第22話 変わる日々、変わらぬ日々。

俺の調子が上向いて来たので、ヒグリから言われていたトゥシバーの再生魔法を体験させてもらう事にした。


医療部とは別に再生部と言うのが用意されていて、部長クラスや申請が通れば船員達も機械を使わない再生治療を受けられるという話で、部長はセキヤというオッサンだった。


「見事な火柱だったぞ。あの力を再生治療に転化できるのなら、数多くの人が救われるだろうな」

「そうですか?とりあえず再生魔法ってどう言うものなんですか?」


俺の質問にセキヤが答えてくれたのは、簡単に言えば再生機自体が再生魔法を機械に転化したもので、魔法で培養液と同じ成分を作り出して欠損した肉体や損傷した内臓を再度生み出すと教わる。


「再生機があれば魔法は不要なんですか?」

「そんな事はない。再生機は時間もかかるし治せないケースもある。だが再生魔法なら速度も成功率も段違いなんだ」


そう教わった俺は、再生魔法をセキヤに教わりながら半月ほど再生部に入り浸り、他の部署からセキヤが悪く言われてしまう事になる。

だが再生魔法というものがつかめて来たと思った時、タイミングよくと言うかアオの奴が戦闘部の訓練中に魔法砲撃銃の暴発で手首から先を失ってしまい、俺の練習台と言うと感じが悪いが、練習台としてやってみると無事に腕の復元をすることができた。


アオは泣いて感謝を告げて来たが、どうにも顔には「やって貰えて当然」、「やれるならやって貰う」という気持ちが滲み出ていて達成感は削がれた。


マチに話を聞くと、アオは周りの話を一度で覚えようとせずに、周りが手をかけてくるのが当たり前くらいに思っていて、今回の怪我にしても、恐らく火魔法は動力部の仕事もやっているから威力が上がっていて、今までの魔法の込め方だと怪我をすると言われていたのに、話を聞かずに火魔法を込めて暴発していた。

外での訓練だからまだ良かったが、室内なら何人も怪我をした事故になっていた。


「アイツ…」

「どこの部署でも似たり寄ったりみたいだ。ハマれば良い成績を出すが、無駄にこだわると身動きが取れなくなるし、急ぐという言葉すら意味を無くす。一瞬水瓶の中が危険水域になりかけた事もあったそうだ。更に言えば仕事が遅いせいで勝手に手を抜くらしい。それが見つかって大事おおごとになればまだよし、見つからなかったらどんな騒ぎになっていたやら…」


「騒ぎ?」

「食材の品質管理を怠っていて、アイツの代わりに調理部の奴らが余計な仕事を被ったと怒っていた。あわや重役に出すスモークの食材を古くなったもので出す所で、判別魔法持ちが見つけて何とかなったと聞いた」


聞いていてクラクラして来た。

ルールは守るからルールで、守るから用意した意味もある。

アイツのは家に帰らせる時に、赤信号を守るように言って帰らせるとして、事故が起きたら守るように言いつけた人間のミスになる事だ。

しかも本人は守っていると言いながら、歩くのが遅いから早く帰りたいからと赤信号を平気で無視する。

アイツを無事に返す事も、赤信号を守らせる事も、リソースを割かなければならなくて関わった奴だけに負担がいく。


一言でいえば戦力外。

トゥシバーの重役は、キチンとした判断で奴を下船させて次の候補者を立てるべきだ。


現にアオですら能力値は伸びている。

きっと14歳で4ランクの奴を持ってくれば上手くいく。それを理解して速やかに交代させるべきだ。


難しい顔をする俺に、マチが「なあ…いつ戦闘部に来る?身体が疼いて堪らん」と言って俺の顔を見る。


「どっち?」

「両方だ。今度は対犯罪者用としてアンカーを引き合わないか?お前のテクニックと私の力、どちらが強いか戦い合おう。そして昂った身体をぶつけ合おう!」


「…どうして俺の周りにはこんな奴しかいないんだ?」

そう思いながらも、マチと過ごす時間は割とサバサバしていて悪く無いので、「了解。カンノには言っておく。再生部の後で行ければ行く。ただアオの後始末があるかも知れないから期待しないでくれ」と伝えておいた。

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