第29話 悪魔の提案。
コウワが見せてきたとんでもないもの。
ひとつはまだ幼い少女。
「この子は?」
「さっきのサンプルに近いわね。高ランク体の子供よ。生まれながらに5ランクの才能があった」
「あった?」
「子供相手に毎日検査なんて意味がないもの。とにかく測った時には5ランクの才能があったわ」
夜遅いからか、少女はベッドで眠っていて起きる気配がない。
もうひとつは…、本当に見たくなかった。
何処かで幸せに生きていてくれて、二度と交わらない人生が良かった。
「これ、見てくれる?」
そう言われて見た水槽の中にいたのは見覚えのある人間だった。
「ビーコ…?」
「ええ、ビーコ・マッシィータさんね」
ビーコは水槽の中なのに、目を見開くと俺を睨みつけて「殺して」と口を動かした。
「あら、薬物耐性ってやっぱり厄介ね。常人なら夢の世界から戻ってこれないくらいの薬を使ってあげたのに、まだこっちに戻ってこれて認識できて意思表示までするのね」
そのビーコには右手と左足が無かった。
俺の視線を見て「ふふ。暴れるから取っちゃった」と言って笑ったコウワの笑顔は、身の毛もよだつものだった。
「なんで…ビーコがここに?」
「ああ、この子ってば貴方が倒れた一因なのよね?それで別の子も貴方の子を身籠った。それでマッシィータは損切りをした。いらなくなった…。まあ、2人いても良かったんでしょうけど、もう1人の子はお金と引き換えに子供を差し出すと言ったらしいけど、この子は拒絶をしたらしいの。だから2番艦は危険航路を走らせて、山賊に襲われた体裁でこの子を攫ったのよね。出来レースよ」
「何?ヒグリは?」
「ああ、彼が2番艦の立案者だったわね。でもこの計画は一部の重役しか知らないもので、2番艦の連中も知らないから何人も犠牲になったわね。でも素行の悪い連中だったから間引けてラッキーでしょ?」
話の中でトウヨとナンセンが見せしめで殺された事を聞かされた。
俺は話を聞いて恨めしそうに俺を見るビーコを見た。
そして水槽の中なのに泣いている風に見えたビーコを見て、再生魔法で失った手足を生み出した。
ビーコは不思議そうな顔をし、コウワは「あら凄い。再生魔法を見ちゃった」と言って嬉しそうに微笑む。
「ビーコを解放しろ」
「あら、しても良いけど薬物の影響で廃人になっているから、まともに生きられないわよ?」
簡単にビーコを手放すと聞いた時に、俺は気持ちの悪さを覚えて裸で水槽の中を浮かぶビーコを見て腹が膨らんでいない事に気付く。
「ビーコの子供は?」
「ええ、無事出産よ。今はある企業の検査機関が連れて行ったわ。私にはデータがあるから構わないわ。赤ん坊は女の子よ。だからこの子はもう調べ尽くしたからいいの。でも解放しても廃棄しても家には帰れないわ。もう山賊に攫われて終わった話だもの。今更無事に帰るとか、遺体が出てきて家族の元に帰ったらスキャンダルだわ」
「なぜ生かしている?」
「ふふ。貴方にお願いを聞いてもらう為。聞いてもらえなかったら苦しめて見せてから、お願いしようかとも思っていたわ」
「何をすれば良い?」
「サンプルが足りないの。またこの女を孕ましてくれてもいいけど、薬漬けの女なんて嫌でしょ?それに子供ができても母体がこんなだから…。ああ、薬漬けの女からでも強い個体が生まれるか試せるわね」
聞いていられない俺は「精液を提供すればいいのか?」と口を挟むと、「それは無意味だったのよ」と言われる。
「なに?」
「マッシィータとトゥシバーから、この子も含めて貴方とセックスをした後の精子を回収して調べたけど、普通以下の生命力しかないのよね。なのにキチンと中出しすると高確率で妊娠をする。だからキチンとセックスしないと子供が産まれないと仮定したわ」
聞いていてどうにかなりそうだった。
確かにミカもシーマも報告と検査があると言っていたが、俺の精液を回収した連中が実験をしていたとは思わなかった。
「人工授精もダメ。かなり試したけど成功例は無いわ。薬に強いトゥシバーもホンシャーも失敗するんだもの」
「…どうする」
「女を用意するわ。大丈夫。貴方との結婚の意思はなくて、キチンとこの世界の為に強い子を産みたいという、意思と志のある女性にするから気に病む事はないわ。妊娠したら終わり。そんな関係よ」
またヒンの「種馬だな」と言う言葉が耳元で聞こえた気がした。
俺は水槽の中のビーコを見て「ビーコは?」と聞くと、「殺してもいい。孕ましてもいいわ」とコウワは言った。
俺は水槽に手を当てて「ビーコ…。死にたいか?終わりたいか?」と聞くと、ビーコは俺を見て頷いた。
その顔にあの高圧的な態度も、俺を押し倒して悦ぶ顔もなく、ただ帰る場所もなく、薬物の影響で元に戻らぬ己の人生を悲観して呪っている女性の顔しかなかった。
「すまない。さよなら」
俺は水槽を一瞬で凍り付かせてビーコを殺す。
「あら凄い。魔法砲撃銃なんかの増幅器も無しに、高威力の魔法を放つなんて羨ましいわ」と言ったコウワは、「一応妊娠までの間は14歳用の訓練メニューも考えて貰うからよろしくね」と言われ、俺は「わかった」と言って部屋に戻り吐いた。
何があったか聞いたヒグリは「人道に反している」と激高したが、マッシィータからは「仕事だから割り切れ」と命令されていた。
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