第24話 充実した日々の裏側。

再生部の仕事を手伝いながら各部署の仕事を手伝う。


多少のオーバーワークは認めさせたし、それはトゥシバー側も願っていた事だが、報酬の話になると渋い表情をされたので、俺はアオと同じ現場にしない事を条件にして、それだけで日々2時間からのオーバーワークを認めさせた。


キツミとの体験が俺を上向かせたと思える。

今まで以上に力に満ちていた。

2時間のオーバーワークだが、1日分の働きになってしまうらしく、カンノは「それがあのアオと組ませないだけでいいのか?」と困惑していた。


それは本当に前向きな事で、マチは嬉々として受け入れてくれて、ヤキモチどころかキツミに感謝までしていた。

一度挨拶をしたいと言われたから、俺はキツミの許可を取ってから各部署へと連れて行った。


キツミは真っ赤に照れて居たが、マチから「お前のお陰でノウエがやる気になってくれた!私もノウエに惚れ込んだが、私だけではこの成果は得られなかった!感謝している!これからもよろしく頼む!」と言われて、首がもげるくらい縦に振っていた。


マチとの訓練も充実していた。

あえて倉庫の奥にしまってあった型落ちの刺突槍を使う俺と、最新型の刺突槍のマチの模擬戦はかなり拮抗したが、最後には刺突槍を折られた俺の負けになったが、悔しさはないし充実感しか無かった。


マチとの夜にしても、「私を受け止めろ!」、「私に受け止めさせろ!」と言われたままに没頭をしたら喜ばれてしまい、朝を迎えて2人で朝日を見て、「朝だ」「朝だな」、「何時間してんだよ」「本当だな」と言ってから、バカ笑いをしてしまえるくらいの仲になり、「それがお前の本当の顔だな。見せてくれて嬉しいぞ」と言われ、照れた俺はかつてリーヤがしたようにキスをして誤魔化した。


メンテナンス部で磨いた鉄板を使ってのバーベキューも好評で、恐ろしい速度でマツザウロスは消費されていくわけで、オオワは本気で喜び、これまた俺を上向かせたとキツミは感謝をされてしまう。


マチと被らない日は仕事を延長して遅く戻り、食事を共にしてそのままキツミを抱いて風呂に入り眠る。キツミがたまに焼いてくれるクッキーがあると、俺の機嫌はさらに良くなってしまい、カンノは隠れてキツミに感謝を伝えていた。


再生魔法の方は虫歯だらけの重役の子供の歯を全て再生させる事に成功した。

これは相手の体にある素の情報に準える事で成功させる事に気付くと早かった。


セキヤは「もう歯も治せるなんてな。歯は口の中にあって外に出ていない分、手や指より面倒なのにな」と言って俺を褒める。


「相手の体に任せるといい事に気付きましたから」

「成程な、教えなくても気付くとか凄いな」


「ありがとうございます」

「いや、見えない所が治せるなら後は回数をこなすだけだな」


「そうなんですか?ありがとうございます」

俺が感謝を告げるとセキヤは「ふふ」と笑う。


「セキヤさん?」

「お前さん…うちに来た時の悲痛な顔がすっかり晴れたな。そんな顔で礼まで言えるなんてな」


俺は自覚していない事だが、それもトゥシバーに来れた事のお陰だろう。

あのままミカとシーマの痕跡のあるマッシィータにいたら、立ち直るのはいつになった事だか…。


俺はまた日常に戻る事になる。

アオがメタメタにした箇所にフォローで入り、マチやキツミを抱いて過ごす。


キツミはだいぶ慣れてきて積極的になってくる。

初々しさの残るキツミも良かったが、今のキツミも良くて日々に刺激と張り合いを感じていた。

それから1ヶ月半程してマッシィータの1番艦が近くを走るので、俺は報告を兼ねて出頭をした。

近くを走ると言われても1日の距離はあったし、俺の為に航行を止める訳でもないので完全に街でランデブーをするまでは一週間だがマッシィータで過ごす事になった。


俺の顔を見てヒンやヒグリは復調を喜んでくれて、ウキョウに頼まれた俺は魔法封じを実践して「これが…、凄い経験だ。感謝する」と言われた。


カンノのまとめた報告を見て、ヒグリが「凄いね。再生魔法まで習得できるとはね…。後天的に魔法を得られるのは稀なんだが、君にかかると稀が嘘に思えてくる」と言う。


「それにこんなにやれることが増えると待遇面をどうするか悩むね。重役と同じ部屋に住むかい?」

俺は正直その言葉を待っていた。


重役達の部屋には興味が無かったが、この機会に頼めるなら頼みたい事があった。


「ふたつ、頼めませんか?」

「お、君からとは珍しいね。言ってくれるかな?」


「ひとつはこれからも出向したりしたい」

「成程、発見や勉強は大切だ。言い方は悪いが、君を貸し出せば他企業からの報酬も大きいから、マッシィータとしてもありがたいね。上申しておくよ」


これでトゥシバーに行った時はマチがひとり者ならまた共に過ごせる。


「ふたつめはトゥシバーで俺のメイドをしてくれた、キツミという娘をマッシィータに引き抜いてくれませんか?」

「……それでいいのかい?」


俺が聞き返すと、マッシィータに戻った時のメイドが決まっていなかったので、ヒグリ達は頭を悩ませていて逆にキツミを連れてくる事を提案しようとしていた。


ここで俺はキタコの事やビーコの事が少しだけ気になって聞いてみた。


キタコに関しては下船してホームの病院にいるらしく、本人に俺との結婚の意思はなかった。

本人もその家族も俺の子を産む事で生活が保障されただけで十分だとの事だった。


ビーコに関しては次の寄港で下船するはずだとの事。

なんでも2番艦の航路が変更になって、ヘタをすると船の上で出産もあるらしい。



世間話の中で、ヒグリがコーヒーを出しながら「でも大変だったね」と話しかけてきた。


「大変?」

「君を再び生み出そうとするアプローチさ、4ランクの男の子が当てがわれたんだろ?」


アオの事だと気付いて「ああ、あれはアオに問題がありますよ。能力は高まっていたから考えは間違いではなく、間違いなのは人選です」と言うと、「本当だね。報告を受けて我々もそう思ったよ。トゥシバーからは新しい子を選ぶからもう一年の延長を申し出られたが、ウチとしては君をいつまでもひとつどころに置けないからと断っておいたよ」とヒグリは返す。


正直キツミ達と居られるのは嬉しいが、またアオみたいな奴の面倒を見させられるのはごめん被る。

こうしてみると俺も欲張りになったなと思ってほくそ笑んでしまった。


俺の顔を見ながらコーヒーをひと口飲んだヒグリは、「だがその4ランクの彼も行くアテがないからと、どんな仕事でもするなんて売り込み方は頂けないよね」と言ってため息交じりに遠い目をする。


「は?」

「おや?聞いていないのかい?半月前にカンノ氏からダメ出しを受けた4ランクの彼は、次の寄港で船を降ろされる所だったのに、「帰る場所なんてないから」、「なんでもするから船に残りたい」なんて言ったんだそうだよ」


知らなかった。

確かにどの現場に顔を出してもアオの損害や被害の愚痴は聞いたが、それは聞き慣れたものばかりで最新のものは無かった。


嫌な予感がした俺は、ヒグリに「アオはどうなったんです?」と聞く。


「どの部署も受け入れを拒否していたんだ。どんな条件でも受け入れない。それこそ君がセットならまだしも、君抜きで受け入れる部署は陸上戦艦には一つしかない」


その先を聞きたくなかったがヒグリは続けた。


「風俗室さ」


俺は耐え難い気持ちの悪さに吐き気を催した。

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