第17話 5人で食事。

1番艦の出航は決まらずにいた。

「これならオーバーホールしちまうか?」とメンテナンス部が漏らしていたほどで、出航出来ない理由は2番艦のことがあったからだった。


やはり大人数の人間を裁くと航行に支障が出るが、無罪放免には出来ない。

かと言って収容所に入れておいて2番艦を遊ばせる事も違う話になるし、重役たちが危険なホーム暮らしに黙っていない。


ストライキ自体は間違いではないが、やり方とその先が大問題だという話になった。



もう俺が搬送されてからひと月が経っていた。

ことのあらましは簡単だった。


シーマから俺の子を孕めと重役命令が降った事を聞いたデリトは怒り狂った。

そして元々船での暮らしに不満を抱いていた船員を焚き付けて、7ランクの攻撃力を見せつけて船員を掌握していた。


ここで呆れたのが、自分はしっかり当てがわれたメイドのキョマという女をコレでもかと抱いていた事で、キョマは避妊を許されずにデリトの子を孕っていた。


元々はシーマを助ける。

2番艦を機能不全に追い込んで、誰が派遣されようがストライキを続行してシーマを呼ぶところまで持ち込むつもりだったが、俺が来たので本気で仕事を放棄していた。



ここで問題が起きた。

「本来なら1番艦の航路に迷い込むはずだったマツザウロスと化け羊、鋼鉄大亀が倒されずにホームを目指してくることになってしまった」

ウキョウの言葉に「主砲は?」と聞くと、「奴らは中型の魔物の群れだ。主砲では採算面で無理だ。副砲は撃つ」と返される。


「なら俺はどうすればいい?」

「それを聞いている。私とバシンと1番艦の戦闘部、そしてノウエ。これで奴等を可能な限り回収可能な形で討伐せねばならない」


「了解。俺が前で奴等を片っ端から倒す。バシンさん達が真ん中で死骸の回収やら撃ち漏らしの撃破。ウキョウさんは殿でホームの防衛ですかね?」


俺の言葉にウキョウは「ほう」と言って喜ぶと、「私とは逆だな。君が殿だったよ」と続ける。


冗談を言わないで欲しい。俺みたいのは前衛向きだ。

会敵は2日後、避難勧告なんかはしないと言うので、俺は戦闘前にミカとシーマ、2人の両親に挨拶をしてきた。


2人とも俺との結婚に前向きで、両親は下心もあるが娘達の幸せを喜んでいて一夫多妻なのに俺を前向きに受け入れてくる。


5人で食事を摂ると「今度は6人で食事で家がもっと華やかになる」と父親が喜んでいる。


「華やか…」と呟くように聞き返す俺に、ミカが「ノウエ様は苦手ですか?」と聞いてくる。


「いや…兄さんが生きていた頃は4人の食卓もあったから平気で…、華やかなんて思った事も無かった」


俺の言葉に「男ばかりではそうなりますよね」と母親の方が言いながら、「子供が女の子ならもっと賑やかになりますよ」と続けると、シーマもミカも頬を赤くして俺を見る。


俺も2人と両親、そして今度はこの場に居る子供の姿を想像すると、意味もなく恥ずかしくなって赤くなってしまった。


なんとなくだが愛についてわかった気がする。

これを守りたい。

その気持ちも愛なのかも知れない。


「ミカ、シーマ、魔物の襲撃は何の心配もいらない。ご両親とここに居てくれ」

「はい。ノウエ様はウキョウ様と並ぶ一騎当千のお方です」

「何の心配もしてません。終わったら出航までまたご飯を皆で食べましょう」


俺が「また?」と言いながら両親の顔を見ると、2人とも迷惑そうな顔はひとつもせずにニコニコとしてくれていた。



襲撃当日。

小型車で目的地まで進む。

突破ラインを守るのはウキョウなので何の心配もない。

魔物の素材は戦闘部が回収してくれるので俺はやりっぱなしでいい。


これで終わればまた5人で食事をすると思うと、何故か微笑ましい気持ちになり、ホームからでも見えるような攻撃を繰り出してみたくなる。


「ノウエ。観測班からだ。先頭は化け羊。会敵まで5分だ」

「了解です。土埃が遠くに見えますよ。とりあえず手元の武器が無くなるまではやります。無くなったら後はバシンさん達にお任せして俺は武器を取りに戻ります」


ウキョウが不思議そうに「…100近く持ち出してか?」と聞いてくるので俺は「なんか変なんですよ」と素直に返す。


「変?」

「ええ、ホームに戻ってから力加減がまたおかしくなってしまいました」


俺はウキョウの返事を待たずに通信を終わらせると、挨拶代わりに魔法砲撃銃を持ち出して火炎弾をコレでもかと放つ。


この巻き上がる火炎柱をミカやシーマは見てくれているだろうか?

あの家は高層物件だったからきっと見えている。


シーマはニコニコと自慢げに「ほら!私の旦那様は凄いんだよ!」と父と母に言うだろう。

ミカはお腹をさすって子供に報告をするように語りかけるかも知れない。


早く倒して帰ろう。

あの4人の待つ家に。


速すぎると笑われるかも知れない。

構わない。


挨拶代わりはこれでいい。

とりあえず散られるのが面倒くさい。


「選択肢を減らす!氷結弾!!」


迷路のように氷結弾を放って通り道を俺の前に絞る。


出てくる化け羊をアンカーで次々と感電死させると、アンカーは討伐数が20を越えたところで壊れたので、刺突槍に変えてマツザウロスを切り刻んで化け羊には火炎弾。鋼鉄大亀には氷結弾で動けなくしてしまう。


1時間を超えて敵の残数が気になった頃、観測班から「早すぎます!残り3割です!」と聞こえてくる。


そんな中、横にウキョウが出てきて「ホームで事件だ。ここは代わるから戻るんだ」と言われた。


事件?

「何が!?」

「概要はヒグリが話す!君は早くホームに戻るんだ!」

俺は言われるままに車に戻りホームへと走らせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る