第38話 妻達がくれた奇跡。

俺が目を開けるとメアリとダイキュが目の前にいて、「起きた!」「わかる!?」と2人して目に涙を溜めて抱きついて来た。


「メアリ?ダイキュ?ここは?オンボまで来たのか?」

俺の言葉に首を横に振ったメアリは、「違うよ、マッシィータの2番艦だよ。ちなみに今日は最後に連絡してから2ヶ月が過ぎてるの!大変だったんだよ!」と言いながらワンワンと泣き、ダイキュが「ママはずっとパパの横でパパを呼んでいたんだよ」と教えてくれた。


「良かった。無事そうだ」

「危険なところだったんだ」


そう言って現れたのはヒグリとウキョウ。


「何があったか覚えているかい?」

「いや、…背中に銀のダイキュから薬品を打たれた」


「うん。そして君は洗脳されかけた。それを救ってくれたのはトゥシバーのヤチヨさんとスゥイさんだよ」

ここで夢の出来事を思い出して、俺なりに解釈をして「ヤチヨとスゥイは死んだのか?」と聞く。


目を丸くするヒグリに「俺が夢の中で襲われた時、リーヤ達が助けに来てくれた。現れたのは俺を愛して、俺に愛されていて…俺の子を身籠った人達で、その中にヤチヨとスゥイも居てくれた。あの2人、仕事だからと言っていたが、気持ちはあったそうだった」と説明をすると、「不思議な体験をして来たんだね。話せるかい?」と言ってきた。

俺は頷きながら「ああ、だがミカに言われたんだ。先に能力測定をさせてくれ」と言って起き上がろうとする。


「能力測定?なぜだい?」

「ミカ達が俺の身体に奇跡を起こすと言っていた」

ヒグリがわかったと言って機材を撮りに行く間に、メアリに「メアリ、お前とダイキュの声が聞こえて来て力になったんだ。ミカ達が教えてくれた。俺の子を身籠ってくれているから、メアリにはキチンと幸せになってもらえって言われたよ」と説明すると、「少しヤキモチ。サプライズしたくて黙ってたのに」と言って口を尖らせる。


俺はダイキュを撫でながら「「娘達を救ってくれ」って言われた。何のことだろう?」とメアリに聞くと、タイミング悪くヒグリが機材を持ってくる。


俺の結果は推定値オール15になっていた。

「これが…奇跡…。正に奇跡だよ。理論上ランクは20まで測れるように作ってはおいたが使う日は来ないと思っていたよ」


ヒグリが息を飲み、ウキョウが唸る。

だが実感はないし、妻達を犠牲にした力には申し訳なさすらある。


「ミカ達が、この力で娘達を救えと言っていた。何が起きているか教えてくれ」

俺の言葉に、ウキョウが「まずはノウエに何があったかを教えてくれ。次はトゥシバーの2人がどうなったかを話す」と言う。


頷いた俺はヤチヨとスゥイが妊娠した事でオンボでの仕事は終わった事。

その時コウワから魔物どもの巣、カオスを発見した事、そこに攻め込みたいが倒しきれなかった時の被害や、魔物の進行ルートが変わり安全地帯が危険地帯になる可能性からどの企業も首を縦に振らない事。

コウワはクローニングしたダイキュ達で部隊編成をしている事。

俺に参戦を求めてきて断った時に薬を使ってきた事。

それらを説明するとヒグリが悲痛な顔で「では僕からその先を説明するよ」と言った。



「君からの連絡が途絶えてすぐ、トゥシバーのヤチヨさんからの連絡で、君に会いたいのだがどこを探しても居ないと言われたんだ。ヤチヨさんもスゥイさんもやはりこれで終わりと言うのは嫌だったそうだよ。

僕達は君の身に何かが起きた事を察して2番艦を発進させたんだ。無茶な航路だったがそれはウキョウや艦の皆が無理をしてくれた。

そしてそれ以上にヤチヨさんとスゥイさんが無茶をしてくれてね。君の為に危険をかえりみずに君を奪還してくれて、オンボの小型車でオンボを飛び出してくれたんだ」


「小型車で?無茶苦茶だ」と驚く俺に、メアリが「バカね。愛でしょ?」と言う。


「それで最後の通信はノウエくんを奪還した。危険な状態だからすぐにきてほしいと言うものだったよ。それから5日後。僕達の前にはオンボの…コウワの兵隊に襲われるヤチヨさんとスゥイさんが居たんだ。

スゥイさんは流れ弾が当たってはいけないと、君を庇って全ての攻撃を受けて瀕死だったよ。ヤチヨさんも危険な状態だったが治療より先に君の身に何が起きたかを教えてくれたよ」


俺にはヤチヨの話が手を取るようにわかり、目にもの浮かんできた。


「参ったわ。薬物耐性が10ランク近いから麻酔も効きが悪いし、洗脳に使う精神薬すら弾いてくる。まあ気長にやるしかないわね」


そう言って「ダイキュ、私は食事と重役に談判をしてくるから見張ってなさい」と銀のダイキュに指示を出して遠ざかる。


研究室の中では俺がベッドに寝かされて頭に器具が付けられている。


ダイキュの隙を見てヒグリから俺の事を聞いたヤチヨとスゥイはコウワの研究室に忍び込んで俺を見つける。


「ロクな機械じゃない!私が剥がすからスゥイはそこら辺の機械を壊しちゃって!」

ヤチヨの言葉でスゥイが機械を壊して俺を連れて逃げる。


すぐにコウワが館内放送でヤチヨとスゥイに俺を返せ、施術中に止めると俺が死ぬと言うだろう。

ヒグリに事態を伝えて小型車を盗んで外に出る。



魔物が闊歩する外に出るのは自殺行為だ。

それでもそれをやるのはコウワの裏をかくため。

コウワは軽くハンティングのつもりで、ホームの中でヤチヨとスゥイを狩って俺を奪還すればいい。ついでにヤチヨとスゥイも洗脳して子供の量産くらい考えたと思う。

だが自殺願望でもあるかのように外に出たヤチヨとスゥイ。


唯一の失敗はオンボの小型車を使ったためにオンボには位置が筒抜けな事だった。

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