オンボ

第27話 オンボに居た敵。

本社ビルに行くと、コウワという40にもなっていない見た目の重役が査問してきた。


「うふふ。そう緊張しないで」

シュッとしたスーツ姿のコウワは女性で、緑がかった髪をアップにしてそう笑いかけてきた。


「女…」と思わず言ってしまった俺に、「あら?男じゃないと信用できない?」とコウワが微笑みながら聞いてきた。


「そうじゃないです。事件は風俗室で起きたから…」

「あら、優しいのね。大丈夫よ、報告書は目を通したもの。オーバードーズと狂ったセックスで壊れた暫定4ランクの少年が、重役、クルーを無差別に千人近くを惨殺した事件。風俗室が現場だから何があったかくらいは察しもつくわ」


コウワはニコリと笑うと、「それに私はオバさんよ?生娘じゃないわ」と言った後で、「問題はそこじゃないの。その為に来てもらったわ」と言うと、俺をみて「ノウエ・マッシィータくん、まあ前ならノウエ・サヨンくんね。君はハッキリ言って異常で、各企業の注目の的よ」と言った。


そもそも俺達には苗字はない。

それは重役達も同じで、今は全員所属企業の名が名字になる。

巨大な運命共同体。


「今回の事件、気になるのか各企業が報告書の閲覧をしていて、閲覧数がとんでもないのよ。後は君が関わったサヨンのオーバーホール偽装事件と、マッシィータの2番艦ストライキ事件の閲覧も過去類をみない閲覧数よ」


「何がですか?」

「自覚ないのかしら?それともフリかしら?皆は言わなかった?サヨンの地上戦艦ではどの部署でもほぼ1人で運用し、オーバーホールをしなかった崩壊寸前の艦をホームまで無事に完走させるなんて人間業じゃない。しかもマッシィータのbelieve3を壊すなんてね。そしてマッシィータの2番艦を4ヶ月も単独運用するなんて聞いた事がない。報告書にあったわ。7ランクの風使いの風を封じ込めたんでしょ?規格外だわ」


どうにもこの女の距離感が気持ち悪い。

ニコニコヘラヘラとしながらも目は笑っていない。


俺の空気を察して、ヒグリが「コウワさん。早く本題に入っていたたけますか?」と割り込んでくれる。


「うふふ。ごめんなさい。噂の彼に会って年甲斐もなく興奮してしまったわ。ヒグリさんには彼を長く見た見解を、カンノさんにはトゥシバーでの彼の事を伺いたかったの」


「これはアオの事件の聴取じゃないんですか?」

「あら、そうよ」

俺は苛立ちながら「なら俺の話は関係ないですよね?」と言うと、食い気味に「あるわ」と言われてしまった。


「今、どの企業もノウエ…あなたと言う存在を求めている。どの仕事もこなし、どの魔法も高ランク。しかも本人の才能もあるとは思うけど、後天的に授かった能力を見たら、皆あなたの再現をしたくなる。だからトゥシバーはアオという、あなたがサヨンに行った時と同じ14歳で当時のランク、推定4ランクの少年を陸上戦艦に送り込んだ。そうでしょ?」

指をおりながら教師が説明をするように話すコウワ。


「…それで?」

「簡単よ。各企業が軒並み失敗して、あんな惨事に見舞われない為に、本人と、詳しい人間と、ノウエとアオの2人を見た人間の意見が欲しくて呼んだのよ」


ようやく合点が言った俺はヒグリを見るとヒグリは頷く。

前もって今の取りまとめはオンボなので逆らい難いと言われていた。

協力するしかない。


俺とヒグリを見て満足そうなコウワは、「ありがとう。さっそく聞かせて」と言って「ノウエくん。君の目から見てアオ君の試みは成功?失敗?」と聞いてきた。


「試みは成功で人選は失敗です」

「ふふ。ありがとう。私もそう思っていたわ。カンノさん、あなたから見てどう?」


「各部署からの報告はどこも同じです。鍛えた分だけやれる事が増えたが、本人の問題でこれ以上は伸び悩む。私もそう思いました」

「ありがとうございます。ヒグリさんはどうかしら?」


「僕も皆と同じ見解です。未成熟の14歳の時から各部署を回らせれば能力の底上げは見込める。だが同時にどこまで伸びるかは本人の素養に依存をするし、アオ氏のように壊れる可能性がある」


うんうんと頷いたコウワは「そうなりますね。こちらで依頼してアオ君のご遺体に能力検査を行った所、彼のランクは6になっていた。ただこれが薬物の影響かも知れない」と言った。


6ランク。

だからマチは当たりどころの問題もあったが、回避を選べずに肉を切らせて骨を断つ戦法に切り替えたのか…。


「ノウエくん、薬物強化をどう思うかしら?」

「多分効果はない。あっても微々たるものだし、壊れる可能性の方がある」


「そうね。だけど企業は手っ取り早く君を求めるわ。だけど危険もある。だからマッシィータもトゥシバーも君にパートナーを用意して子種を求めた。生まれながらの高ランク体を求めた実験ね」


実験とか聞きたくない。

聞いていてイライラしてきてしまう。

そんな俺の耳に「奥さん達は皆残念だったわ」とコウワの言葉が入ってきた。


「何?」

「取りまとめとして極秘裏に調査を依頼したのよ。リーヤ・サヨンさん、ミカ・マッシィータさん、シーマ・マッシィータさん、キツミ・トゥシバーさんもマチ・トゥシバーさんも皆妊娠していたわ」


「…なに?」

「まあトゥシバーの2人は自覚症状も出る前だったけど、多分貴方は生殖能力が一般人より高い。だからパートナーは軒並み妊娠したのよ」


もう聞いていられなかった。


「黙れ…」

「あら、怒る事ないわ。あなたの力があれば、この世界から魔物を排除して、あなたの因子を持つ強い子で満たせば人類の復権はすぐだわ」


「黙れ!!」

激高する俺の前に出たヒグリが、「コウワさん。あなたの質問ではうちのノウエが心を乱します。今日のところはここまでにしてください。ノウエと同じ能力を得るための育成なんかには協力しますが、それ以外の話はやめてください」と言う。


「あら、ごめんなさい。年甲斐もなく興奮してしまったわ」


コウワは嘘くさく笑うと、「ノウエくん。個人的なお話がしたいから、夜にもう一度会えないかしら?」と言ってきた。


「コウワさん!」

「安心してください。私は彼に何かしようなんて思いませんし、仮にノウエくんが私に惚れてくれても、私には生殖能力がありませんもの。単に私の研究を見てもらいたいんです。彼は後天的に再生魔法も手にしたんですよね?私の仕事も見てもらって意見が欲しいんです」


ヒグリは自身の権限ではオンボの重役にはこれ以上言う事が出来ずに、俺に意見を求めてきて「ノウエくん…」と声をかけてくる。


俺はもう色々と諦めてしまい「わかった。行けば良いんだろう?」と言うと、ヒグリは「〜〜っ!」と唸りながら抵抗を諦めた。


「だが何を見たかの報告はする。構わないですよね?」

「ええ、きっと素晴らしいと賛同頂けるもの」


コウワの笑顔を見て俺はコイツは敵だと確信していた。

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