第39話 俺をカオスに行かせてくれ。

オンボの小型車で逃げたために追走隊がやってきて戦闘になる。

ヤチヨはマチから趣味レベルで鍛えられていたと言っていたが、あのマチの従妹でマチが鍛えているから戦闘部でもない連中に負けるわけがない。


追走隊を撃退したヤチヨ達の元に、さらなる追撃がくると相手は銀髪のダイキュ達だった。

動きからして違うダイキュを見て、死を悟ったスゥイは全身で俺とヤチヨを守る。


そこに到着したマッシィータの2番艦に保護されて、スゥイは程なくして息を引き取り、ヤチヨは治療より俺だと言って何があったかを説明してくれた。


「コウワ女史はクレームに対して飄々と何をしたかを言い、逆に今やめるとノウエくんが廃人、最悪死ぬかも知れないからオンボに返せと言ってきたよ。そして洗脳に使った機材や薬品についても堂々とアーカイブしてきた。それがあったから何とかできたよ」

「アイツ、多分出来ずに泣きつくのを期待していたんだ…」


「そうだね。ヤチヨさんは傷が深くて治療部では治しきれずにいたが、彼女は延命よりも君だと言い、「私が死んだら、その命をノウエ様にあげるから起きてよね。私とスゥイの命を吸って起きて」と何回も言っていたよ。そしてヤチヨさんも亡くなって君がようやく起きた。先程は危険な状態でメアリさんとダイキュさんに呼びかけてもらったんだ」

「正解だった。ミカが言ってた。メアリとダイキュの声を聞いて、その声の方に向かえって言われたんです。まあ向かうと言うより引っ張られました。ダイキュのお陰ですかね」


俺の言葉にダイキュは「偉い!パパ?ダイキュ偉い!?」と飛び跳ねて喜び、メアリは口を尖らせて「私は?」と聞くので、「勿論メアリもだ」と言った。


「俺はミカ達から娘達を頼むって言われた。それは?」

ウキョウが「おそらくこれだ」と言って出してきた端末には何処かの艦のブリッジだろう。

そこにはコウワとコウワの研究室に居たホムンクルス。


そしてワインレッドのストレートヘアが印象的な少女と、16歳くらいのダイキュがいる。このダイキュはシルバーではなく蜂蜜色の髪色をしていた。


「こっちの子は…ウラか?」

「恐らくそうだろう。再生する」


ウキョウが操作をすると端末からはコウワの声が聞こえてくる。


「皆さん。全世界の皆さん。聞こえていますか?私の名はコウワ・オンボ。オンボの役員の1人です。今こうして地上戦艦に居るのは、今までのような危険回避のモラトリアムではありません。先日、我々は極北に魔物どもの巣を見つけました。その名をカオスと名付けた我々は、あのカオスを何とかして人類に平和な土地を取り戻せないかを思案しました」


「一般の方たちも噂程度に知っているでしょう。

オール9オーバーの存在を。

彼は後天的に才能を伸ばしてどの能力も9ランク、中には10ランクの能力を得ました」


「我々は彼を再現して大部隊を編成し、カオスを討ち滅ぼす計画を立案しました。

ですが中には今のままでいいという者もいる。

それで良いのでしょうか?

またこの地上を人類の手に戻し、狭いホームの中以外で生きる道を求めるのは間違いでしょうか?」


コウワの演説を聞いていて呆れてしまう。

それをするお前はこれまで何をしてきた?

俺に何をした?

俺なんてまだいい。


ダイキュは?

ビーコは?

スゥイは?

ヤチヨは?

キタコは?

ウラは?


そしてこれから何をする?

どれだけの人を泣かせる?


俺が端末を睨んでいるとコウワはまた話し始めた。


「無論、危険な行為だと自覚しています。

まだ見ぬ危険生物がカオスにはいて、この行為によって解き放ってしまう羽目になるかもしれない。魔物達の移動ルートが変わってしまうかも知れない。

安全地帯が危険地帯に変わってしまうかも知れない。


その危険を理解しながらも私はカオス討伐を進言しました。


今、ご覧の皆様にご紹介します。

こちらはオール9オーバー…私はナインと呼んでいますが彼の娘になります。


彼の力の発露と娘の年齢が違いすぎます。

当然です。


私はこの世界の為にこの2人、生まれながらにオール5を実現し、私の生み出した人造人間を圧倒したこの2人を、生まれてすぐに遺伝子操作でこの年齢に引き上げて戦闘訓練を行いました」


な……に……?

隠さない?


「この2人は奇跡の子。この2人を授かるまでに、ナインには沢山の女性と関係を持ってもらいました。身体特徴からランク、血液型まで多数の試行錯誤を行いました。

ナインにはオンボの名で強制的に望まぬ性交を強要しました。

私はこの後、カオスを破壊できても人でなしと裁かれるでしょう。ナインに殺されるかも知れません。

ですが構いません。

私の悲願はこの地球を魔物から奪還する事。ただそれだけです」


マジか?

コイツは罪を自白した?

世界を平和に導く人間の栄光を捨てて?


「そして、私は専攻する遺伝子工学を用いて、最強の兵士達を生み出しました」


画面が切り替わると銀髪のダイキュが物のように整列して命令を待っている。


「赤毛の子は仮称アルファと名付けました。アルファはクローニングが出来ませんでしたが、こちらのブロンドの子は仮称ベータ。ベータはクローニングが可能で、生まれてきた子達、シルバーズは遜色なく戦闘力を発揮してくれました。この子達と14歳で志願してくれた子達と私たちでカオス討伐に行ってきます。

世界中の皆様、どうか我々に声援と人類の勝利を願っていてください」


ウキョウが端末を止めて「娘達を救えと言うのはこれの事だろうな」と言うと、ヒグリが「…死地に赴く娘達の保護…。だがそれだと言うことは…」と言って表情を暗くする。


「ああ、勝ち目の少ない戦いなんだろうな」

俺はそう言ってからウキョウとヒグリを見て、「力を貸して欲しいんだ。俺をカオスに行かせてくれ」と言うと、ウキョウは「向かっている。ドリームチームだぞ」と返し、艦内モニターが映し出される。


「この船はカオスを見つけた時に…、ウチは君が出向してすぐの頃、オンボより先にカオスを見つけていて、万一に備えて2番艦を改修していたんだ。カオスへの突入を想定して完全な戦闘艦に作り替えてある。だから風俗室みたいなものも無ければ、重役の居住スペースもない。計器管理や操艦に必要なクルー以外は全員治療部と戦闘部さ」


モニターに映し出されたのはバシンやキーバッハさんだった。


「え?」

「そして2か月の間に、コウワ女史は半分強制的に出航してしまい、マッシィータは正式に他企業から支援と依頼を受けたんだ。依頼内容はオンボの戦闘艦の停止と確保。それが難しければカオスに赴き可能な範囲での魔物達の駆除」


「それじゃあ…」

「ああ、君の娘達を助けに行こう」

俺はありがとうございますと礼を言うと、メアリとダイキュも「ありがとうございます」と言っていた。

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