第10話 ネクタイとハンカチ。
下船許可が降りたのは、証拠保全や事態の収拾をマッシィータの連中が請け負ってくれたからだった。
その代わり監視はついた。
マッシィータ側は魔法砲撃銃の貸し出しだけでは報酬が貰えないという理由だったが、滅多にない他社の陸上戦艦へ入れるチャンスを逃したく無かったのだろうとナンセンは教えてくれた。
下船に際してリーヤの部屋をサンワさんと片付けた。
俺は部署の決まらない根無草なので部屋は無いが、特定の部屋があれば私物もある。
ほんの数日前にはこの部屋でリーヤの性欲処理に付き合った。
シーツを替えて貰うように言ったのに、「良いんだよ。綺麗だと汚す事が気になるだろ?1週間このままで、最終日に出した方が洗う奴も喜ぶ」と返したリーヤを見て、「このペースで汚したら雑巾送りだよ」と思ってしまった。
汗や様々な汚れが残るシーツを見て、サンワさんが「若い女がだらしない」と肩を落として、「お前、1人で片してやれよ」と言ったが、俺は「別にリーヤは気にしませんよ。俺はリーヤのアダルトグッズだっただけです」と言って、ベッドの下から本物のアダルトグッズを出して見せると、「だから…、若い女がなんてもん持ってんだよ」と赤くなっていた。
机に置かれたカレンダーを見るとハートマークが付いていた。
「お前とした日か?若いってのは凄いな」
サンワさんの声を聞きながらカレンダーを見ると、単純に共に働いた日にもハートマークが付いていた。
「これ、それ以外の日にもハートが付いてます」
俺の言葉に「アイツは不器用で照れ屋だからな。お前が動力部に居るだけでハートなんだろ?」とサンワさんが言ってきたので、俺は照れながら「サンワさん、俺は荷物を持たないから、このカレンダーを形見分けで貰ってやってくださいよ」と言って貰ってもらった。
「お前もなんか貰ってやれよ」
そう言われた俺は「無くすかも」と言ったが、それでもとサンワさんから言われてリーヤが気に入って使っていた赤いハンカチをもらう事にした。
アダルトグッズも含めてリーヤの親に渡すと言うとサンワさんには引かれたが、最終的には納得をして貰った。
下船はそれからすぐだった。
漏電、浸水、火災、爆発の危険性があるとマッシィータの連中が言ってくれて、オヒロがようやくそれを受け入れた。
だが家には帰れない。
式典用の講堂に集められる。
とりあえず船からは全員退避させられただけだった。
リーヤの亡骸すら帰れずに俺が氷魔法を使って腐敗を防いだ。
下船から2日後に犯人が見つかった。
犯人は重役に後一歩及ばなかったオヒロの部下でランクは10。街では最高級の高層物件に住んでいるキッジという男で、働かないオヒロの代わりに全てのオーバーホールを手配して、ガワのみの交換で中は何もせずに差額を横領していた。
供述通りなら移動戦艦に乗り込めないなら金策をして他社の移動戦艦に重役として乗ろうと思ったらしい。
当然、国家なんてものは存在していない。
証拠が集まり次第キッジは家族共々処刑されることが決まった。
2年ぶりの家に俺の場所はない。
兄さんの写真に挨拶を済ませると名ばかりの自室に篭る。
まだリーヤの部屋の横にあったあの間借りした部屋の方が馴染みがある。
そしてリーヤの葬儀にだけ顔を出した。
俺が行く前にカヤさん達が余計な事を言っていた為に、リーヤの家族や友人からは泣いて感謝を伝えられた。
別に俺は何もしていない。
助けられなければ意味がない。
結果が全てだった。
リーヤの家族から棺に入れたいから何かくれないかと言われてネクタイを渡す。
棺に入るネクタイを見ていたら「ノウエ、お前もっと気の利いたもの…。まあ私たちじゃ無理だな。ボスを任せた」とリーヤの声が聞こえた気がした。
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