トゥシバー

第21話 トゥシバーの日々。

トゥシバーの船とはわざわざ航路を変えてランデブーした。

俺を引き渡す時、ヒンがトゥシバーのキゴシという治療部の部長に俺のカルテを渡して説明していた。



バシン達が見送りに来て、「早く帰って来いよな」、「そのままそっちに住みたいとか言うなよな」と言ってくれて少し照れた。


今回のスランプがどう影響するかわからない点から、ナンセンは居なくなっても俺は全部署を回されていく。


今は6ランクくらいの力しか出せないが、それでも重宝がられた俺は、カンノと言う管理部の奴預かりで部署配置をされた。


今回の日々で困った事は大きく分けて3点あった。

俺の話はマッシィータから回ってきて居たのだろうが、だからと言って部屋とメイドを用意するのはどうかと思った。

メイドはミカやシーマ、ビーコにキタコと比べてしまうと見た目は劣るし、メイドの仕事も拙い。それもそうで今年から陸上戦艦に配属された17歳の新人で、生娘だからと俺に渡された少女でキツミという名前だった。


出会い頭、2人きりになった時に「い…いつでも申してください!は…初めてがノウエ様で嬉しいです」とやられて頭を抱えた。


そして二つ目は戦闘部の部長がマチという筋肉質の女で、歳は「聞く気か?私は29を過ぎてから数えていない」と言って誤魔化して来た。


「心の疲れで落ち込んでいるんだって?そんなもんは筋肉と運動だ!相手してやるから模擬戦だ!」と言われて2時間ほど刺突槍の模擬戦をする事になった。対人戦闘の訓練が少なく、魔法を使わない筋肉対筋肉の戦いは初めてで苦戦したが、2時間してようやく勝った俺に、マチは「惚れた!」と言って皆の前で俺を抱きしめてキスをしてきた。


他のメンバー達が冷やかしてくる中、目を白黒させる俺に「心の疲れで落ち込んでいる時は筋肉と運動だ!相手してやるからセックスだ!私にお前の子を産ませてくれ!」と言われてマチの部屋に連れ込まれて襲われた。


「遠慮をするな!」

「甘えてこい!」

「淡々とするな!」

「もっと曝け出せ!」


何を言っているんだと思いながらも見ていると、上に乗って腰を振るマチからいきなりビンタをされた。


「私に合わせるのも大事だが、私にもお前に合わさせろ!」

「何?しかも殴りやがった…」


「殴られて当然だ!痛みで覚えろ!失礼な奴め。お前の好きな動きはないのか?私を見てやりたい事とかないのか!」


何を言われたかわからなかった。

わからなかったが、リーヤの教えだったのかも知れない。満足してもらうまで言われた事のみをしていたし、言われそうな事をしていた。


自分のしてみたい事を試してみた。

マチの反応を見ていたら止まらなかった。

気付いたら没頭していた。

時間も忘れて腰を振っていた。

マチは「そうだ!それだ!」と喜んでいた。


こうして俺の戦闘部での訓練や魔物の討伐に、マチの相手が追加された。


終わってからマチは「結婚?無いな」と言っていて、何故かを聞くと「私はお前に惚れた。それは強いからだ。だがお前はマッシィータに帰る。私はトゥシバーが良い。だから結婚はしない。もし子供が出来たら最強にしてやるつもりだ。今日が最強伝説の始まりだな」と言って豪快に笑っていた。



三つ目が大問題だった。

俺の話を聞いて、試験的に俺と同じ動きをさせてみようと、14で親から売り飛ばされて来たアオと言う男の子が、ほぼ常時の勤務時間中、俺に付き纏う事になった。

ランクは俺を再現する為に選ばれた推定4ランク。

本人に帰る所はないから頑張ると言っていたが、嘘や口から出まかせだと思いたくなるような頑張りだった。


やる気はあるが、あくまで立場はお客様で後ろ向き。やってみろと用意をされて、怪我をしないように見守ってくれて、合図をくれる事なんかをひたすら待っている


忘れっぽいと言い、常にメモを書くがメモを書き過ぎて紛失する。

挨拶の時に、「何回も聞いてしまうかもしれません」なんて言っていたが、聞くの意味を履き違えてる。

もう指差し確認の代わりに俺に確認をさせている。


優先順位を何度教えても考える前に、「ノウエさん、次は何をしますか?」と都度聞いてくる。

そして俺に聞いた事を全面に出して、周りからなぜその作業をしているかと聞かれると、本人に悪意や他意は無いのだが、「ノウエさんに言われました!」と言って責任の所在をズラす。

そもそも質問者はアオの理解度を知りたくて聞いているので、解答自体が間違っている。


俺の名を出しても周りは知った事かと殴る。

すると「ノウエさん…殴られました」と報告に来る。


そんなアオのメモがチラ見えしてしまった時には、もう居ないミカを探してしまった。

「ノウエ様?疲れたんですか?お香を焚きますから少し眠ってくださいね」

そう言われて、あの歯磨き粉みたいにスーッとする匂いのお香か、柑橘の匂いのお香がいい。

その中で眠りたい。



頑張っているのに酷い言葉を浴びせられた。なんで?

殴られた。なんで?

何がいけないの?なんで?

頑張っているのに。なんで?

ノウエさんが助けてくれない。なんで?


見えた部分だけでもそう書かれていた。


「なんで?」じゃない。


頑張りましたに意味はない。

結果を出してくれ。


アオはとにかく仕事が遅い。

合同訓練なんかでは周りの足を引っ張る程度で済むが、1人で周りに人を用意せずにやらせると5分で終わる戦闘用意の訓練も30分かかる。


採点時に動きが止まったことを詰問すると「考えてました」と言っていたが、監視カメラ越しに見えるあの立ち尽くす姿を見て、苛立たないわけがない。


正直ぶん殴りたい。

だが本人が昼食時に漏らした事のある、「僕ってすぐに嫌になっちゃって、心を閉ざしちゃうんですよ」という言葉と、手首に沢山付いている微妙な傷痕が気になって行動に移せない。

下手にリーヤ達の所に旅立たれて、俺に何かあったと疑われると、俺は良くてもマッシィータに迷惑がかかる。


アオの事でわかったのは直接アオと向き合うタイプの人間が相手で、怒鳴られたり殴られたりすると遅いには遅いが動きは格段に良くなる。


アオに直接言いたくなくて、事あるごとに俺に一声かけてくるタイプの人間や、説教や説明に俺を参加させるタイプの人間がいくら言っても、アオの奴は「怒られるのはノウエさん」、「ノウエさんが覚えていてくれるから、聞き逃しちゃおう」、「後でノウエさんに聞けばいいや」くらいにしか思っていないのか成長しない。


アオが根を上げて倒れている隙に、カンノに何度か進言したが、「そうは言われても重役命令だからな…。一応聞くがどうしたら良い?」と言われ、「俺が居るとアイツは俺に依存してくる。ハッキリ言って俺が居る限り今以上育たない」と言って、ようやく話が少し通じて翌週から1ヶ月だけ別行動を取る事にした。


マチとの日、刺突槍での模擬戦で俺は露骨に喜んでいたのか、「どうしたノウエ!今日は激しいな!そのままマツザウロスの討伐では1人で倒してみてくれ!」と言われて心のままに出撃をして、「見せてやる!火炎弾!!」と言って火炎弾を放つと、かつての火力に戻っていて周りのメンバーが目を丸くしていた。


艦内から火柱を見たカンノからは、「…お前が1人で伸び伸びと戦いたくて言ったのか?」と言われてしまった。


そんな事はない。

…はずだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る