第26話 出頭命令。

ヒンが窓口を務めてくれた。

トゥシバーの重役連中が、アオを起用した事で生まれたトラブルの謝罪と、出向の延長を頼み込んできたが、ヒンが俺をこれ以上追い込んでどうすると言ってくれて事なきを得る。

アオの家族は売った子供に興味がないのか、体裁が悪いからか遺体を迎えに来ようともしなかったので無縁仏として企業の合同墓石に弔われる事になった。


今更知って驚いたのはマチは29歳だった。

会った時に29から数えてないと言っていたが今ならわかる。歳なんて気にするな。相性の前に余計なものを持ち出すなという意味だったのだろう。


マチの家族は綺麗な遺体に感謝をしていた。

俺は会わなかったが、無意識のうちに細かな傷まで治していたので戦闘部に入ってから出来た頬にあった小さな傷まで消えていたらしい。


キツミの家族は姉に続きキツミまで失って泣いていたらしい。

キツミの話通りなら保障を失って泣いているのかも知れない。

ヒンは俺がキツミを気に入っていてマッシィータに連れて行きたがっていた事まで伝えていた。


やはりキツミの親もクズだ。

マッシィータと聞いて俺に妹を差し出す話まで持ちかけてきていた。

ヒンは汚いモノを見てきたと言って教えてくれた。


そして形見分けだといってハンカチが2枚出てきた。


不思議そうにハンカチを見る俺に、「お前はハンカチだろう?」とヒンが笑う。

真っ白のレースがついたハンカチとピンク色の可愛いハンカチ。


「どっちがどっちかわかるか?」

「白がマチじゃないのか?」


ヒンは意地の悪い顔で「大ハズレだ」と言って笑う。


「何?」

「ピンクが戦闘部部長だよ」


「マジか…」と驚く俺の耳には、「なんだオイ?私にピンクはおかしいか?」と豪快に笑いながら、「私だって女だぞ?昔は可愛いものが好きだったんだ」と言って少し照れるマチの顔が見えた気がした。


そして白いハンカチを見るとキツミの人となりが少し見えた気がした。

見た目は子供でもキチンとした女性だったのだろう。


「子供扱いしてごめんな」

「勝手に豪傑扱いして悪かった」


俺は言うだけ言うとマッシィータに帰る。

ヒンにこの先トゥシバーはどうなるかを聞いたが、「さして変わらんさ、重役が死んでも部門が全滅した訳じゃない。下の奴がうまくやる。他のクルーにしても欠員はすぐに埋まる。気にするな。まあ風俗室の扱いは変わるかもな」と教えてくれた。



マッシィータに戻った俺は数日間は今まで通りの仕事をする。

ありがたい事でメイドが付かないのが不思議だったが、理由はすぐにわかった。


「済まないが君には出頭命令が出てね」

「出頭?」


ヒグリに呼び出された俺はコーヒーを飲みながら出頭について聞くと、企業毎にバラバラでは話にならないからと、何年かに一度交代する取りまとめの企業が居て、その企業が居るから武器や食材、薬品の値段が安定して流通する事になっていた。


ヒグリはやれやれと行った顔で、「流石に今回のトゥシバーの事件は当事者の意見が聞きたいそうで、君の出頭を求められてしまったよ」と漏らす。


「わかった。どこに行けば?」

「大丈夫。僕も同席する事になったから次の経由地で降りて、船を乗り継いで取りまとめのホームに行く事になったよ。その企業はオンボ。まあ製品の一部は一流、一部は二流って企業だね」


「得意分野は?武器?食糧?薬品?」

「全部さ。全部得意だが全部不得意。そんな変わった企業だね。我々マッシィータからすれば、魔法砲撃銃も高威力で高水準。だけど耐用面で難しかない。

うちのbelieve7が君の火炎弾を100発撃てるなら、オンボのsuspectシリーズの最新モデルだと50発撃つ前にバレルが焼け落ちる」


「威力は?」

「まあbelieve7の80発に相当するからパフォーマンスは悪くないさ。でもコストが良くない。向こうこのsuspectを3個買うとウチのbelieveは4個買えてしまう。本社の開発部に言わせればsuspectは玩具だそうだよ」


「薬品なんかも?」

「そうだね。ウチで作るものよりは効果は見込めるが、トゥシバーの薬品からしたら見劣りするね。食材も加工技術はサヨンの方が凄いね」


ヒグリの話では後は使う連中のフィーリングに依存するから、コストパフォーマンスではなく一定数suspectを選ぶ奴らも居るという話だった。



オンボのホームに着いたのはひと月後の事で、そこにはトゥシバーのカンノもいて「そうなるな」と思いながら話を聞くと、トゥシバーの建て直しはまだ時間がかかると言われた。


「なんとかまた来てくれないかい?」

「俺じゃ決められません。ヒグリに相談してみては?」


ヒグリは「航路の変更と報酬が出るならですかね?それでうちの船とランデブーするまでの間とかじゃないですか?」と言っていた。

慌てるそぶりの無さから前もって決めていたのだろう。


「助かる」と言ったカンノがぼやくように「報告書で済まなかったのは初めててだ」と言う。


俺が聞くと、アオみたいに壊れたクルーが事件を起こす事は珍しくなく、その際にはあれば証拠映像と報告書の提出で許される。


「まあ今回は規模が規模だからかな」

その言葉を聞いている俺に、ヒグリが「ノウエくん。サヨンの事件もうちの2番艦の件も報告されているんだよ」と教えてくれた。

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