第37話 妻達の愛。

俺は皆に会えただけで満足で「皆、もういい」と言ってしまう。


「バーロー!いい訳あるか!」

「まったくだ!最後まで戦えノウエ!」

「そうよ!私達のダイキュを独りぼっちにする気?」

「そうです!立って戦ってください!」

「私達は立ち上がれると信じてます!」


皆の言葉を聞きながら何とかしなければと思ったが、依然膝と肘から先がない。

どうしようもない。

どうしたらいい?


そう思っていると、ミカが「まだノウエ様を愛している仲間は居ますよ」と優しく微笑み、ビーコが「ダイキュ!いらっしゃい!」と声をかけると、殺してしまった24歳のダイキュが「パパ、ママとダイキュが助けるね」と言って俺の手足に力を注いでくれる。


徐々に手足が戻って来たが、また女は袋叩きから逃れて俺を襲いに来る。

見た感じキツミだけでは抑えきれない。

そう思った時、キツミの防壁をキツミと支えた女が居た。


「来ちゃったの?仕方ないよね。一緒にノウエ様を守って」

「うん。やろうお姉ちゃん」


それはキツミの妹のスゥイだった。


「スゥイ?」

「へへ、助けに来ましたよ」


そして「私も居る!」と現れたのはマチの従妹のヤチヨで、女の頭を掴むと「おりゃぁぁっ!」と言いながら引きずって、マチに「おばちゃんパス!」と渡して袋叩きが再開される。


「なんで…皆?」

「何度も言わせんなバカ!さっさと治して、さっさと立ち上がって、このクソ女をブチ殺せノウエ!」

リーヤの声で立ち上がれた俺だったが、「魔法が発動しないんだ!」と言うと「気合いと根性が足りねえぞ!やれないなんて聞いてない!やりやがれ!」と返される。


そのやり取りに皆が笑い、ミカが俺の手を握って「大丈夫です。ここには来れないけど力を感じますよね?」と言うと、ダイキュも俺の前に来て「パパ!ダイキュの声を聞いて!」と言う。俺が「声?」と聞き返すと、ミカは「ヒントです」と笑って、「メアリ!ノウエ様に力を!」と言った。


メアリの事を思い出した時、確かに遠くから「起きて!早く起きないと!起きてよ!」というメアリの声と、「パパ!起きて!」と言うダイキュの声が聞こえて来た。


「メアリもノウエ様の子をみごもりました。だからここに来る資格がありますが、生きてますから来れないんです」

「ダイキュはパパの子だから声は送れるよ!」


ミカとダイキュの言葉を聞きながら俺は力を貰う。

今ならやれる。

俺は走り出すと「退け!マチ!…いや!俺にそいつを投げ飛ばせ!」と言う。「おお!任せろノウエ!」と言ったマチは楽しそうに女を殴り飛ばしてくるので、俺は殴りながら火魔法で焼き尽くした時…女がコウワだと気付いた。


コウワは呻き声を上げながら霧散した。



俺の前には俺が愛し、俺を愛してくれた、もう会えないはずの女性達が居た。

俺は嬉しさから涙が溢れてしまい、なんと礼を言おうかと思っていたのだが、リーヤからグーパンチを貰い「がっ?」と声を上げると、俺を抱きしめて来て「のんびりしてらんねーんだよ。本当なら久し振りに抱いてやりてえけど時間切れだ。…愛してんぞ」と言って離れると、「最強の子を授かって伝説を作るのは不発だったが、お前を救えて良かったと思う!さらばだ!」と言って鯖折りのように俺を抱きしめたマチ。


「ふん。あんなゴツゴツじゃ可哀想だから口直しよ。別に私は……、愛してたわよ!気付いてよ!助けられて良かった。これで倒れさせた分と相殺ね」と言いながら俺を抱きしめるビーコ。

そこに抱きついてくるダイキュは俺とビーコより年上なのに、「パパ!ママ!3人でギュー!」と言って力をこめてくる。


ビーコが「ほら、順番」と言ってダイキュの手を持って離れると、シーマが「もう!本当に格好いいんですから!愛してますからね!誰よりもです!」と言って俺を抱きしめると「ほら次!」と言う。

次はキツミとスゥイで、2人してモジモジと「あんな綺麗な人たちの後でごめんなさい」「でも好きです」と言って俺を抱きしめて、声をそろえて「助けられてよかったです」と言って離れる。


「隙あり!」と言って来たのはヤチヨで、「愛してないとか嘘ついてごめん。契約でそうしないといけなかったんだ」と言って離れると、最後にミカが来て「ノウエ様、会いたかったです。お助けできて嬉しいです。私達はいつも見守っています。頑張って生きてください」と言って俺を抱きしめて来た。


「ミカ…」

「時間がないからノウエ様は私達の話を聞くだけ。質問はダメ。帰る時はメアリの声を聞いて、声の方について行って」


「そんな」と言うと、背後から「ガタガタ抜かすな!ブン殴るぞ!」とリーヤの声が聞こえてくる。


黙っていると「ふふ」と笑ったミカが、「メアリは私達みたいにしないで。そして私達の子供を助けてあげてください」と言って俺の手を握った。


「ミカ?」

「目覚めたら全てわかります。大変でも私達の娘をお願いします」


「オラァ!返事して私達の娘を助ける!」

「お前ならできる!頼んだぞ!」

「ほらダイキュ。パパにお願いしなさい」

「パパ!ダイキュを助けて!」

「ノウエ様、世界をお願いします」

「大変だけどお願いします!」

「本当、大変だけどさ」

「私達の旦那様ならやれるよね」

リーヤ、マチ、ビーコ、ダイキュ、キツミ、スゥイ、ヤチヨ、シーマに言われて頷くことしかできずにいると、最後にミカが「起きたら能力検査をしてください。私達の想いがノウエ様に奇跡を起こします。その力で娘達をお願いします」と言い、俺は声のする方に引っ張られた。

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