第31話 悪魔の所業。

これから先の日々は無茶苦茶だった。

俺の能力が衰えないようにと言われながら、開発部の武器開発に付き合わされ、船もないのに用意された水瓶なんかに魔法を放って蓄える。

そして食事と同じ感覚で女がやってくる。


もう最近では相手の女が食事を持ってくる。

食前か食後か好きな方で抱けと迫られて辟易とする。

そして夜にはコウワが発情したダイキュを部屋に押し込んで帰って行く。


ヒグリに「帰りたい」と漏らしても、カンノもヒグリも報酬として結構な金額が動いてしまい逆らえないと言うし、ヒグリ達も重役達から14歳のトレーニングと、その結果を事細かに観察して報告をさせられていてそれなりに忙しい。


3ヶ月が過ぎる頃にはようやく女達が俺の子を孕った事が発覚し、お役御免になる。


だがこれで終わり、これで解放されると誰も言っていなかったのに、勝手に終わると期待した俺は正真正銘のバカだろう。


ある晩、俺の上で果てたダイキュが俺の胸の上に倒れ込んで、しばらくすると突如苦しみ出した。

異常な苦しみ方に治癒魔法を使いながらコウワを呼ぶと、ニコニコと笑みを崩さないコウワは苦しむダイキュを見て、「あらあら、やはり無理があったかしらね」と言う。


無理?


「それはお前が無理な成長をさせたから!」

「違うわよ。加齢なら何回も試して成功してるし、それのお陰でこの地位に上り詰めたんですもの」


俺はとにかく気持ち悪かった。

このコウワという人間が、とても人間に見えない女が気持ち悪かった。


コウワは「んー…?やっぱり娘の身体に父親の精子じゃ、血が濃すぎて刺激が強すぎたのかしら?月経が止まっていたから妊娠したみたいだし、妊娠と同時に自壊が始まってる?子供が母体を破壊?それとも本当にノウエ・マッシィータの子供は薬物も何も通じないのかしら?かえってデリケートになると運用に難アリだわ」と言った。


俺は何を言われたかわからなかった。


「……な…に?」

「あら、気付かなかった?目尻なんてお母さん譲りよ。口角は貴方に似てるわ」



俺は震えた。

散々3ヶ月も抱いてきた年上の女が俺の子供?


改めてダイキュを見ると確かにビーコの面影がある。


「お前…ビーコの子は……企業の検査機関…」

「ええ、オンボの検査機関、まあ室長は私ね。ダイキュはノウエ・マッシィータとビーコ・マッシィータの娘よ。ダイキュの名はビーコ・マッシィータが考えていた名前よ。私も案外義理堅いからキチンと名付けてあげたわ」


俺は自分の娘を娘と知らずに3ヶ月も抱いていた?

その事が俺を激しく揺さぶった。


「なぜ……こんな真似を…」

「言ったわよね?人類にこの世界を取り返すためよ」


コウワの言葉に激高した俺は、「何で俺の娘を使う!遺伝子が何とか言うなら俺の血を使って個体でもなんでも生み出せばいい!それをせずに何故!」と言うと即座に「もうやったわ。とっくよ」とコウワが呆れたように返す。


「は?」

「だから、クローニングならもう試したわよ。弱い個体だった。能力も低く、生殖能力もロクにない。クローニングの際に染色体も操作してノウエ子ちゃんも作ってみたけどすぐに流産する。なんならクローンの男女同士を交尾させてもダメだったのよ。だからこうして地道にトライ&エラーをやってるんじゃない。

この前まで抱いていた女だって、血液型や人種を変えてパターンテストをしてるのよ。出来るならまだ試してない組み合わせはあるから続けてもらいたいけど、ヒグリ氏が煩いし、流石にマッシィータも黙ってないから我慢するわ」


放心する俺に、コウワは「だから生まれながらの5ランクに、またぶつけたんじゃない。でもダメだった。多分子供が未知のランクになるんだわ?だから母体を殺してしまう。母親も9ランク前後にして初めてスタートラインなのね」と言うと、ダイキュに「ダイキュ、良かったわね。パパが痛いのを治してくれてるわ」と話しかける。


「パパ…?」

「ええそうよ。貴方のパパよ。会いたがっていたわよね?ママは死んじゃったけど、パパが毎晩沢山仲良くしてくれていて、今も身体の辛いのを治してくれてるわ」


ダイキュは俺を見て、散々俺の上や下で喘いで恍惚の顔を浮かべていた女の顔から精神年齢相応の少女の顔になると、「パパ」と俺を呼びかけた後で「パパ好き〜」と言って死んだ。



俺は慟哭の叫びを上げていた。

リーヤが死んでも、ミカやシーマが死んでも、マチやキツミが死んでもここまでの声を上げなかった。


憎かった。

目の前の人の皮を被った悪魔が憎かった。

俺の目を見てコウワは「ふふふ。私の事を殺そうなんて思わないでね」と言って微笑む。


「何でこんな真似」

「交配の事?人間は昔から交配をしてきたわ。競走馬も愛玩犬も家畜もそう。それなのに人間はダメなんて言わないで。意思の疎通?見た目?知らないわ。私の目的は魔物達をこの地上から葬り去ることよ。その為になら何だってするし、何にでもなれるわ」


「ふざけるな…。お前は俺の子供を殺す」

「あら、その気は無いわ。まあ結果亡くしてしまう事もあるかも知れないわね」


「お前!!」

「あら、ひとつ言うけど私を殺したら他のダイキュ達も死ぬわ」


何を言った?

また訳のわからない事を言ったぞ?


「ずっと言ってたじゃない。この子が嫌なら交換する。壊しても構わないって。言葉通りよ。その子はオリジナルではないの、クローンよ。じゃなきゃ流石に壊されたら困っちゃうわ。ダイキュかキタコ氏の娘のどちらかを染色体を変えて交配実験してもいいし、見込みのある14歳達と交配させてみるのもいい。わかる?私が死ねばダイキュ達も皆死ぬのよ。だから見逃しなさい」


コウワが手配するとすぐにメイド達が現れて死んだダイキュを連れて行く。


コウワは「まあサンプルも取れたから一度マッシィータに返すわ。また呼んだら来てくれるわね?今は恨んでも構わないわ。人類が地上の支配者に戻れば後のことはどうでもいいの。その時まだ私に恨みがあれば殺しなさい。でもまだ死ねない。殺させないわ」と言って部屋を後にした。俺は翌日解放されて帰路についた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る