第11話 よくない話。
船はフルオーバーホールが必要になっていた。
それもあってかマッシィータの船もサヨンから出て行かない。
サンワさんから聞いた話では、仮に魔物が逸れ込んだ時のために防衛を頼んだらしい。
急ピッチでオーバーホールを行っても3ヶ月の時間が必要で、皮肉な話だが壊れ方が見事過ぎて、オーバーホールを怠るとどうなるかの見本ようにしたいとどのメーカーも壊れた物を持ち帰る事になった。
3ヶ月も家にいられない俺は、理由をつけては船に顔を出す。
カスカンさん達…部長クラスは休みなく船に訪れていたので、誰かしらの手伝いをしていると気が紛れた。
キーバッハさんから「よくない話になった」と言われたのはリーヤの葬儀から一ヶ月後の事だった。
よくない話は2個あった。
1個目はオーバーホールを怠ったせいで船体へのダメージがより深刻で、本来なら交換の必要のない配管関係まで交換が求められてしまったり、浸水や漏電の後始末をすると最早新規で建造し直した方のが早い話になっていた。
2個目…正直これは二つに分類できるから、良くない話は3個かも知れない。
2個目はオーバーホール代金が予算の何倍もかかる事で、そうなるとハウスバッファローを消滅させた事が問題になった。
そして金が必要な事と、マッシィータの連中が単騎であの力を見せた俺に興味を抱いてしまった事で、水面下で身売りの話が出た事。
俺の身柄は既に親の手でサヨンに売られている。俺に拒否権はない。
親達の扱い次第では良くない流れになる。
「既にマッシィータはお前が壊したアンカーと魔法砲撃銃、それに刺突槍を頭のおかしい値段で買い取っていった。武器産業がメインのマッシィータからすると相当気になるらしい」
「…なんか世の中上手くいきませんね。こんな言い方はアレですが、リーヤが助からないのに力を見せてトラブルになるなら、やらない方が良かったですかね?」
愚痴るように聞こえてしまったのだろう。俺の言葉に「そんなことはない」、「そんな事を言うな」と言ったキーバッハさんは、「だが聞かせてくれ」と言うと俺の力について聞いてきた。
「資材部で荷運びを6ランク扱いの4ランクだからと全部1人でやらされました」
「部長のトルアノは?」
「黙認です。ガス抜きですよ。先に言うと他の部長クラスも皆そうです。キーバッハさんも最初はアズギンの可愛がりを黙認してましたよね?」
これに何も言えないキーバッハさんに、「水質管理部も発電部も冷却部も同じです。6ランクだからと全部1人でやらされました。発電部はあのアンカーに打ち込んだ雷魔法を長時間やらされました。冷却部も同様です」と続けて、「そんな中で生きられるようにしてくれていたのが、サンワさんとリーヤの動力部です。初めにあそこに配属されなければ俺は死んでましたよ」と言った。
そんな俺の元に出頭命令が来たのは3日後の事だった。
サヨンの本社ビルに行くと、笑顔の重役と渋い表情の重役が居る。
誰が誰とかは知らないが一際笑顔のスミセンという重役は1発で覚えた。
まあ簡単に言えばフルオーバーホール…最早建造の為に俺を身売りする話が飛躍して、俺をマッシィータに渡せば好条件でサヨンとマッシィータが合併する事が出来て、数人の重役がマッシィータの陸上戦艦に住む事が許されて、逆に身分の低いマッシィータの重役が出向という形でサヨンにくる事になる。
名目上はオーバーホールをする陸上戦艦の新しい設備を満喫する事が出来るが、規模が違いすぎる。高品質でも二級品は所詮二級品で一級品には及ばない。
俺が行けば合併するマッシィータも建造費を払う事になり、サヨンの連中は懐が痛まずに快適な暮らしが約束された。
これからはマッシィータも食糧事情が改善されて、サヨンはアンカーも魔法砲撃銃も新型が支給される。いい事づくめだ。
俺以外は。
会議室に居たメンバーの中にあの日居た男が居た。
名前はウキョウと名乗ってきた。
「先日は良いものを見させて貰った。てっきり戦闘部所属だと思い調べさせて貰ったが、所属部署が存在しないとは思わなかった」
「まあ、色々ありますので」
「それはこの後で時間を貰えるね?我々は君を破格の条件で引き抜かせて貰う事にしたよ。この世界では珍しい事ではない」
「…俺の身柄は親がサヨンに売り渡しましたので、俺にはどうする事も出来ません」
すぐにウキョウが手配したのだろう。親には好条件が提示され、俺がマッシィータに行っても変わらないどころか、サヨンでの7ランクの待遇を約束されてしまうし、仮に俺が死んでもランクダウンも発生しない。ようは永世7ランクが保証され、それは両親の死まで続く事になる。親は二つ返事でそれを受け入れて俺に何一つ聞かずに俺をマッシィータに売り飛ばした。
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