第25話 猟奇殺人。
風俗室の仕事は何処の企業も変わらない。
危険な薬物を専門に扱うホンシャーは少し違っていて、性技術を仕込んで、特別な陸上戦艦、風俗戦艦を用意してランデブーした企業に一晩いくらでクルーを貸し出すが、それ以外は重役達の性欲解消の為にいる。
刺激というものは慣れれば更に強いものを求める。
キツミがいい例だ。
初めは生娘らしい初々しいものだったが、今は喜んで俺の上で拙く腰を振り俺を求め、俺の動きについて来ようとする。
その刺激に慣れたら更に新たな刺激を求める。
風俗室の刺激になれた重役達は更なる刺激を求める。
人の欲望に際限はない。
狂った重役達は初々しい奴らを壊して遊ぶ。
アオやキツミは良い玩具になるだろう。
だがキツミは俺のメイドとして夜伽部に居るから守られているがアオはダメだ。
そしてアオの見た目はごく普通。
愛でようという者は少ない。
そうなれば簡単だ。
仮に薬物耐性も4ランクあればマシだが、初っ端からハードな目に遭わされる。
興奮剤の過剰投与で壊れた蛇口のように精液を垂れ流す目に遭うかもしれない。
中には自分の機能が低下したからとアオに薬を打ち、自分の妻を抱かせる奴や、風俗室のクルー同士に交尾をさせて一晩中休ませない奴なんかも居る。
そんな話をヒグリから聞いて俺なりの解釈で想像してしまう。
俺にはアオを救う事は出来なかったのだろうか?
その気持ちをヒグリに伝えてみると、ヒグリは悲しげな顔で「もしかしたらあったかも知れないね。でもその為に君の復帰が遅れてしまったり、君が潰れたらマッシィータの損失は計り知れなかったよ」と言った後で、深呼吸をして「いいかい?その流れにはならなかった。それだけなんだよ。ならなかったんだ」と言った。
それでも何かができたのかと思いながらも一週間を過ごす。
メイドは不要にして貰って、各部署に顔を出して挨拶がわりに仕事をすれば喜ばれるし、早速指を失った戦闘部のメンバーを治して感謝をされた。
6日目の夜。
翌日にはトゥシバーとランデブーだと思っていると緊急通信が入ってくる。
ヒグリとウキョウが申し訳なさそうにやってきて、俺に「トゥシバーの船で猟奇殺人が起きた。被害者は多数。犯人は被害者の1人が相打ちにしてくれた。トゥシバー側からはノウエ君にもう一度乗艦してもらってホームまでの操艦を頼めないかとの事だった」と言った。
嫌な予感がする。
何故か何万人も乗る船なのに近しい人間に被害が出た気がしてしまう。
「被害者は?」
「風俗室にいた重役とクルー。治療に当たった治療部のクルー、そして制圧を行った戦闘部と各種ポジションのクルー達だ」
ウキョウの言葉に嫌な予感が確信に変わってくる。
「犯人は?」
「4ランクでテストクルーに選ばれていたアオと呼ばれる14歳の少年だ」
俺は足元が揺れて崩れた気がした。
事の次第は簡単だった。
風俗室で堂々と性行為を行う時でも監視カメラは用意されていて、狂った重役なんかは監視カメラに見せつけるように行為をするので全てが写っていた。
散々薬物耐性があるからと危険薬物を投与されたアオは親に売られて帰る場所が無いから船に残る為と言い続けてどんなプレイも受け入れていた。
だがアオの心は疲弊しすり減っていき、最後には壊れてしまった。
百人組手と呼ばれる百人を相手に攻めも受けもさせられたアオは、気絶から目覚めると豹変していた。
起き抜けに戦闘部で培った能力で風俗室を血の海に変えて再度気絶をする。
監視カメラを確認せずに異常事態というだけで駆けつけた治療部のメンバーが、まだ生きているアオに気付いて起こすと、アオは見知った治療部のクルーに襲いかかって殺してしまう。そして全裸のまま外に出て散々仕事をしてきた部署に顔を出すと目に付いた連中を殺して行く。
かろうじて助かった奴の話ではずっと俺を探していたらしい。
そして奴は俺を探すあまり、俺が使っていた部屋に行きキツミを襲った後でマチを殺した。
7ランクのマチがそんなに簡単に死ぬ訳がないと思ったが、その顛末もバカすぎて頭を抱えてしまった。
アオの奴はキツミを襲った足で俺を探してマチの所に行く。
そして居ないと言われると隠すなと騒ぎ立てて刺突槍を寄越せとマチに襲いかかる。
アオは氷魔法で生み出したナイフをマチに刺して勝利を確信した所を、マチの手で首を掴まれて「バカが、飛びかかって満足すんなと教えただろうが」と言われながらへし折られてアオは死んだ。
マチの方は当たりどころが悪くて出血が止まらない。
本来なら治療部に行けばいいし、トゥシバーには再生部もある。
だがそれは愚かな重役とその家族に阻まれた。
死んでいるにも関わらず、重役が死ねば船を降ろされる家族や、家族を失いたくない重役は死体に向けて治癒魔法を使え、再生魔法を使えと迫る。
まだ生きていると言い続けてだ。
その結果、マチは手遅れになった。
俺を1人には出来ないとヒンが帯同して、トゥシバーの地上戦艦に乗り込むと清掃部が夜通し掃除をしたのだろう。
惨劇の痕跡は無くなっていた。
キツミには後で会えるからと先にマチの遺体に挨拶をしに行くと、マチの横には顔を知っている連中の遺体、そしてキツミの遺体が居た。
足元が大きく揺れた。
ヒンが俺を支えて倒れないようにしてくれた中、カンノが手紙を持ってきてくれた。
それはキツミの遺書だった。
遺書は簡単に言えば俺への謝罪が震える字で書かれていた。
アオに襲われてしまった事。
キチンと拒絶をした事。
それでも襲われて、せめての抵抗で無反応を決め込んだが薬物を投与されてしまった事。
その中で「気持ちいい」と口にしてしまった事。
自身の薬物耐性では無毒化できなかった事。
そんな事が震える字で書かれていて、最後に俺への謝罪、そしてあの初めての日の感謝と喜びが綴られていた。
気付いたら俺はキツミの首を撫でていた。
くすぐったがりで、すぐに「くすぐったいです」とニコニコと笑うキツミを思い出していて、今にも「もう。くすぐったいです」と言いそうだった。
まだマチは一晩の準備期間もあったし、キツミも居ると思っていたから余裕があったがキツミは突然過ぎた。
首には痛々しいひも状の何かの痕。
個室には監視カメラが無いから発見が遅れていた。
ようやく医療部のメンバーが、襲われたのなら妊娠をしていないようにと薬を持って来てくれたところで発見をされていたとカンノが教えてくれた。
カンノの説明が聞き取りにくい。
誰だうるさい奴はと思ったら俺が叫んでいた。
「ここで潰れるな。早くホームに連れ帰ってやって、綺麗にしてやって葬儀をしてやろう」
ヒンの言葉に従って再生魔法を使い、マチの腹の傷もキツミの首にできた紐の跡も、それ以外の連中の傷も全て消すと俺は動力部に顔を出して全力で船を走らせた。
周りの制止も無視して艦を走らせて、会敵すれば1番に飛び出して魔物を倒す。
そうして予定より半日も早くホームに着いた所で、俺はマッシィータに帰ろうとしてヒンに怒られた。
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