第50話 (最終話)夢物語を実現する者達。

初めはホンシャーに移籍か出向をする話も出たが、観測しても氷に溶ける気配はないし、カオスにしてもヒグリの見立てであれ自体が魔物だとすると、あまりの寒さに冬眠したのかも知れないと言う事だった。


カオスが沈黙すると魔物は新たに生み出されなかった。

そうなると俺達はあまり意味をなさず、陸上戦艦の仕事も減る。


いい機会だからとメアリが出産を終えて復帰するまではマッシィータのホームに住む事にした。


オール20は秘密にしたが、オール15と言うだけで有り難がれた俺は重役が住むような御殿に住む羽目になった。


ここで問題だったのが、オーコもウラも年齢に見合った教育を受けていない事で、ヒグリが講師を用立ててくれた。


季節が冬になる頃、メアリは女の子を産んだ。

俺とメアリの子なのに髪色はダイキュの言っていた通り青緑だった。

一瞬メアリを見てしまったが、「ノウエの子だよ」と言われてしまう。

そうじゃなくてダイキュの予言通りだと言うと、メアリは「私の子は凄いなぁ」と暢気に喜んでいた。


名前はメアリが顔を見てインスピレーションで決めると言っていて、「メグ」と名付けた。

意味を聞いてもインスピレーションの一言で片されてそんなものかと呆れた。


メグは生まれながらのオール4だった。

悪くないがダイキュ達とウラを見ると一段見劣りしてしまい、ヒグリ達はシーマがダイキュに話したのは夢物語ではないかと疑われた。


別に可愛いから構わない。

カオスの魔物なんて俺達が居れば怖くない。


そう思ったがそれは杞憂だった。

ダイキュがミカ達の声が聞こえなくなったと言って少しした頃、メグは異常さを発揮した。


ヒグリに言わせると「知能特化型能力者」と新たなジャンルを用意しなければならない程で、メグは不思議な事にまだヨチヨチ歩きなのに端末を使いこなして俺たちすら知らない事をやってのける。


初めは俺の娘は凄いなと笑って済んだが、すぐに笑えなくなる。

ヒグリが頭を抱える魔法砲撃銃の設計図面を見て全く別のアプローチで耐久度を引き上げて威力を増した。


話ができるようになると、アーカイブされたカオス戦を見て刺突槍が歪んだ理由を言い、改善案を提示する。


メグ考案のAI制御を更に向上させた地上戦艦を建造し始める頃には、「ダイキュがお勉強を教えてあげるね!」なんて言っていたダイキュ達が、「メグ〜。ここ教えて?」と教わる程だった。



そしてメグはヒグリに提案をして、各ホームを回って世の中の知識を全て集めるように吸収して、マッシィータのアーカイブ人間と言われるようになる。


若干8歳でマッシィータの衛星をアップデートすると、カオスを調べて「パパ、パパの攻撃力でもカオスの破壊は1年かかるし、倒し切る前に世界が壊されてたよ」と教えてくれた。



メグの見立てでは、カオスは地表に見えているのはほんの一部で、地下深くに本体があり、到達までに外壁も内壁も閉じていき、都度全力でこじ開ける必要があると言う。


「氷で塞いでくれてたすかったよ。寒くしたから生産速度も落ち込んでいるから中もそんなに増えてないよ」

「このまま凍らせ続けるのがいいのか?」


俺の言葉にダイキュにオーコ、ウラもガッツポーズで任せろと意気込むが、「横道を作られて外に出られるからダメ、今も小さな道からハウスバッファローが外に出てるんだよ?最近目撃情報が多いのもそれが原因」と即座に言われてしまう。


そのメグはとんでもない兵器をヒグリと作り出す。


「3番艦を作った時に「私の娘って凄〜い」とか思ったけど、鳶が鷹を産んだわね」

メアリは大きくなったお腹をさすりながら笑い、ダイキュが「ママ、あんまり笑うと赤ちゃん出てきちゃうよ!」と心配している。


言い方はアレだが、メグやダイキュ、オーコにウラ、それぞれの育児が大変すぎて子供が望めなかったが、マッシィータから社命として子を産む事を強要されて、メアリと避妊をやめたらすぐにメアリは妊娠した。


メアリは「流石にノウエでも避妊具は突き破れないんだね」と笑っていたが、聞くとヒグリ達と本気で避妊具が効果を示さなかった時に策を講じなければと頭を抱えていたらしい。


俺をなんだと思っているんだ?


「まあダイキュがミカ達の声を聞けないから、もう生まれてくる子にしてもわからないから楽しみだな」


俺がそう言うとダイキュが「なんでママ達の声が聞こえなくなったんだろ?」とボヤく。


「それはやり切ってくれたからじゃないのか?」

俺に奇跡を授けてくれて、メグが世界を平和にする話までしたら出てこないだろう。


そう思ったが甘かった。

メグが突然「パパ、おかなの赤ちゃんはパパ以上の再生魔法特化型だよ」と言った。


「………メグさん?」

俺の横にはヒグリと指示だしと進捗の確認を終えたメグが戻ってきて、「ミカママ達の声は私が聞いていたから、お勉強のコツとか教えてもらってたの」ととんでもない事を言い出した。


「…本当か?」

「本当だよ。前に私の作ったクッキーをなんだか懐かしいって食べてくれたけど、アレはキツミママのレシピだからね?」


…マジかよ。

確かに懐かしい味付けだったけど…


話を聞いていたメアリは目を丸くしながらお腹をさすって、「あなたもすごい子なんだ!ママは鼻高々だよ」と声をかけている。


そんなメグが立案したカオス破壊作戦は夢物語のようなモノだが、メグにはそれを可能にする知能がある。


メグに言わせれば「その夢物語を可能にするパパとお姉ちゃん達が凄いんだよ」との事で、俺達はメグの指示でコレでもかと動力源の水晶に魔法を込めていく。


準備されて行く水晶を見て、「大都市何ヶ月分もの魔法量…。仮に運用事故が起きたらマッシィータは消滅だよ」と漏らすヒグリに、メグが「ヒグリお兄さんと私なら平気だよ」と言って笑う。


メグの考案した衛星兵器に俺達の水晶を載せて発射をさせると、1週間かけて微調整をしながらカオスの直上に到着する。


「まずはダイキュお姉ちゃんとオーコお姉ちゃんの火魔法とパパの火魔法」

淡々と端末操作をするメグ。


次の瞬間にはモニターに映る映像に、天から真っ赤な光の帯が降り注いできた。

そして永久凍土とヒグリが名付けた氷を全て溶かすがまだ火は止まらない。


「わぁ…ダイキュの火ってあんなに強いの?」

「オーコとダイキュは凄いよねぇ〜」


ダイキュとオーコが同じ顔でニコニコと話す中、ヒグリが「メグさんの考案した増幅器も相まってとんでもない事になっています」と説明をする。


「次、ウラお姉ちゃんとパパの雷魔法」

落雷と呼ぶには異常な雷の帯でカオスは黒焦げになる。


それを衛星兵器からの映像で確認したメグは「ヒグリお兄さん、そっちは推定でどこまで出ましたか?」と確認をすると、「地下350キロメートル。後一息だね」とヒグリが返す。


「推定概算500キロメートルだから…」と言ったメグは「掘削系の魔法が無いから面倒だなぁ」とボヤきながら、「氷魔法、氷柱状で…、パパと…全員にしよう」と言うと、永久凍土と呼ばれていた氷に近い氷柱状の氷の塊がコレでもかとカオスに降り注ぎ、メグが「コップに沢山氷を入れた時みたいな感じだよ」と説明しながら、「質量武器って悪く無いなぁ。ヒグリお兄さん、420?」と聞く。


「こっちでは425だよ」

「氷の質量と重さの計算を間違っちゃったか、とりあえず後は沈黙まで…」


メグはそのまま火、雷、氷をローテーションしながらカオスの破壊まで使うと、最後に「偽装事故」と言って衛星兵器を自爆させて、「あー、バレルか水晶がもたなかったよ」と笑ってヒグリとハイタッチをした。


後で教えてくれたが「あんなものが空に浮いていると、皆が幸せになれないから壊したんだよ」と言ってメグは笑っていた。


「これでカオスはもう無いから世界は平和になったのか?」

「じゃあダイキュ達も艦暮らしは終わり?」


ダイキュの声にウラとオーコも喜ぶ中、メグが「え?カオスを破壊しただけで、空中石板は見つかってないし破壊してないから魔法も魔物も居なくなってないよ。これからもこの日々は続くよ」と言って笑う。


俺はこの生き方しか知らないからそれも良いのかと思い、「とりあえず今日は終わったんだ。帰ってお祝いをしよう」と言って帰った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

終末世界で生きる俺。 さんまぐ @sanma_to_magro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画

同じコレクションの次の小説