マッシィータ(二回目)

第32話 変わった日々。

マッシィータに帰ると本当に暫く何もなかった。

ヒグリとウキョウは俺の立場に寄り添ってくれて色々と調べてくれた。


その結果分かったことは、キタコは一家でオンボに移籍していて、マッシィータが手放した事が不思議だったが、理由は簡単だった。

オンボに検査の指針を伝えれば、オンボが金を出して検査をして、全ての検査結果を惜しみなくマッシィータに渡していた。

恐らくだが、コウワの言っていた人類の為は嘘ではない。だから誰でもいいから研究結果を公表して魔物達を駆除したいのだろう。


キタコは出産時に命を落としていた。

ダイキュが死んだ際にコウワが口にした言葉。

母体が俺と子供のランクに対応出来て居ないのかも知れない。

子供は娘でウラと名付けられたと聞いた。



俺の生活は変わって居た。

マッシィータは山賊に襲われたことになっている2番艦を整備して、そこで14歳の育成を始めた。俺はそこで立ち行かない部署が出てくるとサポートに回っていた。

全員を14歳にするのではなく、適正なバランスは崩さず、そして使えないとわかると容赦なく切り捨てて良い事にした。


アオほど酷いのは居なかったが、使い物にならないとわかると捨てられる分だけ気楽だった。


会社命令でメアリというメイドが付けられたが、メアリはヒグリが手配をしてくれていて、夜伽部には口は悪いが「頑張ってもヘニャチン」と中途半端な報告をしてくれて時間稼ぎをしてくれた。


「ノウエ様が少しだけ心を開いてくれてますけど、あんな女嫌い手前まで女を抱かせたら嫌になりますって。今は同衾してようやく少し固くなってきましたけどまだまだですって」


メアリはチェンジさせられたら守れなくなるからと、週に一度は俺に抱かされると「まだヘニャヘニャで中折れしますね」と夜伽部に報告をする。


そして俺には「演技でいいから私を愛して依存しかけてる風にしてください」と言って、周りに人が居ても抱きついてくるし、俺に抱きしめてこいと言う。

人前でもキスを求めてくるし、俺も喜んでキスをする風に演技指導を受ける。


周りからは仲睦まじく見せてチェンジをあり得なくさせる。


「演技でなく愛してくれて構わないですよ」

「…すごい事を言うんだな」


「そうですか?ノウエ様はバッキバキで、これより硬くなられたら殺されちゃいますけど、私は身体の相性的にもバッチリで愛が生まれそうです」

「そういう物なのか?」


「そう…というか難しく考えません。私はノウエ様に惚れ始めてます」

「ありがたいが、キタコの話とビーコの話を…」


「聞いてますよ。その上でこの仕事を受けました。でも不思議ですね。キタコの方が薬物耐性も高いのに、母親のランクは関係無いんですかね?」

「なに?」


「もしかしたら愛情だったりして」

「愛情?」


「ええ、ビーコは不器用な子で。皆でおやつのドーナツをシェアする時も、欲しいものを見て「それ、誰も食べないなら貰ってあげてもいいわよ」みたいな言い方をするんですよ。そんなビーコはノウエ様に結婚してって言ったんですよね?だからもしかしたらノウエ様の事が好きだったから無事に出産が出来た。キタコみたいにお金で解決も出来たはずだし、お金が有れば高ランクと同じ生活も出来た。それもしないで子供に名前まで付けて、勝ち目がなくても暴れて拒絶したのは愛かも知れないですね」


俺はその言葉に衝撃を受けていた。

そしてあのビーコの恨めしそうな目は何を思っていたのか気になってしまった。


「そんなわけで、私には愛があります!だから死にません!安心して愛してくださいね!」

メアリはそう言って俺にキスをしてきた。



出航から半年。メアリが報告書に「まだヘニャチンだけど中折れしなくなってきた」と書くようになってきた。


2番艦にはヒグリも乗ってくれていて、武器の開発をしながら俺を守ろうとしてくれている。


そこに海賊船のように近づいてきた艦はオンボの船で、クルーのほぼ全てが10歳から14歳の少年少女で構成されていて、あまりの人の多さにヒグリが「きっと産ませるだけ産ませた子供を強制成長させたんだと思うよ」と言った。


あの悪魔の顔を思い浮かべていると、爽やかな笑顔で「こんにちは!」と顔を出してきたのはコウワで、「訓練記録や資料の閲覧をマッシィータだけはしてないから持ってきたわ。少し話をさせてくれるかしら?」と言う。


ヒグリは断ろうとしたが、コウワは俺を呼べと言って来たし、嫌々ながらも奴はオンボの重役で無碍にできないので俺がブリッジに顔を出すと、コウワのやつはこれみよがしに幼いダイキュを見せてきて「会いたいわ」と言った。


直訳すれば「あら、断られちゃった。このダイキュじゃダメなのね。廃棄だわ。あ、幼女が狂い死ぬ所とか貴重なサンプルだから死になさい。はい発情」とやりかねない。

俺が「行きたくない」と言うと、待ってましたとばかりにコウワが「あら、じゃあダイキュが…」と言う。


「お前が来い」

「あら、いいの?」


「ヒグリ?」

「構わないさ。この2番艦はサヨンの船で、設計図面は公開済み。見られて困るものなんてないよ」


「ふふ。じゃあダイキュと行くわ」

通信の切れ間でダイキュの「あの人がパパ?」という嬉しそうな声が聞こえてきて胸が締め付けられる思いだった。


俺とヒグリだけで迎える予定だったが、メアリも「参加しますよ。ラブラブ具合を見せつけて追い返しましょうね」と言ってついて来た。


「久しぶりね。突然だけどこっちの訓練記録に目を通して、ダメ出ししてくれない?後はマッシィータの訓練記録を買い取らせて。まあマッシィータ本社のOKは貰ってるし入金済みだからよろしくお願いします」


そう言うコウワの横でソワソワするダイキュを見たコウワは、「ふふ。そうね。ご挨拶がしたいわよね。ダイキュ」と言うと、ダイキュは顔を輝かせて俺の前に来ると「パパ!ダイキュ!4歳!」と言った。


俺は少し困りながらもダイキュを抱きかかえて、「よく来たね。嫌なこととかされてないかな?」と聞くと、ダイキュは「うん!先生が色んなお話を聞かせてくれるの!パパは悪い魔物を倒す人で、皆を助けてくれる人!」と言って俺の胸に顔を埋めてグリグリとやってくる。


この瞬間…コウワの顔には勝利を確信した悪い笑みが見えた。

コイツはこれからもダイキュの名前を出して俺に無理強いをしてくる。


メアリが「パパはお仕事の話を先生とお兄さんとするからお姉ちゃんと遊ぼう!」と言ってダイキュに手を出して抱こうとする。

困惑するダイキュだが、メアリは胸を張ると「お姉ちゃんはパパの彼女だから仲良くなろうよ!後で3人でお風呂に入ってご飯を食べよう!パパはお料理も出来るんだよ!」と丸め込む。


ダイキュは「本当!!凄い!お姉ちゃん!」と言ってメアリに抱き付いてニコニコとする。


メアリは俺を見て優しく微笑んで頷くと、直後にコウワを見て「ウチの子は今日からこちらで育てますから、今日までありがとうございました」と言って、ダイキュに「お絵描き知ってる?やれる?」と言って部屋の外に連れて行く。


「あらやだ攫われちゃったわ」

そう笑ったコウワはヒグリの報告書を読み、俺は訓練記録なんかを読む。


結論は俺という完成体を10と評価するなら、マッシィータのやり方は6でオンボのやり方は4でしかなかった。


コウワは不服そうに「なんでかしら?訓練内容に差はないわ」と漏らす。それはそうだ、オンボの訓練メニューは俺が考案したマッシィータと同じものだ。ヒグリも「そうですね。ウチはノウエが見込みなしと判断した子供を切り捨てて居ますからそれですかね」と無難な相槌を打つ。


「ふふ。ノウエくんならわかるかも。教えてくださる?」

「企業秘密」


「あら、本格的に嫌われちゃったわね。本当にマッシィータの報告にあるようにインポテンツ手前なのかしら?そっちも困るのだけど、まあ有り体に言えば、見返りはあのダイキュをあげるし、端末制御はしないわ」


「端末制御はどうやっている?」

「私の特別だから聞いても真似できないわよ?」


「それでもだ」

「ふふ。クローニングの際に体調をモニターする為に送信機と受信機をナノマシンで仕込むのよ。それを使ったから眠らせたり発情させたりしてたのよ」


不快感を露わにする俺に「怒らないで。重役受けはいいのよ」と言う。

ますます機嫌が悪くなる俺に、再度「端末制御とダイキュ。悪くないでしょ?」とコウワが言い首を傾げながら「ふふふ」と笑う。


「孤独だ」

「え?」


「孤独が足りない。本来ならアオのように1人を部署に送り込むべきなのに、オンボは子供の船を用意しているから、仲間意識で助け合って成長が止まっている」

「なるほど。でもそれならなんでマッシィータのこの船は一部署1人にしないのかしら?」


「潰れる前に助ける為だ。複数居れば弱いが壊れない。別にオール6ランクがたくさん居れば船は十分に回せるし魔物と戦える」

「成程、アオ少年の再来を防ぎたい、オールフォアワン、ワンフォアオールね。参考になったわ」

コウワは満足そうに頷きながらそういった。

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