第43話 妻達と向かう極北。

俺が動力部に着くとタタン達が「待ってたぜ」と言って迎えてくれる。

内装や水晶は様変わりしていたが、リーヤ達に殴られながら仕事を覚えた動力部。


そこにまた立つのは感慨深い。


つい言葉が出てしまう。


「リーヤ、行くぞ」と呟くと、「おう!お前の本気を見せてみやがれ!自信を持て!お前は動力部に来るために生まれた男だ!」というリーヤの声が聞こえた気がする。


俺はメイン水晶に向かうと力の限り火魔法を注ぎ込む。


「馬鹿野郎!無茶しすぎだ!」

「…タタン!予備も俺がやる!部屋の外に!申し訳ないが不純物が邪魔だ!」


「邪魔だと!?クソガキ!」と悪態をつきながら退いてくれたので、予備水晶にも火魔法を注ぐと艦の速度が跳ね上がる。


「ヒグリ!予想時間を教えてくれ!」

「速すぎだ!だがこれなら後40分だ!」


「慣性航行にしてタタン達に助けて貰うと?」

「…待ってくれ……約45分だ」


「よし、艦首に向かう」

「ノウエくん?」


「整地する」と言った俺は、タタン達に「タタン、動力部の皆、申し訳ないが後はお願いします!」と言う。

タタンは動力部を見て「お願いってお前…?多分仕事ないぞ?」と言って、呆れながらも水晶に向かってくれた。


艦首に出るには命綱をつけさせられる。

仕方ないが風魔法で壁を作れば暴風も関係ない。

それにしても気持ちよく景色が流れていくが、やはり道がガタガタで過ごしにくい。


「マチ、お前が居たら楽しんだだろうな。見ててくれ」


俺はマチを思い浮かべて語りかけるように呟くと「楽しむぞ!これが終わればまた最強に一歩近づく!」と聞こえてくる気がしながら、目の前を阻む物に容赦なく魔法を放つと大分走行音が静かになる。


「ヒグリ!予想時間に変化は!?」

「さらに短縮!このまま行けば35分で会敵だよ」


「残り10分で一度装備を整えに中に戻る。戦闘部に栄養剤を用意しておいてくれ。ダイキュとウキョウには逆算で会敵直前、ブレーキ代わりに副砲を撃つように指示を出してくれ」

「了解。でも始まる前に倒れないでくれよ?」


俺は「マッシィータの2番艦の日々に比べればまだ余裕だ」と返す。


未だにマッシィータの2番艦の話が出るとヒグリは「…それは済まなかったね」と謝ってくるので、「いいさ」と言って通信を終わらせた俺は「シーマ、あの時は助けてくれてありがとう」、「ミカ、俺と会ってくれてありがとう。今の俺があるのは、ミカ達に愛を教えてもらったからだ」と呟きながら通り道の整地を済ませていく。


また耳には「私こそ、ごめんなさいとありがとうですよノウエ様!いっぱい格好いい姿を見せてくださいね」、「はい。愛をもっと伝えたかったです。もっと愛が欲しかったです。私が貰えなかった分を、私たちの娘とメアリにあげてください。伝えられなかった分は皆から貰ってください」と聞こえてきたきがした。


戦闘の煙が見えてきた。「ブリッジ、ヒグリ。戦闘部に向かう、皆にまた揺れると伝えてくれ。後コウワの戦況は?」と聞くと壊滅寸前だと言われる。


「何が問題だ?」

「あの新種、雷撃が弱点にも思えるが、殺しきれないと活性化するようで、決め手が銀髪のダイキュさんしかない。後は悪いニュースでウラさんと金髪のダイキュさんも外に出ているがそれでも戦況は悪い」


俺は通信を終えて戦闘部に向かいながら、「わかってる。キツミ、スゥイ、ヤチヨ。俺はやり切る。お前達のくれた奇跡を無駄にしない」と声に出していた。


「はい。ご武運を、ノウエ様」

「ノウエ様ならやれます!」

「ババっとやっちゃってよね!」


3人の声が聞こえてくる。

妻達の声が力になる気がする。

力の中には妻達がいるのだろうか?


戦闘部は準備万端になっていた。

キーバッハさんが「ノウエ!」と言いながら俺に寄ってきて、背中を叩くと「こちらは万端だ」と言ってくれる。


「キーバッハさん、よろしくお願いします」と言うと、バシンが「作戦はどうする?」と聞いてくれる。


「バシン、とりあえずオンボに勝ち目は無いだろうから、生きている人間の保護を頼む。キーバッハさんはバシン隊の護衛を、目に着く魔物は俺が全部倒します」

「了解だ。オンボ艦は?」


「廃棄します。ごちゃごちゃ言われるようなら巻き添えにします。あれが爆発すれば、カオスに大穴は開けられますよ」


俺の説明にキーバッハさんが嬉しそうに笑うと、「サンワ達も応援していたからな。生きて戻れ」と言う。


「はい。皆さん、俺の娘の為にすみません」

「気にするな。これも仕事だ」

「なんかダイキュを見ているから、あっちを娘って言われてもなぁ」


談笑が終わるとヒグリから「見えたよ!モニターする!」と聞こえてくる。


モニターの向こうは地獄になっていた。

14歳の4ランク達は壊滅状態だった。


今は最後の隊だろう。

ウラとダイキュを中心に、20体の銀ダイキュ達が新種から艦を守っていた。

ジリ貧だ。

勝ち目なんてない。


今も1人の銀ダイキュが蛇の尾に向けて飛びかかり自爆していた。


「ヒグリ!アレはなんだ!?」

「アーカイブに新規で上げられていたよ。あれは戦闘服に蓄積した魔法を解放して一時的に動きを良くするものだ。オーバーロードさせて臨界突破をすると自爆する。コウワ女史はそれすら攻撃として扱っている」


コウワ…。

どこまで命をぞんざいに扱う?

しかもダイキュを…。

ダイキュは俺とビーコの娘だ。


「そうよ。私達のダイキュをこれ以上傷付けさせないで」

「わかっている。銀のダイキュも助けてみせる」

「パパ!お願いね!」


ダイキュと並ぶビーコが目に浮かぶ。やはり何よりも辛いのはこの2人だろう。

必ず娘達を助け出す。

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