物を全て駆除したかったと書かれていた。

清々しいくらいコウワらしいのは謝罪が無かった事だ。

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